真実
……ルネ兄さんに連れて来られた図書室で、
俺は目を輝かせながら
「それで、どうして婚約を破棄したの?」
と尋ねる。
「……リコが……聖女としてあまりに有能だったから。」
「へえ?」
「俺には魔法の才能が無く、リコがバディになってからというもの、どんどんと魔法が上達していった。
周りの評価は一変し、彼女に恩を感じた俺はリコに恩返しをする為に王になる事を決意した。しかし、途中で妙な意地が出てな。」
『リコ、もう俺の為に祈るのはやめなさい。
俺は君がいなくても強い。』
「そう、伝えたのだ。リコは……天才だったから……。
他の魔術師に狙われるのを避けたかったし、何より彼女の能力目的で婚約していると思われたくなかった。」
あれ、この人もしかして……
リコの事本当に好きなのか?
「しかし去年の序列試験後に、俺はカレンに教えられたんだ、
『リコはあなたにバレない様に祈っていましたよ』と……」
カレン……俺にもやけに噛み付いて来たけど、彼女の目的は何なんだ?
「俺は強化されている事にも気付かず強くなった気でいた。自分の未熟さに怒り、それをリコにもぶつけてしまった。
……俺を思って祈ってくれていただろうに……『平民の女が婚約者だとバレたらどうするんだ』等と、取り返しのつかないことを言ってしまったんだ。」
「それは最低だ」
「み、みなまで言うな。
その後、リコに謝罪し外出等なるべく二人の時間を増やしてはみたのの……
リコは俺と一緒にいる時、笑顔を見せなくなっていった。
これもカレンから教えられたことだが」
『貴方様の言葉にリコはとても傷付いていました、もう顔を見るのさえ辛いと……』
「……そう伝えられ、もうリコの心を留めておくのは難しいと思っていた矢先、周囲の人間からの『あの平民と別れなければただではおかない』という圧力も強くなっていった。
俺の我儘だけでは、彼女を引き留めておくことは……できない。
それでリコとの婚約を破棄したのだ。」
ルネ兄さんは悔しそうに拳を握る。
なるほど、彼は婚約は破棄したがリコの事は好きだったのか。
だからあんな妙な絡み方を……
「ルネ王子って、本当に不器用だね」
俺はそう言って彼に笑いかける。
ルネ王子は俺の言葉が刺さったのか「うっ」と小さい悲鳴を上げて胸を抑えた。
「リコにはこの事、絶対に言うなよ。」
ルネ兄さんからしたらそう言うしかないだろうが、そうするとリコにこれを伝える手段がない。
……そうだ、なら、「ルネ王子に伝えて貰えば」いいのでは?
勿論、ルネ王子が直接リコにその旨を伝えることはなさそうだ。
ならば、俺を間に介してみれば口を滑らせるかもしれない。
加えて、リコの事が絡まなければルネ王子は基本に冷静だ。
普通に頼んでももう一度この事を話すとは思えない。
冷静さを欠きやすい状況で情報を引き出すのはどうだろう?
