決闘
「ふん、今日もまあまあの出来ね」
マリーベルちゃんが、言いながら夕食を頬張る。
「美味しいですありがとう、だろ?
ごめんなリコ、マリーベルがあんたの料理気に入ったみたいでさ。」
「リコ、このリンゴはどうしてうさぎの形をしてるの!?」
「え?言われてみれば何でだろう……その方が可愛いからですかね」
私が答えるとロイドさんは苦笑いしながら
「真面目に回答しなくてもいいんだぜ」
と言った。
いつもの光景、もう慣れたものだったが、
このお屋敷に勤めるのも今日が最後だ。
「リコ、本当に辞めるの?別にあんたさえ良ければまだいてもいいんだぜ。」
「200万、無事に貯まったので……こんな好条件で雇って頂くのも悪いですし」
「また料理作りに来てくれないの?お人形遊びくらいしに来るわよね?」
マリーベルちゃんが不安そうに言う。
「そんなのにまで付き合ってたのか!?……リコ、あんまりうちの妹誑かすな」
「た、誑かしてないです」
ひとえにそちらの妹さんが異常に可愛らしいのが悪い。
「そういえば、トウマとルネ王子の話聞いたぜ?なんだか大変な事になってるな」
「あ、お兄様がトウマ様を呼び捨てしてる、いけないんですわよ」
「マリーベル、ちょっと黙ってなさい」
ロイド先輩は笑顔でマリーベルちゃんを窘める。
やはり決闘のことは耳に入っているのか。
「で?見に行くの?」
ロイド先輩に尋ねられ私は視線を落とす。
「迷ってます……どちらが負けるのも、見たくないですし。」
「俺は行って損はないと思うぜ。その場にいないとあの二人、よく分からん事始めそうだし……決闘を申し込んだのはトウマらしいから、きっと何か考えがあるんだと思うぜ。」
「そう……だとは、思うんですけど……」
トウマ様、私の問に答えてくれなかった。
もし、彼が負けるような事があれば……私は……
「もし会場にいなかったら、どっちかと会えなくなる時、お別れも言えないかもよ。」
「……!」
「また後悔したいなら、別に止めないけど。」
ロイド先輩の言葉に、私は意を決する。
……そうだ、例えトウマ様が負けたとしても、また言いたい事も言えず離れるなんて、嫌だ。
「私……行きます、グラウンド……!」
私はそう言い放った後、
「今までお世話になりました!ここのお給仕、とても楽しかったです!」
と言って頭を下げ、その場を後にした。
…
リコを見送ったマリーベルが、
「変なの、お兄様ってリコが好きなのにどうして他の男の味方をするの?」
と尋ねる。
「……恋愛の話はマリーベルにはまだ早いよ」
ロイドはそれに、少し拗ねたような顔で答えた。
ーーーーーー
……決闘当日、私はグラウンドに足を踏み入れた。
グラウンドには、そこそこの人が観覧に来ているのが解り少し気まずい。
トウマ様は私を見つけると、嬉しそうに手を振る。
「来てくれたんだねリコ、嬉しい!
良かったらグラウンドに上がって見てて、祈る必要はないから」
私はトウマ様の促すままにグラウンドに入ると、
寂しげな表情で私を見つめるカレンの姿があった。
「あ……えっ……と……」
「リコ……ごめんなさい……私……
リコの為と思って酷い事を……」
カレンが言い切る前にトウマ様が割り込むと、
「話は決闘が終わってからにして」
と言い放つ。
なんだか、カレンの様子……おかしかったな。
目が異様に赤くなっていたような……
少し遅れて、ルネ様もグラウンドに入って来るとトウマ様を睨む。
「リコを聖女として使うつもりか?
……彼女の才能が明るみになれば、多くの男がリコを求めるぞ。」
「今日は見てるだけ!
無駄口叩いてないで持ち場に付けよ。」
彼らは持ち場に付くと、審判の合図によって睨み合う。
……マリスの決闘は、魔法で戦って膝を付いたら負けだ。
どっちを応援したらいいのだろう。
ーー先に仕掛けて来たのはルネ様だった。
彼は5つの火球を召喚するとトウマ様に当てる。
私はそれを見て思わず目をつぶってしまった。
「トウマ……見損なったぞ。最強の聖女を探していると聞いてはいたが、まさかリコの能力を目的に近寄るとは。」
ルネ様は火球を必死に避けるトウマ様に言い放つ。
「まあ最初はそうだったけど……
今は色々他に好きなとこもあるから!
ルネ王子こそ婚約破棄しといて未練たらしくリコに付き纏うのすっげえかっこ悪いよ!」
トウマ様が言うと、ルネ様は図星を疲れたのか魔法のコントロールを間違え何も無い場所に火球を投げてしまう。
トウマ様も風魔法で反撃しようとするが、
相手の質量が多すぎて少し押されている。
……と、言うより……ルネ様はここまで強かっただろうか?
いや、彼が成長したのもあるだろうが、聖女の力がかなり大きそうだ。
カレンが優秀なのは勿論知っていたが、
こんなに派手な強化魔法を沢山使っても涼しい顔をしているなんて……私の知らない間に相当腕を上げたようだ。
一方トウマ様は、運動神経がいいのか先程から軽快に魔法を避けてはいるものの、
このまま疲労するまで長引けば負けてしまいそうだ。
「うるさい!貴様に何が解る!こちらだって好きで婚約破棄した訳じゃ無いんだ!」
「知るか!カレン嬢の話を鵜呑みにして事実確認も無しに破棄するなんてどうかしてるね!」
トウマ様の動き……妙だ。
反撃する様子もなく、「ただ何かを待っている」ような、そんな動き。
まるで時間稼ぎをする為にひたすら逃げ続けてるみたいだ、にも関わらず口数は異常に多い……
もしかして、情報を引き出す様な煽り方をしている……?
トウマ様の劣勢は続き、単純な魔力の量で押され続けているのを、身体能力でカバーしているようだった。
「リコとの婚約を公表しなかったのも酷いよ!
平民と婚約してるのがそんなに恥ずかしかったの!?」
「違う!さっきも言ったろ!
表に出せばリコを狙う男が後を絶たないからで……!」
「聖女の仕事をさせなかったのも?」
「そうだ!リコの能力目的で寄ってくる男を避ける為……そして
能力目的で婚約していると思われたくなかったんだ!」
そう……だったんだ。
後者は初めて耳にした。
……やはり、私の予感は当たっている。
トウマ様はわざとルネ様を焚きつけるようなことを言って情報を引き出しているんだ。
トウマ様……もしかして……勝つつもり、無いの?




