七話 秘密訓練
夕食と宿題を済ませるとれーちゃんと一緒の夜間訓練の時間になる。
今夜も親父が作った仕掛けだらけの訓練所で、僕たち二人は黒装束をまとい、土の感触や、林を渡る風向きを確認する。
『エイちゃん、これ』
『うん、わかってる』
数箇所わずかに地面が盛り上がっている。親父、また新罠を仕込んだな?
さわさわと枝摺れだけが流れる闇一色。僕らのやり取りは読唇術とアイコンタクト。
無言で決められたメニューをこなす僕らを、闇に紛れどこからか見ているだろう親父。
遊芸技は日々欠かさぬ訓練が必要だ。スタートから制限時間内にゴール地点へ到達するという単純なものだけど、バカに出来ない。ここは親父の弟子たちが連日訓練に励む敷地内。僕らは上級忍者と同等の訓練を毎夜行っているというわけで。
おそらく今夜は着地地点にも細工が施されていると読み切った! 僕はれーちゃんに頷いて手近な木の枝へ飛び乗った。
枝は日々切り取られ姿を変えている。たまに切れ目が入っていることもある。だから一瞬も気を抜けない。バランスを保ち枝に体重負荷をかけないよう早業で次々と飛び移る。落ちてはいけない。地に足を着けるのはゴール地点のみ。
疾風のように木立を駆けぬける影ふたつ。れーちゃんもミスなく上々らしい。やがて目に入った小さな灯りはゴール地点。侮るなよ親父! 僕はそこを通り越して――着地。
「わああっ!!」
シュタッと決めたポーズのまま深穴に落っこち、ずれたヘッドライトが目を覆い、視界は真っ暗になった。
「読みが浅いわ! 英司!」
「エイちゃん……なんで、そこで引っ掛る?」
頭上から親父とれーちゃんの声がした。