「ルネ王子、俺と決闘しよう!」
「な、何故そうなる!?仲を取り持つという話ではなかったのか!?」
「取り持つけど、決闘もする!負けた方は金輪際リコとは関わらないって条件で、どう?」
「なぜわざわざそんな……」
「俺、実は昨日リコに告白してるんだよね」
俺が言うと、ルネ王子の動きが止まる。
「このまま放置してたら……リコと付き合っちゃうかもよ?」
「……わかった、受けよう。俺が負ける事等有り得ない。」
ーーーーーー
翌日、リコは図書室で貸出票の管理をしていた。
「あ、これまだ返してもらってない……」
私が未返却に憤っていると、「大変よリコ!」という叫びと共にカレンが勢いよく図書室に入ってくる。
「うわっ……カレン、どうしたの!?」
「トウマ様とルネ様が決闘するって……!これは生徒達には広まってないけど、あなたを巡って戦うみたいなの!」
「はい!?」
予想もしていなかった言葉に私は呆然とする。
「勝った方はあなたに近付かないって条件で戦うらしいわ……
ごめんなさい、私はルネ様のバディだからルネ様の味方をするしかなくて……
トウマ様が今、あなたを探してるみたいなんだけど……悪いことは言わないわ、当日試合を見に行っては駄目、好奇の目に晒されるだけよ!」
勿論そんな場所に行く気はさらさらない、どこで行われる決闘かは解らないがそんな状況の中足を運べ注目の的だ。
「そうだ、私の家に逃げない?匿うわ!なるべくあなたが巻き込まれないように守ってあげる!」
「カレン……でも……」
この決闘はきっとトウマ様にも何か考えがあってのことだと思う。
何も聞かないまま逃げたりしたら、ルネ様とトウマ様、どちらかと会えなくなってしまうだけだ。
「何迷ってるの!早く行きましょう!」
カレンが焦ったように言い放つと、
「待って、どこに連れて行こうとしてるの?」
という言葉と共に図書室の扉が開く。
そこにはトウマ様が怪訝な表情で立っていた。
「トウマ様……!」
「リコ、伝えたい事があるんだけど今平気?」
トウマ様はそう言って少し警戒したようにカレンを見る。
「トウマ様、お言葉ですがリコを巻き込んで王子二人が決闘だなんてリコが余りにも不憫です、極力目立ちたくない彼女の気持ちを無視し過ぎではありませんか?
恋人でもないのだから、リコに執着するのはやめてください。」
カレンは、珍しく敵意をむき出してトウマ様に言い放つ。
トウマ様はいつもの輝くような笑顔を曇らせカレンを少し睨むと
「執着してるのはどっちなんだか……
少なくとも俺は嘘吐いて婚約者と引き離したりしないけど?」
と言う。
嘘……?何の話だろう?
カレンは少し怯むと、黙り込んで俯いてしまう。
「ルネ王子から少し事情を聞いたんだ。
リコがこっそりルネ王子の強化をしていることをバラしたり、リコが言ってないような事をルネ王子に吹き込んだろ?
彼が不器用だからリコ本人に真意を聞けないのを逆手に取って……」
「うそ……そんなの……カレンがする訳……」
私が擁護している間も、カレンは何も言わず黙るのみだ。
「信じられないなら今からルネ王子を呼んで確認しようか?
きっと矛盾が出てくると思うけど。」
「カレン、嘘だよね?ルネ王子を呼んで頂こう!
トウマ様はきっと何か誤解してるんだよ!」
私が言い切る前に、カレンは唇を震わせた後、
「……そうよ」と呟いた。
「え……」
「ルネ王子……あの男、リコに釣り合わないんだもの。
リコが婚約者ってことをいつまでも隠して、聖女の仕事すらさせないなんて……!リコへの侮辱だわ!可哀想……!
だから……だから、破局するように仕向けたの!で、でも彼も悪いのよ!?リコに少しでも確認すれば、私の嘘なんてすぐバレた筈!
それすらできなかったって事はやっぱりリコを愛してなかったのよ!」
カレンは震えた声で言い切ると、
「私の方が……リコを愛してるわ……!
だってずっとあなたの知らないところで、男という害虫から守って来たんだもの……!」
と言って涙を流した。
……そんな事って……
では、ルネ様はカレンに惚れて婚約を破棄したわけでは無いということになる。
ならどうして……
私が考えていると、
「行こうか、リコ……君に見せたい景色があるんだ。」
と言ってトウマ様が私の手を引く。
トウマ様はカレンを一瞬睨むと、そのまま私の手を引いて教室を後にしてしまう。
……私はカレンになんと言葉をかけていいか解らず、かといって一緒にいれるような心境でもない。
彼に身を委ね、別のどこか遠い場所に連れて行って貰える事を心の何処かで期待していたのだった。




