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どこにでも付いてくる婚約者の幼馴染女が、ついに私を排除しようとしてるみたいなので返り討ちにしようと思います。

作者: スズイチ



「――カリーヌ。なんでお前は、ヴェラみたいにできないんだよ?」


「……は?」


 学園のカフェテリアで、婚約者のジュール様と昼食を摂っていたら突然こんなことを言われて、ぱちりと瞬きする。

 ――いや。正確には、婚約者のジュール様とその幼馴染であるヴェラさんと昼食を摂っていたら……だ。


「急に何の話ですか?」


 尋ねてから、私はサーモンとクリームチーズのベーグルサンドを口に含む。


「そういうところだよ! なんで、婚約者の俺より先に食べ始めてんだよ! ヴェラを見てみろよ、俺が食べるのを健気に待っているんだぞ!」


 ジュール様の隣に座るヴェラさんが、彼の制服を小さく掴むと、何度も首を左右に振る。


「やめて、ジュール。そんなんじゃないわ。それに、男性が食べるのを待っているのは、淑女の嗜みよ」


 その言葉に感動したのか、声を震わすジュール様。


「……ヴェラ。お前は、本当にできた女性だな。カリーヌにも見習わせたいよ」


 ……何なのかしら、この茶番?

 目の前のやり取りに、私は溜め息を一つ落とす。


 私の婚約者であるジュール様には、誰よりも優先すべき幼馴染――ヴェラさんがいた。

 彼にとって最も大切なのはヴェラさんで、いつだって彼女が第一。褒めて、持ち上げて、絶賛する。


「カリーヌより、ヴェラの方が小柄で可愛い!」


 私の身長も、平均より少し高い程度なんですけどね。


「カリーヌより、ヴェラの方が素直で性格がいい!」


 あなたの求める素直さって、一歩引いて何を言われても『すごーい!』『かっこいいー!』『物知りー!』ってチヤホヤしてもらうためのものなんでしょう?


「カリーヌより、料理もお菓子作りもヴェラの方が上!」


 それ、本当にヴェラさんが作っています? お店で、そっくりなお菓子がいくつも並んでいましたが……。


「カリーヌより、ヴェラの方が気が利く!」


 まあ私は、あなたに利かせる気なんて持ち合わせていませんので。


「カリーヌよりヴェラの方が可憐で守りたくなる!」


 ……はあ、そうですか。

 これでも、婚約者は私なのですがね……。


 これらの言葉に対して、ヴェラさんは――。


「え〜そんなこと、ないわよぉ。……あっ、やだ。ご、ごめんなさい、カリーヌさん。私、余計なことしてるよね? 本当にごめんなさ……うっ……ぐすっ……」


「どうしたんだ、ヴェラ!?」


「カリーヌさんが、怖い顔して私のこと見てたから……きっと、私が差し出がましい真似をしちゃったからだわ……ごめんなさい……ぐすっ……婚約者であるカリーヌさんがいるのに、私ったらジュールのためだと思って……ひっく……」


 ヴェラさんの背中を撫でながら、ジュール様が私を睨み付けてくる。 


「おい、カリーヌ!! お前、ヴェラが可愛くて何でも出来るからって嫉妬かよ! 醜いな! 最低だぞ!!」


 ――何かしら、この時間。地獄かな?

 何故こんなアホな茶番に、私は巻き込まれてるのだろう。

 

 私は溜め息を吐くと、急いで昼食を食べて立ち上がる。


「――もう、行きますね。失礼します」


「おい、ヴェラに謝れよ!! お前が泣かせたんだろ!!」


「あー……はい。申し訳ございませんでしたぁ」


 面倒なので、適当に謝っておく。


「謝る気あるのかよ!! ……ったく、昔はもっと可愛げがあったのによぉ」


 謝る気なんて、あるわけがないでしょ。ここまでのやり取りを見て、良くそんなことが言えるものだと呆れながら私はカフェテリアを去って行った。


 

 ◇


 

 これまでも、ジュール様は事ある毎にヴェラさんを優先していた。

 二人で出掛けるはずだった観劇にも、素敵なカフェにも、うちの屋敷でのお茶会にも、全て彼女が付いて来る始末。


「ヴェラが、どうしても来たいって言うんだから仕方ないだろ。俺の婚約者なら、それくらい聞き分けろよ」


 腕を組み、イチャ付く二人。カフェなどの席では二人が隣り合って座る――そんな二人の側にいる、どう見ても邪魔者の私。

 ……どれだけ悲しかったか、どれだけ虚しかったか。

 

