表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曹操軍の雑務係、気づけば天下統一に貢献していました  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第二話 仕事の成果は、静かに現れる

「補給記録を……全部、ですか?」


思わず聞き返してしまった。


目の前に立つ荀彧は、穏やかな笑みを浮かべたまま頷く。


「ええ。あなたが整えた帳簿は非常に分かりやすい。これまで誰も出来なかったことです」


いや、そんな大げさな。


俺はただ、散らかっていた物を整理しただけだ。


「ですが俺、新人ですよ?」


「だからこそ、でしょう」


意味深な言葉を残し、荀彧は去っていった。


……断れない空気だった。



翌朝。


俺は山のように積まれた木簡を前に、軽く絶望していた。


「多すぎるだろ……」


補給記録は部隊ごとに形式が違い、日付も数量もバラバラ。中には誰が書いたのかすら分からないものまである。


これで軍が動いているのが奇跡だ。


(まず統一だな……)


俺は深呼吸し、作業を始めた。


・日付順に並べ直す

・物資ごとに分類

・担当者名を記号化

・不足分を別記載


前世では当たり前だった作業。


だが、この世界では誰もやっていなかったらしい。


気づけば日が傾いていた。


「……よし」


新しい記録表を完成させた瞬間、背後から声がした。


「ほう」


振り返ると、昨日の補給責任者の男が立っていた。


帳簿を覗き込み、眉を上げる。


「一目で分かるな……」


「どこに何がどれだけあるか、すぐ確認できます」


男は黙ったままページをめくり、やがて低く呟いた。


「……おかしい」


「え?」


「第二輸送隊の消費量が合わん」


指差された数字を見る。


確かに不自然だった。受領量に対して消費が多すぎる。


計算し直す。


間違いない。


「横流し……ですか?」


男の顔が険しくなった。



その日の夕刻。


輸送隊の調査が行われ、隠されていた兵糧が見つかった。


兵士たちがざわめく。


「もし気づかなかったら、次の進軍で足りなくなってたぞ……」


「誰が見つけたんだ?」


視線が、なぜか俺に集まった。


いや、俺じゃない。


帳簿が教えてくれただけだ。


「偶然ですよ」


そう言ったが、誰も信じていない顔だった。



翌日。


補給幕舎は妙に慌ただしかった。


「進軍命令だ!」


兵士たちが走り回る。


本来なら準備に半日はかかるらしい。


だが――。


「もう積み込み終わってるぞ!?」

「不足確認済みだ!」


「出発できる!」


現場が驚きに包まれていた。

整理された記録のおかげで、確認作業がほとんど不要になったのだ。


俺はその様子を、端でぼんやり眺めていた。


(効率化しただけなんだけどな……)


その時、背後から落ち着いた声がした。


「軍の動きが早くなりました」


振り向くと、荀彧が立っている。


「戦では、一日が勝敗を分けます」


彼は静かに続けた。


「あなたは剣を振るわずして、軍を強くした」


いや、だから大げさだって。


否定しようとした瞬間、伝令が駆け込んできた。


「報告! 予定より早く布陣完了! 敵軍が対応できておりません!」


幕舎がどよめく。


荀彧は小さく笑った。


「歴史は、時に小さな仕事から動きます」


その視線が、まっすぐ俺に向けられる。


「あなたには、もう少し働いていただきましょう」


……嫌な予感しかしない。


こうして俺の雑務は、いつの間にか曹操軍全体に関わる仕事へと変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