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1LDKカッパ付き  作者: hiro
16/17

第十五章 二年目が終わり、三年目が始まる


 翌年の春。


 みずはの大学受験の結果が出た。


 合格だった。


 「合格です」とみずはが通知書を持ってきた。


 「やった!」


 「……やりました」みずははこくりと頷いた。「農学部、合格しました」


 「おめでとう!」


 「ありがとうございます」


 「これで同じ大学だ」


 「はい。同じ大学になりました」


 「授業、被るといいな」


 「被るように、シラバスを調べます」


 「シラバスって何かわかってる?」


 「授業の内容が書いてある一覧表、ですよね? 悠太さんのを見せてもらって、覚えました」


 「しっかりしてるな」


 「入学したら、頼ってください」


 「こちらのセリフ」


 「私の方が、農学部向きかもしれません。水のことは」


 「確かに。みずはの方が専門家かも」


 「……専門家、と呼んでもらえる日が来るとは思いませんでした」


 みずははちょっと感慨深そうな顔をした。



 入学式。


 みずはは普通の服を着て、普通に大学の入学式に出た。


 頭に皿はない。普通の女の子だ。でも川の水を聞く耳は、まだ少し残っているらしい。「水の声が聞こえる時と、聞こえない時があります」と言っていた。


 入学式の後、農学部の新入生オリエンテーションで高橋・さくら・田中と合流した。


 「みずはちゃん、入ってきたじゃん!」と高橋が言った。


 「はい、よろしくお願いします」


 「皿なくなったんだ?」


 「はい、最近」


 「寂しい気もするな」と高橋が言った。


 「そうですか?」


 「なんかトレードマークだった」


 「……悠太さんも最初は皿がきれいと言ってくれました」


 「そうそう、なんか光ってたよな奥多摩で」と田中が言った。「あれはかっこよかった」


 「かっこよかったですか?」


 「うん、よかったのに」


 「まあ……今も、たまに出ます」とみずはが言った。


 「え? 出るの?」


 「少し疲れた時とか、水が好きな日とか……うっすら皿が出ることがあります」


 「え、じゃあ完全になくなったわけじゃないんだ」


 「完全ではないかもしれません」


 「なんか安心した」と高橋が言った。「みずはちゃんのアイデンティティが残ってる感じで」


 みずはは少し驚いた顔をした。「……アイデンティティ、ですか」


 「うん、なんかそういう感じがする」


 みずはははっとして、それから「……そうかもしれません」と静かに言った。


 人間にもなりたい、でもカッパでもある。その両方が、みずははみずはだ。



 同じゼミに入ることができた。


 水環境生態学ゼミ。指導教員は水質研究の権威で、みずはの知識を見て「即戦力だ」と言った。


 「みずはの体験的な知識が評価された」と僕は言った。


 「それより、悠太さんの農地水管理の視点が評価されていましたよ」とみずはが言った。


 「え?」


 「先生が『農業側からのアプローチと水生生物側からのアプローチが両方揃っている、良いペアだ』と言っていました」


 「良いペア……」


 「……嬉しくないですか?」


 「嬉しい。すごく」


 「私も嬉しいです」


 みずははにっこりと笑った。


 ゼミが始まり、研究が始まり、二人で毎日大学に通うようになった。


 電車の中でみずははいつも窓の外を見る。川が見える時は、特に目が輝く。


 「川の声、聞こえてる?」


 「少し……今日は。昨日の雨の影響で、川が増水していると思います」


 「そういうの、ゼミで発表できるな」


 「フィールド調査に持っていけますか?」


 「持っていこう。みずはの感覚、研究データに使える」


 「……カッパの感覚が、農学の研究に使えるとは思いませんでした」


 「カッパと農家の合わせ技、けっこう強いと思う」


 みずははくすくすと笑った。「……そうかもしれませんね」


 電車が橋を渡る。下に川が見えた。みずははそれをじっと見た。


 「……きれい」


 「川が?」


 「川も。それを見ている悠太さんも」


 「僕は川じゃないけど」


 「比喩です」


 「わかった。じゃあ、みずはもきれい」


 「急に直球を言いますね」


 「農家は回りくどくない」


 みずははまた笑った。


 電車は次の駅へ向かった。

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