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ルネとの記憶


「はあ!?ルネ第二王子者の元婚約者!?」


ロイド先輩は私の言葉を聞いてそう声を上げる。


「しー!だ、駄目ですよそんなに大きな声で言っちゃ…!」


「なに…何で!?あんたってそんないい家の子だっけ!?」


「平民です…」


私はしょぼくれながら答える。


「じゃあ…解った!俺の時と一緒で聖女としての能力を買われたんだろ!

 他に行って欲しくなかったから婚約してた…とか?」


正直、私も彼の目的が何なのかは解らなかった。


「多分…そうなんだと思います」


「面白くなってきたじゃん!なあ、もっと聞かせろって

 ルネ王子とはどういう経緯で知り合ったのかとかさ!」


「…えーっと…」


私は頭の中にあった彼との思い出を掘り起こす。


ーーー


元々、魔術の才能を見込まれて入学が許された私は少し特異な存在だったので

中等部の頃よく男の子達にいじめられていました。


「やめて下さい!引っ張らないで!」


「帰れよ平民!お前がいると学校の格式が下がるんだから」


…そんな時、


「おい、やめろ貴様ら

 女子に手を上げるとは野蛮な連中め」

助けてくれたのが、彼だったんです。


「げっ…ルネ様…すみません…」


「何だよあの王子、魔法もろくに使えない癖して威張りやがって…」


ルネ様は中等部2年の頃、「魔法が上手く使えない王子」として有名で…

敬称の序列も14人中12人目とかなり低い位置にいました。


私は、何かこの人の役に立ちたい、と思い…

彼のバディになる事を申し出まして


「俺のバディに?やめておけ、笑われるぞ」


「い、いいんです!やらせてください!」


彼の魔力が溢れ気味な事に気付いて、ロイド先輩の時みたいに調整したら

彼はどんどん魔法を使えるようになって行き

凄まじい速度で成長していきました。


「凄い…!君がいたら王にもなれるかもしないぞ!

 …もし、俺が王になったら…

 絶対不自由はさせないし世界一幸せにしてみせる

 だから…俺の傍にずっといてくれるだろうか?」


―彼は次第に、本気で王位継承を目指すようになり

確実に実力を付けてとうとう継承権1位にまで上り詰めたんです。


…でも


「リコ、もう俺の為に祈るのはやめろ

 俺は君がいなくても強い」


彼はそれから私を後ろに置くのみとなり

彼の傍にいる時は必ず顔を隠すように言われました。


元々、聖女としての腕を見込まれて傍に置かれていた身でしたから

私にとってはそれはほぼ「用なし」と言い渡されたような物。


それでも1年程婚約関係が続いたある日のことです


「リコ…とある筋から聞いたのだが

 君は前の序列試験で俺にバレないよう祈りを捧げていたそうだな

 見ているだけでいいと言っただろう!余計なことを!」


「すみません…お、お役に立ちたくって…!」


「ふざけるな!平民が婚約者だと周りにバレたらどうする!」


…彼の言葉を聞いて、ハッとしました。

私はもう、彼の傍にいる事で利益を成せる人間じゃない。

存在が明かされれば彼の地位を下げてしまう、

そんな人間なんだって気付いたんです。


それからは一緒に何をするにも気まずく、

ルネ様の責任感の強さから惰性で付き合われているのだと察していて

…だから


「リコ、君との婚約を今日をもって破棄する事にした

 …父上からも許可は得ている」


正直その言葉を聞いた時は…「そうだろうな」と心の中で思っておりました。

そして彼に新しい婚約者が出来た時、噂を耳にして気付いたんです。


「ルネ様はカレン嬢の美しさに一目惚れしたらしい」


私といつも一緒にいたカレンを、ルネ様はずっと慕っていて

それでも私を婚約者にして継承争いに巻き込んだ手前

中々婚約破棄を言い出せなかった事、

そして


私は聖女として選ばれた身でありながら、

彼の事が好きだったって事。


婚約破棄を言い渡された時、少しでも抵抗出来るような女だったら…

「ずっと好きだったんです、今までありがとうござました」ぐらい

言える女になれたら、どれだけ良かったか。


…彼とは頻繁に図書室前で遭遇して、たまに戸締りについて叱られるのみ


今何か言ったって身の程知らずの勘違い女だと思われるだけ。


だから…その…


ーーー


「もうほぼほぼ他人みたいなものです…」


私が照れながら言うと、ロイド先輩は訝し気な顔をしている。


「あの…私何かやらかしました?」


「…忘れろ」


彼はいいながら私の耳を軽く引っ張る。


「忘れろよ、そんな奴

 まだ好きなの?」


「…どう…なん、でしょう…」


「じゃ、嫌いになれ…いや、どうでも良くなっちまえ!

 話聞いてる限り碌なもんじゃねえよ」


どうでもよく…か。

そんな事出来るのかな?


「でもその…長い間ずっと一緒にいたので…

 忘れるのは難しい、かも」


私が言うと、彼は私を壁に追い込んで顔を近付ける。


「はえ!?」


「俺が忘れさせてやろうか」


言いながら、彼は顔を近付けて来る。

私はその時トウマ様の言葉を思い出した。


『ロイド君って女の子好きだから油断してると危ないよ!

 なるべく2人きりにならない方がいいし

 迫って来たら逃げる事!』


あれ…本当だったんだ!


「だ…駄目ですロイド先輩…!」


「おい、こっち向けって

 俺たちもっと仲良くなれるって思わない?」


「え…と…」


「スト―ップ!ロイド君止まって!」


私が目を閉じた瞬間、その場に聞き覚えのある声が響く。


「トウマ様…!」


彼は少し息を切らしながらこちらに駆け寄ると、私からロイド先輩を剥がす。


「なんだよいい所だったのに…」


ロイド先輩が頭を掻きながら言うと、トウマ様は彼をキッと睨む。


「どこが!無理矢理迫ってたよね!?見てたよ!」


「無理矢理じゃねえって、女子の『駄目』は来いって意味で…」


「違いますよ!どこの常識ですかそれ!」


「もー!可愛い子にはすぐ手を出すんだから!

 この子には手出しちゃ駄目!解った!?」


「…やだ、何で王子様にそんな事制限されなきゃなんねーの

 恋人も婚約者もいないんだし別にいいじゃん

 エミリ次第だろ、それ」


ロイド先輩が言うとトウマ様は赤面しながら俯いてしまう。


「それはそう…だけど」


「…まあいいや、『お友達』に会えてよかったねトウマ君

 今日は感動の再開を祝福して気を遣ってやるよ

 またな、『リコ』」


あ…あれ、名前…


トウマ様は睨みながらロイド先輩を見送ると、まるで壊れた人形のような動きで私の方へゆっくり振り返る。


「あ…変な所、触られなかった…?」


「さ、触られてないです…急に迫られたからびっくりしただけで

 …すみません、忠告して頂いてたのに…」


私は何となく気まずくて地面を見る。

この前…図書室に行かなかったの、怒ってないかな?

…そもそも、トウマ様はここまで何しに来たんだろう?


カレンへのプロポーズは終わったんだろうか?


…気になるけど…聞きたくないな。

「あっ…じゃあ私はこれで!」


「リコ!」


トウマ様は言いながら震えた手で私の腕を掴む。


「…あのさ俺

 リコに言いたい事があるんだ」


彼は真っ直ぐ私を見て言う。

私は胸を高鳴らせながらスフェンの様な彼の瞳を眺めていた。

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