伝わる想い
心配して見ていると、トウマ様の足にルネ様の火球が当たる。
彼も疲れて来たのか、動きのキレが落ちて来ているようだ。
「気持ちがあったならなら何で本人に説明してやらないんだよ!
あんたが言葉足らずなせいで……リコがどれだけ傷ついて来たと思ってる!」
…そう、不器用なルネ様の事だ、
きっと私が普通に聞いたって教えてくれない。
だからトウマ様はこんな形で私に真意を伝えようとしてくれたんだ……!
「ふん、減らず口を……」
ルネ様はトウマ様を取り囲む様に火球を召喚する。
同時に観戦してる生徒たちもどよめいた。
関心している場合では無いかもしれないが、序盤からあれだけ強化魔法を使っていたにも関わらず、これだけの強化をできる魔力が残っているなんて……。
カレンの技量は学生のそれじゃない、城に勤めている聖女クラスの実力だ。
こんな物を受ければ、動きの鈍くなったトウマ様では避けることができない。
火球が降り注ぎそうになった時、トウマ様は咄嗟にシールド魔法を展開する。
その時、私は祈りを捧げた。
すると、トウマ様の全身を覆ったシールドは
ルネ様の火球を全て防ぐ。
……よかった、拒絶されない……!
特訓の効果か、トウマ様に強化魔法が通用するようになっている。
トウマ様は少し唖然とした様子で私を見ると、すぐにいつもの笑顔に戻り私に目配せする。
私は頷くと、トウマ様の召喚した火球を会場を覆うほどに増やしてみせる。
会場は熱気で視界が歪み、観戦していた生徒たちは混乱しながらもルネ様の様子に注目していた。
「俺の勝ちだね、ルネ王子」
トウマ様が言うと同時に、大量の火球がルネ様の元に降り注ぐ。
……これは、流石に避けられないよね……
少し不憫にも思いつつ、私はトウマ様にブイサインをして見せた。
ーーーーー
……幸いシールド魔法のお陰で傷は浅かったものの、ルネ様の服は火球に当たりボロボロになっていた。
「……俺の負けだ……もうリコには近づかない」
決着の後、ルネ様は寂しそうにトウマ様に言い放つ。
「……その前に……リコに何か言う事無いの?」
トウマ様はそう言って何かを促す。
「あっいや、謝罪なんて結構ですので……!」
「そうじゃなくて……ずっと思ってたことの方。」
トウマ様に言われ、ルネ様は顔を赤らめると
息を呑んで私の方へ向き直る。
「……色々と……勘違いさせてすまない。
俺はずっと……君のことが、好きだった。」
ルネ様の真剣な眼差しが刺さり、思わず頬に涙が流れる。
「……はい、私も……ルネ様の婚約者でいれた時間は、幸せでした。」
私が答えると、ルネ様の顔が綻ぶ。
やっと、言えた。
あの時言えなかった言葉。
ずっと言えずに後悔していたのを、伝えられ日が来るとは思ってもみなかった。
「では、もう一度婚約を」
「あ、それは……大丈夫です。」
私はルネ様の申し出をキッパリと断った。
ずっと思っていたことだが、ルネ様はあまりにも……不器用すぎる。
いや、不器用なんて可愛い言葉で終わらせていいレベルじゃない、言葉足らずすぎるのだ。
ルネ様の真意を知り、切なさや劣等感は消えた……しかし、今度はふつふつと小さな怒りの感情が湧いてきている。
「私も人の事を言えた義理では無いですが……!ルネ様はもう少し思っている事を伝える努力をするべきだと思います!
カレンに嘘を吹聴されたのだとしても、私に一言相談下さればすぐに解決したではありませんか!」
私に言われ、ルネ様は分かりやすく肩を落とす。
「……でも、もう二度と会えないと言うのは……寂しいです。
トウマ様、その……二度と関わらないという条件、なんとかできませんか?」
「リコが望むなら勿論緩和するよ!……リコに触らないでね、ルネ王子。」
言いながらトウマ様がルネ王子を睨む。
もしかして、こうは言いつつ不服なのでは……?
でも、全て丸く収まってよかった!
「ふざけないでよ!使えない虫ね……!
私が今回の決闘にどれだけの代償を払ったと思っているの!」
私が安堵していると、カレンが叫びながらふらふらとこちらに歩いて来る。
彼女の目は真っ赤で、息は荒く……明らかに様子がおかしいのが見て取れた。
「カレン……?君は一体何を……」
ルネ様が困惑していると、
「おい、通るぜ!失礼」
と荒い言葉遣いの女性の声が響き、振り返るとフレッド様とコンチータさん、ナターシャさんがこちらに向ってくるのが見えた。
皆さん、観戦しに来ていたのか……
「おうリコ!やっぱお前の祈りやべーな!感動したぜ」
コンチータさんが私の頭を撫でながら言う。
一方で、ナターシャさんはカレンの体を押さえつけ、フレッド様は暴れるカレンの目をじっと見て何かを調べていた。
そしてカレンこ体からナターシャさんが何かを取り出すと
「フレッド様、間違いないですわ」
と言う。
「そうだね、また厄介な物を」
2人が意味深につぶやくので、私は
「あの、カレンは一体どうしてしまったのですか?」
と尋ねる。
「カレン嬢は違法の魔具を使用していた。」
フレッド様の言葉に会場は大騒ぎする。
違法薬物……!?どうしてそんなものを。
「魔力を異常に引き出す事ができる、数年前に流行った魔具よ。
使うと身体に異常が現れるの。
序盤から高度な強化を沢山行っていたから、変だとは思ったのだけれど……」
「連行しよう、コンチータ、カレンを拘束して」
「あいよ」
聖女たちに拘束の魔法をかけられると、カレンは暴れて何かを叫びながらどこかへ消えて行った。
……カレン……私の為に罪まで犯してしまうなんて……
カレンの行動は独りよがりで、私の全く望まないものだったが、こんな形でお別れになるとは思わなかった。
「ま、どっちにしたって俺が勝ったから問題ないね?相手がズルしてたのに勝てるなんて、流石は俺のリコだ!」
トウマ様は言いながら私の頭を撫でる。
「私の……って、まだ告白の返事してないんですけど!」
「じゃ、今聞かせて」
「……私も……私も、トウマ様が好きです!」
私が叫ぶと、トウマ様は私を抱き締める。
観戦していた生徒たちからは、拍手が起こった。
きっとこの人なら、いい未来を築いていける。
私は、トウマ様の体温を感じながらそう確信していた。
ーーーーー
一方、カレンを連行したフレッド一行は刑務所を目指し車を走らせていた。
「良かったのかよ、あの感じだとトウマ殿下とリコが恋仲になってめでたしって感じになりそうだぜ。」
コンチータがハンドルを握りながら言う。
「野暮だな、リコが他国に取られるよりはまだ王族のバディにでもなってくれた方がマシだよ。
僕は可愛い平民共が平和に暮らせればそれでいいんだ。」
「まだ王位継承は目指してもらうわよカス王子、私たちの給料をもっと上げて貰わないと。」
「はいはい、……手のかかる聖女達だ。」
フレッドはそう言って静かに笑った。




