二話 紫の君
もうすぐあいつがやってくる。
島の中ほどにある家の前。肩を揺らしスキップで飛び跳ねながら、角を曲がってくる姿が見えるようだ。
それだけで背中にぞわりと撫で上げられるような感触が。
来る! あとちょっとで、あいつがここにやってくる。
恐いわけじゃない。イヤナダケ――。
そうそう、出来ればその姿を見たくないだけだ。
来るな……来るなっ!
一心不乱に願っても無駄だってことは僕も知っている。
「じゃ、また明日!」
昨日家の前で目に焼きつくような爽やかな(と本人は思っているんだろう)、僕にとっては悪寒しか湧かない笑顔をあいつは向けた。
あいつがただ歩いているだけで、すれ違う人は大きな半円を描いて避けて通る。僕だって隣を歩くのは遠慮したい。許されるなら避けたい……ユルサレルナラ……。
けど現実っていうのは時に酷く無情だ。
【忍者は常に二人一組。定めた相棒と一年間ともに登下校を通すべし】
なんて縛りがなければ、僕は一人で行けるのに。
「おはよう、英司!」
だから……そんな格好で来るんじゃない!
全身紫色のあいつが隣に並んだ。ラベンダー色の足元まで長いふわふわワンピース。裾と襟、袖口に濃い紫のレースつき。顔を見れば口元、目元まで真紫。首には七色の濃淡を組み合わせた大粒の石を連ねたネックレス。
絶対的な勘違い人間、真人。
確かに効果はあったと認めよう。僕はイライラの沸点まで登りつめている。だからって隙はつくらないけどね。
あのさ……怒車の術は言葉で相手を怒らせる術だよ。五車の術は会話で心理をつく術なんだって。見た目で怒らせてどうすんの?
泣きたいよ、僕は――。