 最初の頃は、私も何とか受け入れようと努力した。婚約者なのだからと、頑張っていつも笑っていた……。


 でも、ある人が言ってくれた〝君が我慢するのは違う〟と。


 そして、ある約束をした。


(――今日は、その約束の決行日だ)

 

 ジュール様に、来るようにと言われたお茶会。

 学園の庭園にて友人たちを呼んで開かれるそうで、そこに私も呼ばれていた。


 庭園に到着すると、既に準備は終わっていて座るようにと促される。


 ――ここに居るのは、ジュール様、ヴェラさん、ヴェラさんの婚約者、そして彼らの友人が数名ほど。皆、私を不愉快そうな目で見ていた。


「今日は、わざわざ来てくれてありがとな。楽しんでいってくれよ」


 ジュール様の言葉で、お茶会が開始される。


 最初は微妙な空気ながらも、談笑をしたりと概ね和やかな空気が流れていた。


 ――しかし。


「そういえば、コイツ浮気してんだよ」


 雑談の途中で、ジュール様が楽しげに私を指差す。


「……は?」


 訳のわからないことを言われて、私は眉を顰める。


「は? じゃねーよ。お前、頻繁に他の男と会ってんだろ? 知ってんだからな。この手紙、男とのやり取りだろ?」


「……なんですか、それは?」


 中身を確認すると誰かへの恋文であったが、私は書いた覚えがない。筆跡も私のものに似せているつもりだろうが、正直あまり似ていなかった。


「……本気で、言っております?」


「言い訳はいらねぇよ。浮気女の言うことをなんか何も聞きたくない」


「ジュール、可哀想……」


 今日は婚約者の方が一緒だからか、ジュール様の側には居ないヴェラさんが悲壮な声を出す。


「それにコイツ、俺に宝石やドレスなんかを頻繁に強請るんだぜ。最悪だろ?」


「浮気して、宝石まで強請るなんて……」

「……人として、最低だな」


 ご友人たちが、私を見て悪態をつく。


「しかもコイツ、あろうことかヴェラに嫉妬して虐めてるんだ! そうだろう、ヴェラ?」


 話を振られたヴェラさんが、小さく頷く。

 

「う、うん……。私とジュールは、ただの幼馴染なのに信じてもらえなくて……。カリーヌさん、私の持ち物を壊したり、制服を切り刻んだり……他にも、私たちがデキてるなんて嘘の噂を流したり……ぐす……ひっく……」


 泣き始めたヴェラさんに、ご友人たちが声を上げる。


「なんだよ、それ! 酷すぎるだろ!」

「泣いているわよ、可哀想に……」

「謝れよ、極悪人!!」


「みんな、やめて! 私が悪いの……私がジュールと仲良くしていたから、誤解を生んでしまったの……ごめんなさい……」

 

「ああ、可哀想に……可愛くて可憐なヴェラ。……そんな酷いことをされても、カリーヌを庇うなんて、なんて優しいんだ」


 ――バカバカしい。

 よく、こんな嘘ばかり吐けるなと溜め息を吐く。

 そう。これは、私を糾弾するために開かれたお茶会。

 みんなの前で、私がどれほど酷い人間なのかをご披露する場なのだ。下らなすぎて、言葉も出ない。

 

 だが、黙っているわけにはいかないと口を開こうとした時――。


「――それって、本当のことなの?」


 私よりも先に、ヴェラさんの婚約者であるシリル様が声を上げた。


「……っ、なっ、なにをおっしゃるの、シリル様!?」


 ヴェラさんが困惑した様子で、シリル様に問いかける。


「言葉の通りだけど? 君たちからしか話が聞けていないからね。――カリーヌ嬢。君からも話を聞かせてもらえるかな?」


 シリル様の言葉に、私は僅かに口角を上げて頷くと、真っ直ぐに皆を見据える。


「ジュール様のおっしゃったことは、全て事実無根ですわ」


 私の言葉にジュール様が、大声で叫ぶ。


「そんなの嘘に決まっているだろ!! コイツは、嘘つきのカリーヌだからな! みんな、信用するなよ!!」

 

