フレッドの聖女
「僕の聖女になれよエミリさん。
生意気にも抱えられたくないんなら、一つの仕事毎に臨時で組んでもらってもいい。
今、腕のいい聖女がとにかく必要でね……
一日手伝ってくれたら10万の報酬、悪くないだろ?」
10万!?一日で!?
それならすぐに200万稼げるかもしれない……!
でも……この人の為に祈るのか……ちょっと……いや、かなり嫌だな……
「何?もしかして嫌なの?
こんなに譲歩してやってるのに。」
「ひっ……!嫌というかなんというか!」
「じゃあこれはオマケだけど……ルネの秘密を教えてあげようか。」
一歩引く私に、フレッド様が囁く。
「え……?」
「どうして君との婚約を破棄したのか、知りたくない?」
それはカレンに一目惚れしたからで……
いや……
「噂以上の事を知っているんですか……?」
「その噂が何が知らないけど。そうかもしれないしそうじゃないかもしれない、君が聞いてみないと判断できない事だ。」
とても気になる……!
この人はルネ様のお兄さんだし何か知っててもおかしくない。
『単純に彼女の内面に惚れていた』
ルネ様は以前、そう言っていた。
……なら、どうして婚約破棄したのだろうか?
あれからその疑問がずっと頭の中を巡っていた。
私の事、何かがきっかけで嫌いになったのかな?それとももっと別の事情?
私はちらりとフレッド様の顔を見る。
彼の顔は穏やかで、あくまでも静かに笑っていた。
「考えさせて下さい……
今の雇用主にも相談したいし。」
「別にいいけど……僕ってあんまり気の長い方じゃないからさ、
明日までには返事してね……じゃないと」
「じゃないと……?」
「君を無理矢理囲い込んで
有無を言わさずに働かされる未来が待ってる……かも。
最低限尊重されたいなら僕を待たせるなよ。」
私はその言葉に青ざめる。
やはりこの人、関わってはいけない人間かもしれない。
ーーーー
「フレッド会長の聖女に!?」
帰宅早々、ロイド先輩に事情を話すと、彼は驚いた様子で声を上げる。
「継続じゃなくて、その場限りのバディでもいいそうで……」
「そんな事言ってあの人最終的にあんたの事囲い込むぞ多分。
人生を乗っ取られたくなかったらおすすめしない!」
「そんな……いくらなんでも大袈裟じゃ」
「大袈裟じゃないの、あの人はそう言う人。前も言ったけど焦って稼ごうとすんなよ、俺もバイト探すの手伝うからその誘いに乗るのはやめとけ。」
ロイド先輩がここまで言うならやめておこうか…?
でも、フレッド様の申し出以上に好条件のお仕事なんて無さそうだし…
「じゃあ試しに一回だけでも……!
それで危険そうならやめておきますから!」
「一回でも二回でも同じだと思うけど……そんなにやりたいの?」
「はい……」
多少リスクがありそうなのは理解しているが、1回で10万はあまりにも魅力的だ。
「…解った、本来こんなの口出すべきじゃないだろうけど、マジでやばいと思ったら逃げる事、解ったな?」
「わかりました!」
ーーーーー
私はフレッド様に「やらせて欲しい」と返事をすると、
「日曜に王宮へ集合」と伝えられた。
日曜当日、少しビクビクとしながら王宮の前に立っていると、
王宮に着くと黒塗りの車が停まり、中からスタイルのいい女性2人が出てくる。
1人は金髪で鋭い目つきをしていて、もう1人は鮮やかなオレンジ色の髪をなびかせニコニコと穏やかな笑みを浮かべていた。
どちらも修道服を着ている事から、聖女である事が解る。
「よお、お前が新入り……?
