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これでも人はレンジャーと言う。  作者: 水乃白雪
第一幕 「レンジャーっていうのは」
7/8

患者だからもう少し優しくしてくれ

 さて、どうしたものか。

 風邪を引いた。

 ヒーローが風邪って格好悪ぃ。

 本人談によれば俺が天辺にいる間、下では激しい戦闘が行われていたそうだ。なんでも、「落ちてきたメガホンが変態して暴走しだしたんだよ!」とのことで。その暴走メガホンを抑える最中、神歌がへまをしでかして、救護ヘリ(特別操縦士付属)を大破させてしまったらしい。普通そこは敵の役割だろうに。助けに来るのが遅すぎるので怒ろうと、上にいる間は考えていたりもしていたが、地上に降りた際に見た四人の姿は、そんな気が失せてしまうほどに傷だらけだった。

 次の日の今日。午前八時十五分。只今ベッドの中。誰もいない密室は、どことなく寂しさを感じられてしまう。つい先日までいた筈の家族は、そこにはもういない。母が、父が妹が、いない。


「…………」


 暇である。

 これによって「強くなろうが風邪は引く」ことが証明された。そんなことわからなくてもよかったのに。今頃四人はどうしているだろうか。ミーティングルームで朝食でもとっているのかな。しまった。今日は俺が朝食当番じゃないか。あー、起きないと。

 そんなことで、だるい身体を起こしつつ部屋を出ようとする。が――。



「おーい、カナメー。朝ご飯持ってきてやった――」



 内と外と同時にドアの取っ手に手をかけたのだろう。違和感なく開いたその先には神歌が立っていた。俺と神歌との距離、なんと0センチ。身長に差がありすぎたせいで、神歌の頭は俺の胸の辺りにポスンと入って来たのだ。


「…………」

「…………」


 密着したまましばしの沈黙。頭がぼーっとしていた俺はようやく事態に気付いて、言葉を返した。


「ああ、神歌、おはよう」

「いや、違うだろそれ! いや、合っているかもしれないけど!」


 怒鳴った神歌は勢いよく後退した。顔がやけに赤い。まさか神歌まで風邪をひいたのでは。


「どれ、おでこを出してみなさい」

「じいちゃんか!」

「お尻を出してみなさい」

「それは単なるセクハラだろ!」

「早く臓器を渡しやがれ。お前には一生かかっても返しきれないくらいの借金があるだろうが」

「そんな憶えはねえよ! お前は闇業者か!」


 どうやらそんなことはなく、いつも通り元気そうだ。つっこみキレキレだ。


「えーっと、朝食持ってきてくれたんだっけ? でもどこにあるの?」

「いや、もしものために扉の横に置いてから開けたから」


 指差した方向に目を向けると、確かにそこには置かれていた。俺の調子の事を考えてくれたらしく、メニューは雑炊だった。――というか、もしものためって何を想定していたのだろうか。いや追求すべきではないか。


「あれ? なんで神歌が俺が風邪引いたって知っているんだ? 俺だってさっき目が覚めて気付いたってのに」

「い、いや、それはだな! なんというか、昨日凍えてたみたいだからな。その、風邪引くんじゃねえのかなー、みたいなことを思っていた訳で。だ、だからな! 別にお前を心配して寝ている間にこっそり様子を見に来ていた、なんてことはないんだからな!」


 なにもそこまで言わなくても。たとえ俺であろうとも、そこまで被害妄想を広げたりはしない。神歌が言うのだから間違いはないのだろう。


「じゃあ、これを作ったのは……」

「私だ。ふふん、ありがたみを持って食べろよ」

「ああ、勿論。悪いな、今日は俺が当番なのに。今度埋め合わせしておくよ」

「いいっていいって。これもリーダーの仕事だ」

「それじゃ雑用じゃんかよ」

「はは、本当だな」


 他愛もない会話。つい先日まで見られた俺たちの日常的会話。考えてみたら、ここ数日まともな会話というのをしていなかった気がする。会議とかじゃなくて、勿論ボケやツッコミでもない。懐かしいこの感覚。つい何かを、なんでもいいから話そうと口を動かそうとするが、風邪のせいで上手く声を出せない。というより、これは結構症状がひどいようだ。さっきからどんどん意識が朦朧としてきている。足もおぼつかないじゃないか。


「それじゃ、悪いけど寝させてもらうな。もう立っているだけで………」

「ほら、肩貸すから運んでやるよ」

「いや、神歌だと肩の位置が低―――」

「ふん!」

「い!? ちょ………病人に股間蹴りは……」

「いいから寝ろ。気を失ったら運んでおいてやるよ」


 ぼやけ出した視界の中でも、神歌の不満そうな顔ははっきりと見て取れた。体調が悪い時は無茶してボケるべきではないな。そんなことを思いつつ気が遠くなる最中、俺の耳には「バカ」という一言が飛び込んできた。最後までとことんひどかった。

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