「そうよ! 私、本当にカリーヌさんに酷いことをいっぱいされたの!」


「……では、その証拠は?」


「「……は?」」


 二人が仲良くハモるのを、白けた表情で見つめる。


「いつ、どこで……私が、あなた達にそのような行為をしたのか教えていただけますか? ――まさか、証拠がこの手紙だけ……なんてこと、おっしゃいませんわよね? そもそも、私の筆跡とは全くの別物なのですが」


 私は手紙を手に取りひらひらさせると、二人はぐっと言葉に詰まる。

 まさか、本当にこの手紙しか用意していなかったのだろうか? さすがにアホすぎない? もしかして、私が言い返さないとでも思っていたのかしら?


「お、覚えてるに決まってるだろ! ど、ドレスを買わされたのは……えーっと……そ、そう! 二カ月前のパーティーの前日で、宝石は……た、確か、俺の誕生日の……翌日だ!」


「……へぇ。ヴェラさんは?」


「え!? え、えっと……あっ! 先週の月曜日のランチの後に、私のお気に入りのペンが壊されていたわ!」


「そうですか。――では、こちらをどうぞ」


 私は、制服の内ポケットから手帳を取り出すと、テーブルの上に置く。


「その中に、私がいつどこで何をしていたのか全て書き記してありますので、どうぞご覧くださいませ」


「――失礼。拝見させていただこう」


 シリル様が手帳を手に取り、パラパラと中をめくって行く。


「二カ前のパーティーの前日は、ご家族と食事に出掛けていて、その際に学友と鉢合わせたみたいだね。本人たちに聞けば証言が取れるのでは?」


「……ぐっ……」


「彼の誕生日……ああ、印の付いているこれだね。その次の日はー……叔父上の屋敷に行っていたみたいだ。こちらも、証言が取れそうだね。それから、先週の月曜日のランチ……その日、カリーヌ嬢のクラスは校外学習があったから、お昼の休憩時間までに戻って来るのは無理だったのでは?」


「……えっ!?」


 その言葉に、ヴェラさんが慌てた表情を見せる。


「ええ。その日は、私のクラスとカリーヌさんのクラスで合同の校外学習だったのですけれど、朝から出ていて学園に戻ったのはお昼休憩よりもずっと後でしたわ……」


 ご友人の一人が、困惑した様子で私とヴェラさんを交互に見つめる。


「私が浮気? 虐め? ご自分たちのされたことを棚に上げて、良くそんなことが言えますわね」


「……君たち、カリーヌ嬢に随分と酷いことをしていたみたいだね」


 シリル様は溜め息を吐くと、皆に見えるように手帳を広げた。


 そこには、これまでジュール様に何を言われ何をされて来たか。ヴェラさんが、どんな態度であったか。

 そして、私がどれほど苦しい思いをしてきたのかを綴ってあった。


「何これ、ひどい……」

「お前ら、こんな酷いことしてたのかよ!」


 ご友人たちの怒りが二人に向けられると、慌てて弁解しようとする。


「ち、違……っ!! 誤解だ!! こ、これは、こいつが……!」

 

「いいや。絶対誤解じゃないだろ、これ……。ヴェラのやつ、いっつもジュールと一緒に居るなとは思ってたけど、デートやカリーヌさんの屋敷にまで付いて行ってたのかよ」


「そ、それは、たまたまなのよ……!」

 

「……たまたま? だとしても、遠慮すべきだったのでは? ありえないわ……私たちには、カリーヌさんが最低なことをしているみたいに言っておきながら、結局は自分たちがしていたんじゃない!」

「ごめん、カリーヌさん。こいつらのこと信じて酷い態度だった」

「私も、ごめんなさい」


 ご友人方の誤解が解けたことに、私は安堵の息を吐く。


「……いいえ。皆さんは騙されていただけですもの。何も悪くありませんわ。……それから、これも見ていただけますか?」


 ジャケットのポケットの中から、ハンカチに包んでいた小さなイヤリングを取り出して、皆に見せる。


「彼のベッドの上に残されていた物です。……あなたの物ですよね、ヴェラさん?」


 私の言葉に、全員がヴェラさんの方へと振り返った。


「ジュール様のお屋敷に呼ばれたときに、彼の部屋に入って見つけた証拠です。はしたない真似をした自覚はございますが、ジュール様とヴェラさんの関係が幼馴染というには、あまりにも近くお二人の潔白を信じたいがための行動でした」


