六話 ウイークポイント
ポツポツと小雨が肩を濡らしていく。紫づくめを従えて、ため息つく下駄箱の前。
「ねぇねぇ、もうすぐだわね? 楽っしみだわ〜英司のお侍さん姿!」
なんだか言葉までそれっぽい真人。
「いやいや、どうしたって黒装束姿には敵わないっしょ? 実技ン時の英司は最高! 何度見ても惚れるだろ?」
ああぁ……それは言うなつうの! 明――ニヤけて……しまうだろ。
そうなんだ――僕はかっこいい自分が好きだ! 実技で木から木へ飛び移る時の目にも止まらない勇姿。何より両手と片膝をつき着地をビシッと決めた瞬間の恍惚感。
そよとなびく風に、前髪がさわりとゆれて――周囲から漏れ聞こえるため息を感じる時の優越感ったら――最高だ!
「くすぐられるね、エイちゃん? ククッ」
こみあげたニマニマがその一言で正気に戻った。明の相棒、僕の唯一の弱点を知っているれーちゃん。
「じゃ夜、またね」
れーちゃんは片手をあげて明と去っていく。その姿を見ながら紫真人が呟いた。
「ああ~ん、いいわねぇ~。ねえ、マサも行っていい?」
「やめれ! 行くぞ!」
真人と一緒に行動するのは登下校だけで十分だ!
今、れーちゃんは島の右端っこに住んでるけど、入学まで二家族同居してた。今でも親父から一緒に忍び技を学んでいる。
よく僕をナルシストって笑うけど、一番の理解者だ。
学校祭の劇じゃ監督になって、僕が主役の舞台をお膳立てしてくれた。僕は人から注目されたいし目立ちたい。島の子の中じゃ一番容姿が際立っているし。
でも本音はれーちゃんに負けたくないんだと思う。何をしてもいっつも後一歩が追いつかない。口に出せないけど一番のライバルだ。