俺は正論を言ったからな
わからないなら前回の話をどうぞ。
「じゃあ決定だな。よし、これで第一段階が――」
「ちょっと待って」
ここで、いきなり那月が神歌の言葉を遮った。
「本当にそれでいいの?」
「へ? それってどういう――」
「どうもこうもないわよ」
一度顔を下に向けて、那月は険しい顔つきになった。なんだ? 俺たち何か見逃していたか?
「そんなインパクトの低い色で良い訳!?」
「これ以上追及しなくていいだろう! つうか何をお前は求めているんだ!」
『なるほど』
「あれえ!? また俺がおかしいの!?」
もうついていけません。
「今や私たちに注目するのは世界中の皆よ。日曜の朝にやっているCG作成のお遊び収録とは訳が違うわ」
「お前軽く罵倒しただろ」
「だから私はもっと皆に存在を知ってほしいから、もっとインパクトが強い名前をつけた方がいいと思うの」
慣れた口ぶりでスルーしやがった。
そこに沙羅が賛同してきた。
「確かにそうかも……。だって、どうしたってレンジャーに食いつくのは子供だよね? そんな小さな子に『レンジャーレッド』なんてありきたりな名前を定着させても、完全に覚えてはくれないと思うよ?」
「むう……」
沙羅の言う通りである。なんだよ『レッド』って。いろいろいすぎて分かんないよ。
ならどうしたらいいと言うんだ。
「もっとインパクトを強く、か……」
「例えばこんなのはどう?」
那月はそう言って意味もなく立ち上がり、高らかに例を上げた。
「レンジャー……ビリジアンブルー!」
「微妙すぎる!」
それこそ子供は覚えないだろうよ! それにビリジアンって普通緑だし、色々混ざって面倒くせえ!
「何? その不満そうな顔」
「そりゃあるよ! そんな色にするくらいなら普通でいいよ!」
「さっきのはほんの一例よ。もっとかっこよくすればいいじゃない」
「そ、それはどんな感じに?」
「レンジャーブラックを、レンジャー……ダーク」
「思いっきり悪役じゃね!?」
格好いいけど! 確かに格好いいけどさあ!
「そう、実はようちゃんは敵のスパイでしたという、そんなオチ」
「なってたまるか!」
「なら、レンジャーイエローを、レンジャー……シャイン」
「普通に格好いい!」
なんかいそうだし!
畜生、ダークだって格好いいのに!
「わたし、いいこと、思いついた」
そこに、イエロー(シャイン?)の格好よさに刺激されたのか、わざわざ挙手をして未央が案を出してきた。
「レンジャー、ブラック、を、レンジャー……トラウマ!」
「黒は黒でも黒歴史じゃねえか! 重すぎるだろ! ある意味黒々しいわ! つうか名前ダセえ!」
それって俺の黒歴史に掛けてきたのか! うまくねえ(いや、少し感心していた)よ!
「今なら、ウマシカに、変更、可能」
「絶対変えねえよ! 余計駄目だろ! 色も関係ねえ!」
「次は、シカニク」
「しりとり!?」
「ニク……ニクバナレ!」
「お前今思いつかなかったろ! しかも考えた末に出た言葉が肉離れってどうよ!」
「バナレ、バナレ……バナレ……?」
「でしょうねえ!」
あるか! 「ばなれ」で始まるなんて! そこは後先考えようぜ! 俺の突っ込みも困るからよお!
「私にも良いものがあるぞ」
困り果てている未央を余所に、神歌がない胸を使ってふんぞり返りながら自慢げに言ってきた。
「ふふふ、聞いて驚け」
これまた何故か、右腕を天井に掲げた。意見するときは絶対しなくてはいけないのだろうか。そして、
「レンジャーレッドを、レンジャー……バーニング!」
『…………』
「全員ノーコメント!?」
いや、だって、ねえ。
「まとも過ぎて俺たちに突っ込む隙がねえんだけど」
「私はボケるつもりで言ったんじゃない!」
「なら話に入らないでよ」
「那月まで!?」
「レッド、邪魔」
「ぐはあ!」
神歌、大ダメージである。
わかったか、これがさっきまでうけていた俺の痛みだ!
「私もボケる所が欲しいよお!」
「それは今私に言うことじゃないだろ!」
「もういいわ。それなら色を変えるんじゃなくてレンジャー名を考えましょう」
『賛成』
「那月が色にケチ付けてきたんじゃないか! そんなこと言わなきゃこんなことにならなかったんだよ! うわぁああああああああああああああああああん!」
「もとはお前もノリ気だったじゃねえかよ……。それに俺はちゃんと反論したぞ」
泣き出した神歌は最早俺の言葉を聞いてなかった。お前が悪い。そうだ、もう一つ神歌の特徴を加えておこう。「意外と涙もろい」と。
隣にいる那月が神歌をあやしていた。まるで母親とその子供のようだ。微笑ましい光景と言うのだろうか。
ただし、泣かした元凶がその母であるのだが……。