 まあ本音は、ただの証拠集めである。

 彼の屋敷に呼ばれたときに、人目も憚らずイチャつく二人の目を盗んでジュール様の部屋へと侵入し、見付けた物だ。


「――いくら仲の良い幼馴染とはいえ、ベッドの上にイヤリングをお忘れになるなんてこと……」

「このイヤリング、ヴェラがジュールに買って貰ったって自慢してたやつだよな?」

「私も、見覚えがありますわ。ヴェラさんが、凄く嬉しそうにしていましたもの……」

「……お前たち、そういう関係だったのかよ」


 ご友人の一人が、呆れた声を漏らす。

 

「正直、距離が近すぎるとは思ってたんだよ。でも、それを口にするとジュールの奴、烈火の如く怒るから……てっきり、疑われたことに怒ってるんだと思ってた……」

「図星を突かれて、怒っていただけですのね……」

「……呆れた」


 皆の言葉に、ジュール様とヴェラさんが顔を伏せて押し黙る。

 

「――それと、ヴェラさん」


 私の呼びかけにヴェラさんが顔を上げて睨みつけてくる。思ったよりも元気そうだ。


「うちの屋敷から、ネックレスやブローチなどのアクセサリー類を持ち帰っていますよね? 私が気付いていないと、思っていましたか?」


 ビクリと肩を揺らすヴェラさんに、私は小さく笑みを零す。


「な、何のことですか? 私は知らな……」


「あなたの持ち帰った、赤いバラのブローチ。あれは、祖母にいただいた物でしたのよ? 馴染みの宝石商が、私の物ではないかと持って来てくださいましたの。詳しくお聞きしたら、あなたに良く似た方が売りに来られたのだとか……それで、屋敷の中を調べてみたところ、他にも無くなったアクセサリーがありましたわ」


「わ、私に似てるからってだけで疑うんですか!?」


「ええ。そう言うと思って、先日あなた方がいらした時に、分かりやすく高価なネックレスを客間に置いておきましたの。案の定、あなたが帰ったあとに無くなっていましたわ。そして、その様子を見つからないようにメイドに見張らせておきましたの。――あなたが、洋服の中に隠すところをしっかりと見たそうです。……まあ、これに関しては証拠が出せませんので、私の言葉を信じていただくしかないのですが」


 本来なら、その場で捕まえるべきなのだろうが、誤魔化されて無かったことにされても困る。それに、ジュール様は絶対に彼女を庇って逆にこちらを悪者にしてくるだろう。

 何より、皆の前で彼女の行いを言及したかった。ヴェラさんが何をしたのかを、全員に知ってもらいたかったのだ。


「――ヴェラさん。あなた、盗みまでしていたの!?」

「幼馴染の婚約者の屋敷に付いて行くばかりか、盗みまで……犯罪じゃないか!」


「ち、違うの!! 誤解だってば!! ね、ねぇ、ジュールもみんなに言ってよ、私はそんなことしないって……!」


 そこで、ジュール様は悍ましいものを見るような視線を彼女に向ける。


「……そういえばお前、この間のパーティーでカリーヌの着けてたのと、そっくりなブローチ着けてたよな……」


「じ、ジュール……?」


 おや?

 彼は、ヴェラさんのことを庇うと思ったのに。私は意外な展開に、少しだけ驚く。


「いや、さすがに盗みはダメだろ。やっていいことと、悪いことの区別は付けろよ」


 浮気や虐めをでっち上げようとしたくせに、どの口が言ってるのかしら……。


「な、何よ!! 何で私が責められるの!? ジュールが適当に扱ってる女なんだから、私が何したって別に構わないでしょ!? アクセサリーの一つや二つくらいで、ケチくさいこと言わないでよ!!」


