第11話 未来を知る少年の微笑み
戦闘の終息を確かめると、外を固めていた兵士たちが小屋へ雪崩れ込んできた。
「賊どもを押さえろ!」
号令と同時に、呻き声を上げる男たちが次々と縄で縛り上げられていく。
「奥方様、ご無事ですか!」
駆け寄った兵の声に、フィオナは座り込んだまま荒い呼吸を整えた。
外套をそっと肩にかけられると、温かな重みが背を包み、かすかに震えながらも微笑んでみせた。
「……ええ、大丈夫です」
その姿を横目に、カイエンは短く息を吐く。
「もういい。こいつらを連行しろ。裁きはすぐに下す」
低く響いた命令に、兵士たちは一斉に頭を垂れた。
捕らえられた賊どもは兵士に引き立てられ、森を抜ける道へと連れ出されていった。
残された場には──
カイエンとフィオナ、そしてダニエルの三人だけ。
外の空気に触れた途端、フィオナはふっと息を吐いた。
まだ心臓は落ち着かない。けれど、隣を歩くカイエンの手が肩に添えられると、不思議な安心感に包まれた。
「歩けるか」
低くかけられた声。
「……ええ、大丈夫です」
口ではそう答えながら、胸の鼓動がどんどん早くなっていく。
ほんのさっき、力強く抱き締められた感触が、まだ鮮やかに残っていた。
一瞬、顔を上げて彼を見る。
その横顔の静けさと、頬にかかった髪を揺らす風の匂いに、息が詰まる。
(……だめ。心臓がうるさくて、まともに見れない。――なんでこんなに苦しいの?)
すぐに視線を逸らし、俯いたフィオナを見て、カイエンはわずかに眉をひそめた。
「無理をするな」
「……いいえ。本当に、大丈夫ですから」
返す声は少し震えていた。
それでもどうにか落ち着いてみせようとする姿に、カイエンは小さく息を吐き、肩に添えた手に力を込める。
ぎこちなさが少しだけほどけたとき――隣で歩いていたダニエルが、にこっと笑みを浮かべた。
「……やっと、僕の知る父上と母上になってくれましたね」
「……は?」
カイエンが振り返り、その眼差しが鋭く光る。
「……何を言っている?」
低く問いただす声。
だが返ってきた言葉は、あまりにも非常識だった。
「僕、未来から来た父上と母上の息子です」
「ふざけるな、こんな時に――!」
カイエンは怒鳴りかけて、言葉を喉で詰まらせた。
戦いの最中に見た剣筋――粗削りながらも、自分と寸分違わぬ型。
漆黒の髪はまさしく己のもの。淡い青の瞳はフィオナのそれ。
顔立ちも、どことなく自分に似ている。
そして――自分がどう向き合えばいいのか迷っていた間、フィオナの傍らで支えていたのはこの少年だった。
不安げな彼女の隣で、迷いなく寄り添っていた姿が脳裏に蘇る。
全てが一つに繋がっていく。
だが、心の底から受け入れることなどできるはずがなかった。
「……信じられるか、そんなもの」
低く吐き捨てると、ダニエルはあっさり白状した。
「母上には、もう伝えてありますよ」
「……なっ」
カイエンの目が大きく見開かれる。
隣のフィオナは真っ赤になり、乱れそうになる呼吸を整えた。胸の鼓動が、どうしても抑えられない。
そんな二人を前に、ダニエルはニヤリと唇の端を持ち上げた。
「未来では、父上と母上はとっても仲の良い夫婦でした。……だから、やっと安心できましたよ」
カイエンの顔に、みるみる赤みが差す。
「な……なにを……!」
声が裏返り、フィオナはさらに俯いて耳まで真っ赤になった。
――その光景を、ダニエルは満足げに見つめ、そっと微笑んだ。




