もう東京タワーなんて行きたくない
「ほ、本当にいいんだな?」
「ああ、いつでもこい」
あれから数分。皆を説得するのに時間が多少かかってしまった。かかったが、どうにかなった。この後は全部俺がどうにかするんだ。
俺は今、神歌に持ち上げられている。詳しく言うと、槍投げみたいに右手だけで。神歌の今の力なら俺くらい軽く吹っ飛ばせる程の馬鹿力がある。つまり、まあ、神歌に投げられて一発で敵の下まで辿り着こうと言うことだ。
「本当に本当だな?」
「何度も言わせるなよ。こっちは準備万端だ」
そう言うと、神歌はやっと助走に入った。チビ体系のくせに信じられないくらい速い。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫んでいる神歌には真剣味がよく感じられた。サンキュー。助かるぜ。そして投げる瞬間、神歌は俺にしか聞こえない程度の声で呟いた。
「絶対倒せるよな」
飛んでいく寸前で俺も呟いた。
「当たり前だ」
言いきった時点で俺は既に上昇していた。もう敵との距離が半分までに迫っていた。やばい。結構風圧がきつい。神歌のコントロールはバッチリであり、鉄骨にぶつからないようにしていた。敵との距離は一五メートル。
「……っ!」
そこで敵に気付かれた。ヤバッ! 宙にいる俺にはどうすることも出来ず、どんどん上昇し続けていく。ここでたたき落とされたら……って?
「攻撃してこない……」
俺は敵を過ぎて十メートル程上で上昇が停止したが、敵は何もして来ようとしない。ただこちらを見つめてくるだけだ。鳴きもしない。せめて騒音くらい出してくると思っていたのに。でも、
「そっちのほうが有難い!」
俺は重力にまかせて敵の頭部にキックをきめ込んだ。クリーンヒット。メキメキ、と言う感覚が足の裏に伝わってくる。よし、これで終わ――。
「!?」
俺の顔の前にメガホンが現れた。いや、この敵が右手に持っていたのを決死に向けていた。
肉を切らせて骨を断つ。
雑魚は雑魚なりの知識が、そして役割が。
「くそっ!」
その瞬間、『カチッ』というスイッチが切り替わるような音が鳴ると同時に、俺に衝撃が当てられた。まるで重たい鉛がぶつかるかのような。
「あがぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
肺の中の酸素が一気に吐きだされる。ただし、勢いがあるわけじゃないらしく、俺の身体は飛ばされることはなかった。しかし、それは現状ではとてもアンラッキーな事態だ。少しでも距離がとれたならば態勢を整えることができたものの、これじゃ袋叩きにあうだけ。俺の足は未だに敵の頭部に当たっている。頼む、このまま落ちてくれ!
「ガ……ガウ……」
思いが届いたのか、敵の方もこちらの一撃でまいっていたようで、気を失うように天辺からバランスを崩し、落ち始めた。本当にあの一撃は一矢報いる為だけにしたようだ。
「せ……せぇふ……」
ただし、一難去ってまた一難。
この後、俺はどうすれば?
「ふぉあああああああああああああああああああああああああああああ!」
必死に上体を起こし、近くの鉄骨にしがみついた。あっぶねえ……。戦いに夢中になっていたから気にもしなかったが、いざ下を見ると怖いのなんの。血の気が引く引く。
「でもまあ……任務完了と……」
そよ風が地面に落ちている青葉を吹き上げる今日この頃、快晴でありながらも暑すぎない極めて適温といえる気候。
そんな中、標高三三三メートルの位置で、地上よりも気温が低く風も冷たいそんな場所で、降りることも動くこともできない俺が神歌たちに救出されたのは、今から三時間後のことであった。
永眠しかけました(途中からゲリラ豪雨にみまわれた為)。