「……ご自分のされたことを、認めるのですね?」


「……あっ!!」


 慌てて口を押さえるが、もう遅い。


「これだけの証人がいるのですから、もう手遅れですよ」


「……っ、……ぐっ……!!」


 悔しそうに唇を噛みしめて、私を睨み付けてくるヴェラさん。


「――それで?」


 これまで静かに見守っていたシリル様が、口を開く。


「君たちは何がしたかったの? カリーヌ嬢に有りもしない罪を背負わせて、皆の前で嘘をばらまいて……彼女をどうしたかったの?」


 シリル様は、圧の強い笑顔を二人に向けた。


「……っ……それ、は……」


「もしかして、彼女の有責にして婚約破棄したかったのかな?」


「――っ!!」


 目を泳がせるジュール様。だが、すぐに開き直って逆上する。


「そっ、そうだよ、悪いかよ!? 親同士が勝手に決めた婚約なんて、うんざりなんだよ!! 俺はヴェラと婚約したかったんだ!! なのに、どいつもこいつもカリーヌばっか褒めやがって、ヴェラのことは蔑ろにするんだ!! 何でも言うこと聞いて、尽くしてくれるヴェラの方が俺に相応しいのに!!」


「それで私を悪役にして、婚約破棄? ……ずいぶんと稚拙ですこと」


「……っ!!」


 忌々しそうに、私を睨み付けてくるジュール様。


「お望みどおり、婚約破棄してあげますわ。――もちろん、あなたの有責でね」


 悔しそうなジュール様を見て、私は口角を上げる。


「――じゃあ、僕も君と婚約破棄させてもらうよ」


 ヴェラさんに視線を向けて、そう言い放つシリル様。


「……は? な、何をおっしゃって……」


「君も望んでいたんじゃないの? 彼とそういう関係だったのなら、僕の存在は邪魔だと思うんだけど?」


「ち、違っ……!!」


「それとも、僕を騙して何とか上手くやろうとした? ……まあ、何でもいいかな。君とジュール君は男女の関係にあって、カリーヌ嬢は君たちから酷い仕打ちを受けていた。おまけに君は、人の物を盗む犯罪者だ。そんな人間と婚約を続けるなんて到底無理な話だとは思わないかい?」


 シリル様の言葉に、ヴェラさんが大粒の涙を流しながら縋り付く。


「やだやだやだやだやだぁ!! 絶対にいや!! ごめんなさい、謝るからぁ!! ジュールとは、子供の頃から一緒で誰かに取られるのが悔しくて関係を持っただけなの! 私以外の女を、褒めたり優先するところを見たく無かっただけ! だから一緒にいたし、寝たのだって数回だけなの! ほんとよ!? ちょっと、二人の邪魔をしただけなの!! 私は、あなたじゃないとダメなの! 盗んだアクセサリーは返すからぁ!! あれだって、カリーヌさんより私の方が似合うから貰ってあげただけなの!!」


「……ヴェラ……そ、そんな……」


 ショックを受けて、膝から崩れ落ちるジュール様。今にも倒れそうな様子に、私は憐れみの目を向ける。

 

 それに対してシリル様は、泣きじゃくるヴェラさんの手を払いのけると、冷たく見下す。


「自分が何を言っているか、理解してる?」


「…………ぁっ……ぅ……」


 シリル様の冷たい視線に、言葉を発することが出来ない様子のヴェラさん。

 私は、溜め息を一つ落とすと口を開く。 


「――どうぞこの先も、お二人で仲良くなさってくださいな。では、私はこれで失礼いたします」


「僕も退散させてもらうよ」


 

 ――こうして、お茶会はお開きになった。


 ◇


 ――その後。

 私は正式に、ジュール様と婚約破棄の運びとなりました。

 私への仕打ちを知ったご両親に、随分と叱責されたようです。お茶会でのことも噂になっているようで、学園では肩身の狭い思いをしているのだとか。今はもうお見かけすることもありませんし、何処で何をしていようが私には一切関係ありません。


 ヴェラさんの方はというと、シリル様とは婚約破棄。ジュール様と関係を持っていたことも知られて、ご家族どころか学年中の生徒に軽蔑の目を向けられていました。

 その上、私から窃盗したことも噂になり、侮蔑の目に耐えられなくなった彼女は、学園に来なくなってしまいました。


 

 ◇



「はあ〜〜スッキリした〜〜!」


 私は誰もいない学園内の庭園の奥で、大きく伸びをする。


「これで私も、ようやく自由になれるのね」


「――お疲れ様、カリーヌ嬢」


 口角を上げて息を吐くと、後ろから声を掛けられたので振り向く。


「シリル様!」


 爽やかな声の主はシリル様であった。私は笑顔のまま彼に深々とお辞儀をする。


「この度は、本当にありがとうございました。全て、シリル様のお陰です!」


 ◇


 ――そう、何もかもシリル様のお陰なのだ。

 

 あの日。

 私を蔑ろにして、目の前でイチャつく二人に我慢の限界が来て、学園の端で感情の波が落ち着くのを耐えていた時……シリル様が、声を掛けてくれたのが始まりだった。


『大丈夫?』


(この方、確かヴェラさんの婚約者……?)


