赤い傘の女
ある雨の日の午後、僕は商店街を歩いていた。
母親から、夕飯の買い出しを頼まれたからだ。
「もう……こんなに頼まなくてもいいじゃないか」
愚痴をもらしつつ、僕は手提げ袋を見つめる。
やがて、家の途中にある横断歩道にやってきた。
だけど、信号が赤だったから足を止めた。
待っている間暇だから、僕はスマホを操作する。
そして、ふと顔を上げた。
すると、人ごみの中に、ひときわ目立つ女の人がいた。
なんで、女の人かって?
だって、赤い靴に白いワンピースだったんだ。
それに、大きな赤い傘をさしていたしね。
そしたら、その人が僕に小さく手を振っていたんだ。
僕は首を傾げたけど、何気なく手を振った。
だけどこの行為が、まさかあんなことになるなんて……
★★★
次の日、僕は日直だったため、早起きをした。
そして、いつも通りカーテンを開けたんだ。
すると、昨日見た、赤い傘の女の人がいたんだ。
「あれ、今日って、雨降ってるの?」
だけど、家の前を通っている人たちは、傘などさしていなかった。
しかも、皆女の人を無視するように、通り過ぎていく。
おかしいと思い、僕は首を傾げる。
すると、女の人はまた小さく手を振っていた。
だけど、僕は手を振らなかった。
なぜかはわからないけど、なんとなくだ。
そして、玄関を出たら、もう女の人はいなかったんだ。
「なんだったんだろう、あの人……」
僕は少し気になったけど、すぐ学校に急いだ。
中学校に着いて、日直の仕事をしていく。
授業が始まって、僕はふと窓の外を見たんだ。
すると、校門の所に、あの赤い傘の女の人がいた。
そして、また小さく手を振っている。
それがなんだか怖くなり、僕は目をそらした。
それからの授業は、あまり覚えていない。
ただでさえ、あまり頭がよくないのに……
気づいたら、放課後になっていた。
僕は日誌を書かないといけないので、遅くまで残った。
他の皆は帰って、教室には僕ひとりだけ。
その時、何気なく窓の外を見たんだ。
すると、校庭の端にある木の陰に、赤い傘が見えた。
そう、あの女の人である。
そして、また手を振っていた。
「なっ、なんで学校の校庭に?!」
「それは、お前が『あれ』に応えたからだろう」
僕は、震えあがった。
あの女の人が近づいていたこともあるけど、それよりもまず……
「だっ、誰ですか、あなた!」
僕が前を見ると、教壇に肘をついている男の人がいた。
だけど、すぐ人間じゃないことはわかった。
だって、大きなカマを持っていたんだもの。
「俺は死神。ここには仕事で来たんだ」
「しっ、死神?」
えっ、じゃぁなに、僕死ぬの?!
僕は、自分の血が引いていくのを感じた。
すると、遠くから靴の音が聞こえた。
「どうやら、入ってきたみたいだな」
「それって、あの傘の人?」
「あぁ、狙いはお前だろうな」
「でも、僕なにもしてないよ!」
「しただろう。よく思いだせ」
死神に言われ、僕は苦し紛れに考える。
すると、あることを思いだした。
「あっ、あの時手を振っちゃった!」
「やはりな」
死神は呆れたのか、ため息をついた。
そして、僕に近づいてくる。
「あいつは、自分が視えて、なおかつ合図に応えた者を連れていこうとする」
「合図?」
「まぁ、今回は『手を振る』が合図だったんだろう」
「ぼっ、僕はどうしたら……」
「黙って、あいつに連れていかれることだな」
「そっ、そんなの嫌だよ!」
僕は、慌てて立ち上がった。
「僕は、なにもわからず死にたくない!」
その時、教室の前で靴の音がやんだ。
「なら、お前はどうしたい?」
「僕は生きたい。お願い、あの人を追い払って!」
「はぁ……しかたないな」
死神はため息をついて、黒いマントを翻した。
そして、カマを肩に担いだ。
それと同時に、勢いよくドアが吹っ飛んだんだよ。
入ってきたのは、やはりあの赤い傘の人だった。
だけど、傘を閉じたその姿に、僕は驚いたんだ。
「くっ、首から上が無い?!」
「こいつは死んだ時に、自分の首を失くしてな。それ以来、代わりの頭部を探しているんだ」
「じゃぁ、連れていかれた人たちって……」
「皆、頭部が無かったな」
「ウソ……」
「俺が知る限りでも九人だ。お前でちょうど十人だな」
「僕をカウントしないで!」
僕の焦りが通じたのか、死神は一瞬で女の人に近づいた。
そして、カマを振り上げる。
でも、傘で防がれ、金属音が響き渡った。
いや、傘じゃないんじゃないの、あれ!
すると、女の人は机に飛び乗った。
軽快なステップを踏んで、傘で応戦していく。
「ちっ、やはり一筋縄ではいかないか」
「どうしよう……僕にできるのは……」
僕は、急いで周りを確認した。
そしたら、いい物を見つけたんだ。
「これだ!」
僕は勢いよく、それを投げた。
それは女の人に当たり、別の方に転がっていく。
すると、女の人の気が、一瞬それたんだ。
「今だよ!」
「言われなくても!」
死神がカマを振り下ろすと、女の人は霧のように消えていった。
僕は力が抜けて、その場に座りこんだ。
「お前、さっき何を投げたんだ?」
「サッカーボールだよ」
「ほぉ……」
「ちょうど頭くらいの大きさだし、音だけだから間違ってくれると思って……」
「それにしては、雑な方法だな」
「うん……一か八かってところかな」
「ヘタしたら、お前の頭が無くなっていたな」
「怖いこと言わないで……」
「まぁ、俺の仕事は終わった。じゃぁな」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
僕の呼びかけに答えないまま、死神は窓から出ていった。
残されたのは、僕ひとりだけ。
「この後始末は、誰がするんだよぉー……」
僕の不安は的中し、やってきた先生たちにこっぴどく怒られたよ。
それから、あのようなことは起こっていない。
まるで、夢だったんじゃないかと思うくらい。
「あの死神、今はどこにいるんだろう……」
僕はふと、彼のことを思いだす。
もしかしたら、次はあなたの所に現れるかもしれないね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




