三話 腹減り! 腹減り!!
「なんか……僕、ひだる神にでも憑かれたかも――」
お腹を摩っていた雄三が、その両腕で机を抱え込むように突っ伏した。
もうすぐ次のチャイムが鳴るから、僕は黙々と準備を始めだす。
「だって、朝、あんなに食べたのに――もう腹へったー」
雄三のグチグチは続く。
ひだる神っていうのは、山とかで人にとり憑く妖怪のこと。獲りつかれると空腹感で死ぬらしい。僕が無言なのは呆れ半分だから。実際にそんなのあるわけないだろって反論したい。
正直、下手な術の相手をする余裕なんかない。休み争奪戦最中でも退屈な授業はあるわけで。普通に試験なんかもあるわけで――なんだかとっても理不尽だ。
「普通なら同情して飴玉でも放り込んでくれるよね?」
五年生の雄三はお間抜けな演技を続ける。演技なら僕だって負けない。だって学校祭の劇じゃ主役なんだ。
でも反論したら五人がタッグを組んで言の葉戦争が勃発しそう。今は聞き流すのが一番だろな。
「ねぇ? ね―?」
そんな話に引っ掛るわけないだろう?
僕は真人と一緒に登下校するだけで疲れてるっていうのに。真人と一緒の苦痛さを吐き出して、雄三に哀車の術をかけてやろうかと思う僕。
ああ―こいつらなんだって僕を狙うんだよ? 教室には十七人居るっていうのに。面倒くさっ!
そう思った時、雄三は小ぶりな弁当箱の蓋を開けた。次の授業が終われば昼休みだっていうのに、腹減りを我慢できないアピールかよ!
何度も言う……五車の術は会話で精神攻撃をするもんなんだよ。行動じゃないんだって!
だけど……会話攻撃の方がまだましだった。
僕は隣から漂った薫製臭に悶絶するハメに。