『……私に、何かご用でしょうか?』


 緊張で声が硬くなってしまった。

 もしかしたら、ヴェラさんとジュール様のことで私に文句を言いに来たのだろうか……。二人の距離が異常に近いのは、私のせいではないのだけれど……。

 視線を泳がす私に、彼は穏やかに微笑む。


『顔色が良くないから、心配で声を掛けただけだよ。そんなに怯えないで』


『……あ……』


 優しい声色に、私は小さく息を吐く。


『――あの二人のことで、悩んでいるの?』


 あの二人とは、間違いなくジュール様とヴェラさんのことだろう……私は静かに頷いた。


『僕でよければ、愚痴でも何でも聞くよ? 君さえよければ……だけど』


 柔和に微笑むシリル様。

 彼の纏う穏やかな空気に、思わず閉じていた口をゆっくりと開いてしまった。


 ――ジュール様にとって、自分とは何なのか。蔑ろにされ、軽んじられ、優先するのは幼馴染のヴェラさんばかり。目の前で彼女を褒め称え、私のことはぞんざいに扱う。

 でも私は彼の婚約者なのだから、この状況を耐えなくてはならない――。

 

 私はシリル様に、そんなことを吐き出した。


 目を伏せながら静かに聞いてくれていたシリル様が、真っ直ぐに私を見ながら言葉を発する。

 

『君が我慢するのは違うよね?』


 その言葉に、眼の奥がぐっと熱くなる。

 

『婚約者だからといって、君を蔑ろにしていいわけがない。傷付けられる筋合いなんてないし、君の尊厳は守られるべきだ。――一人で、苦しむ必要はないんだよ』


『……はい……はいっ……』


 私は彼の言葉に、何度も頷く。


『ねぇ。いっそ、彼らに一泡吹かせてやろうよ。僕にも手伝わせて?』


『⋯⋯一泡吹かせる?』


 穏やかに微笑むシリル様。そして私は、この提案を受け入れることにした。

 同時に、この時から彼らに対してただ笑って受け流すこともやめたのだった。


 それから暫くして、彼らが私を糾弾するためのお茶会を開く予定を立てていると、教えてもらった。

 だから、その日のためにと何とかこちらに有利な証拠を用意しておいたのだ。

 

 ――お陰で、今は晴れて自由の身である。


 ◇


「君が頑張った結果だよ。良かったね」


「はい!」


「折角だし、労う会でもしようか?」


「いいですね!」


「ついでに婚約破棄した同士で婚約する?」


「いいですね! …………ん?」


 突然の言葉に、表情が固まる。

 え? 今、何て言われたの?


「実は、ひたむきな君のことをずっと見ていたんだ。彼らに負けないように、常に胸を張って背筋を伸ばしている健気で強い君に、惹かれていました」


 想像もしていなかった言葉に瞬きを何度も繰り返すと、するりと手を取られてしまう。


「カリーヌ嬢。あなたが、好きです。僕を選んでくれませんか?」


 とろりとした笑みを向けられて、顔が熱くなるのを感じる。


「……あ、え、えっと、嬉しいです。……でも……」


 シリル様――いつも優しくしてくれて、私の愚痴を聞いてくれて、味方でいてくれた方。

 美しい容姿に、穏やかな物腰。纏っている空気も柔らかな素敵な人。

 ――そんな人が私を?

 ジュール様に散々貶されてきたせいで、自己肯定感が下がりまくっている状態の私は、果たして彼に釣り合うのだろうかと不安を募らせる。


「――何か余計なことを考えてる?」


「……あっ、その……はい……考えています……」


 素直に答えると、シリル様がふんわりと笑う。


「ふふっ。じゃあ今後は、余計なことを考えられないくらい、僕が褒めて甘やかして君のことを特別扱いするから。覚悟しておいて?」


 彼の言葉に更に顔を赤くすると、目をぎゅっと閉じて大きく口を開く。


「お、お手柔らかにお願いします!!」


 そんな私を見て、シリル様は楽しそうに笑うのだった。



 ◇おわり◇


 



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