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「女は花、男は虫。綺麗な花に寄ってきて、葉を食べ、養分を吸い取ろうとする、それが男という生き物」


お母様はなにかにつけそれをよく呟いていた。

私のお母様はかつて、宝石に例えられるほどの美しさだったのだという。


しかし、お父様の手に落ちてから、お母様の髪は艶を失い、肌はくすんでいき、唇は枯れた花びらのようになっていったと聞く。

私が物心つく頃には、お母様の姿を「宝石」とはとても思えなかった。


そして、私はそんなお母様の姿を見て「ああ、食い尽くされた花はこうなるんだ」と思ったものである。


私が初等部に上がる頃には、その美しさに誰もが息を呑んだ。

私も母譲りの、とても美しい花に育って行ったのだ。


だから母は毎日、洗脳のように言い続けた。

「女は花、男は虫」男に簡単に気を許してはならないと。


そして私はそれを、自分ではなく他人で実感することになる。


(だめだ……どうしても強化の魔法が上手く行かない。

お母様があれほど仰るんだもの、男性はきっと怖い生き物なのだわ。

そんな男性相手に魔法をかけなければならないなんて、恐ろしい。)


私は母の教育のせいか男性を過剰に恐れるようになり、聖女としての「祈り」が上手くできなくなっていた。


そんな時、彼女に出会ったのだ。


「大丈夫?強化魔法、苦手?」


(この子は……リコ・エミリさん……確か平民出身だけど、魔法の扱いが人より長けてるって先生が話していたっけ。)


無邪気に笑う彼女に見惚れて戸惑っていると、リコは私に本を差し出し、

「私もね、強化魔法が苦手だったの!でも勉強したら上手くできるようになったんだよ!私が練習台になるから、一緒にやってみよう!」

と言った。


――リコは、恐らく先生方が想像するよりもはるかに優秀だった。


恐らくは中学レベルで習うであろう魔法や、聖女が余り好んで使わない魔法を好奇心と探求心で学習していた。

リコは魔術の天才……そして、可愛い私の友達。

そしてそんな彼女の魅力を知っているのは私だけという事実が、嬉しくてたまらなかった。


……しかし、綺麗な花には虫が寄って来るもの。


リコは中学に上がると、「平民だから」という理由で男子からいじめを受けるようになる。

しかし、名目は「いじめ」だが、彼女をいじめていた男子たちはみな、リコに興味を持っていると私はすぐに気が付いた。


何度か止めに入ったものの、侯爵家の娘という地位では彼らを抑止しきれない。

そんな時、あの男が現れた。


「おい、やめろ貴様ら!女子に手を上げるとは野蛮な連中め」


ルネ・アンドルシュ……

奴は男でありながらリコを守り、その心を奪ってしまった。


そればかりか、リコのその天才的な魔法の腕を利用し自身の地位を押し上げるとは生意気な虫だ。

リコの才能を知っているのも、リコの美しさを知っていたのも私だけだったのに……気づけばあの男は、リコと婚約までしてしまう。


それだけで気に入らなかったというのに、ルネはリコの存在を秘匿するようになり……

私の妄言一つで、「平民が婚約者だと周りにバレたらどうする」等と吐き捨てたらしい。


リコはルネにその言葉を投げかけられてから、ひどく落胆しときどき涙するようになってしまった。


あんな男、リコの婚約者として相応しくない。


だから虫を排除したのに、やっと排除できたと思ったら次はもっとしつこい虫が寄ってきた。


何度来たって同じ、私が何度でも虫を排除する。

そう思っていたのに……リコに私の今までの所業がばれてしまった。


……でもいいの、リコもきっと時間が経てば解る、私が一番リコを思っていたんだって。

トウマとの戦いで、ルネを勝たせればいいだけのこと……


リコは……誰にも渡さない。


ーーーーーーーー


――リコはトウマに連れられ、学校近くの高台に足を運んでいた。


「わ……こんな場所があったんですね。」


高台からは街が一望でき、小さくなった街はまるでジオラマのようだった。


「カレンから……聞いちゃったよね?決闘の話。」


トウマ様は頬を掻きながら私に尋ねる。


「は、はい……知らぬ間に大事になってて驚きました……」


「リコには、苦痛って言うのを分かった上で……よければ当日、学校のグラウウンドに来て欲しいんだ!そこで戦う予定だから……」


「ええ!?いやでも……!」


「リコは俺の後ろで、顔隠して立ってればいいだけ!……っていうと、ルネ王子とやらせてること一緒だけど……

でも絶対にリコの為になることがあると思うんだ、だからお願い!」


トウマ様は必死に訴えた。


なんだか妙に引っかかる。

トウマ様は、「勝つから見にきて欲しい」ではなく

「リコの為になるから来て欲しい」と言った。


もしや決闘の勝利とは別に、何か狙いがあるのだろうか……?


「ちょっと考えさせてください、その……いくらトウマ様の為とはいえ、あまり目立ちたくなくって……」


「大丈夫、一応リコを俺の聖女として登録してあるから、当日気が向いたらグラウンドまで来て!」


トウマ様はそう言うと、「言いたいことはそれだけ、帰ろうか」と言って私に手を差し出した。


「……トウマ様、勝ってくれますよね?」


私はトウマ様の言動を不安に思っていた。

色々と妙だ、ルネ様にはカレンという優秀な聖女が付いているのに、私を聖女として登録しているということは、トウマ様は1人で戦うということになる。

勝算もなくトウマ様が決闘を申し込むとも思えないが、彼が今ルネ様に勝ちたいという風にも見えない。


もし負けたら、トウマ様は私と会えなくなってしまうかもしれないのに……


私の問いにトウマ様は黙ったまま返事をせず、私の不安は大きくなるばかりだった。

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