へえ……いかにも王子の好きそうな感じだな。」
金髪の女性が私の顎を持ち上げながら言い放つ。
「コンチータ、怖がらせてはいけないわ!ごめんなさいね、粗暴で……
彼女はコンチータ、私はナターシャ、フレッド殿下が抱える聖女なの。」
「よ、よろしくお願いします!」
ナターシャと名乗る女性に握手を求められ、私は彼女の手を握る。
「早速で悪いけど車に乗ってエミリさん、一緒にフレッド様の所まで向かいましょう。」
ナターシャさんが言うと、車に乗るように促す。
「あの……これからどこへ向かうのでしょう……?」
「あ?知らされてないのか?
こっから東にある『リーバ』って地区の森に有り得ねえ量の魔物が沸いたらしいから、クソ王子が退治すんだ。あんたはその助っ人」
クソ王子って……!凄い言い様……
「駄目よ、あのカス王子をクソ王子呼びなんてしたら。可哀想でしょ?」
「お前も似たような名前で呼んでんじゃねーか!」
……もしかしてフレッド様……
人望がないのだろうか?
現場に着くと、フレッド様が笑顔で手を振っているのが見えた。
「やあ、僕の愛する聖女達」
彼がそう言って彼女達にハグをしようとすると
「触んな、色んなものが減る」
「子供は枕でも抱いてなさい」
と言って2人が拒否をする。
第一王子相手にもの凄い反骨精神だ。
「あはは、手厳しいな……ごめんね、
彼女達は特に可愛がってる聖女なんだけど、この通り僕にあまり懐いて無いんだ。」
「……みたいですね……」
不安だ、こんな仲の悪そうなチームでやっていけるのだろうか?
前向きに考えよう、部下にあんな軽口を許す程度にはフレッド様の心が広いと捉える事もできる。
「今日君にやって欲しいのは森の魔物の討伐依頼の補助……
って言うと大変そうに聞こえるかもしれないけど、要は僕の魔法に祈りを捧げて欲しいってだけ。……できる?」
「は、はい!頑張ります!」
私が元気よく答えると、フレッド様は「おいで」と言いながら森へ入って行った。
森は薄暗く、少し陰鬱とした空気が漂っている。
私はびくびくと足を進めているが、3人は慣れた様子で奥へ進んでいく。
この人たちはきっと、こういう依頼を多分沢山受けているのだろう。
ルネ様と一緒にいた時にはこんな以来を受けている所は見たことが無かったし、彼が第一王子だからだろうか…?
王位継承者も意外と大変なのかもしれない。
「いたわ、魔物よ」
ナターシャさんが立ち止まって言う。
奥をよく見ると、そこには沢山の猿の魔物が奇声を上げながら暴れているのが見えた。
「なーんだ、ただの魔猿かよ…こんなしょぼいのも倒せねえのか一般人は」
「まあまあ、今回はエミリさんの初仕事だし厄介なのがいても困るわ。」
「リコ、今からあれ全部倒すんだけど…そういう風に祈れる?」
フレッドさまが振り向いて尋ねる。
「そういう風」って……どういう事だろう?
「俺が雷の魔法を落とすから、
君はできるだけ魔法が広範囲に渡るよう調整するんだ」
「わ……解りました!」
フレッド様が杖を構え、少しの間詠唱すると、空が鳴り始める。
私はなるべく魔法が大きな力になるよう祈り、
目の前が光で眩しく感じるほどの大きな雷が落ちた。
私達の身はコンチータさんとナターシャさんの魔法によって守られたが、
その場にいた猿の魔物は全て雷に当たり倒れこんでしまう。
「……すごい……」
こんな大規模な魔法、見たことが無い。
ルネ様ですら天候を操る魔法など使えなかったのに……
私が呆気に取られていると、全員が私の方に振り替える。
何か、失敗しただろうか?
戸惑っていると、コンチータさんがゆっくり私の目の前まで歩いてきて、
何も言わずに睨みつけて来る。
「……あ……の……」
「すげえなあんた!マジで天才じゃん!」
「え?」
コンチータさんは満面の笑みで言いながら私の背中を叩く。
褒められ……た?




