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ヒロインはピュア☆ピュア

ヒロインはピュア☆Granddaughter

作者: 九曜 蓮

 思わぬ高評価をいただきありがとうございます!

以前投稿した他の作品も読んで頂けて嬉しい限りです。

前の感想で連載とか言ってましたが結局シリーズにしました。すみません;


 ひとまず、これでひと段落となります。

が、もしまた何か思いついたらこちらへ追加しようと思いますので、そのときはまた読んでやって頂ければ幸いです。

 善意の防犯教室の後、ピュアリナは知恵熱を出した。

内容に驚きはしたが、身を守るのに必要で大事なことであるのは分かったし、心配してわざわざお茶会を開いてくれた令嬢達には感謝しか無い。




 代表してお見舞いに来てくれたアクヤクローネ侯爵令嬢が持ってきてくれた林檎のシャーベットを口に運んでいると、風邪を引いた時にお母さんが作ってくれた蜂蜜入りの林檎のすりおろしを思い出す。

蜂蜜は、確か市場のおばさんがお見舞いにくれたやつだった。


お母さんと居たときも、お母さんが亡くなった後も、ピュアリナは優しい人達に親切にしてもらってきた。

男爵様はちょっと恐かったし、困ったけど、殴られたりご飯をもらえなかったりすることは無かったし、使用人の人達はちゃんとお世話をしてくれた。

そして入学したらやはり優しい先生達が親切にしてくれて――ガーク先生がお父様になってくれて、家族として迎え入れてくれた。



(私、幸せ者だなぁ……)


 まだ少し熱はあるけれど、この分なら明日には下がるかもしれない。


(登校できたら、皆様にお礼を言って……それから……)


 冷たいシャーベットが心地良く身体を冷やしてくれたおかげで、柔らかい眠気に包まれ始める。


(学園でいっぱいお勉強して……)


 はふ、という吐息と共にピュアリナの意識は暖かい眠りの海へ沈んでいく。



 …………将来は、りっぱな大人になって


 親切にして貰った分、今度は私が 皆を 誰かを 


 助けられるように なりたい な…………




やがて、すうすうと健やかな寝息の音がし始める。

しばらくして容態を見に来た寮監の老婦人は、ピュアリナの顔色を確かめると安心した様子で微笑み、水差しの水を入れ替え、静かに部屋の灯りを消して戻っていった。










 もはや学園で知らぬ者はない、このままだと天使とか無垢の代名詞になりそうなピュアリナだったが――実は、彼女が()()なのには生まれ持っての資質以外にも理由があった。





 それは彼女が生まれた時のことだ。


 ピュアリナの母親は、身重の状態でひとり王都の片隅へとやって来た。

明らかに訳ありだったが、身なりは質素なものの破れやほつれも無く、所作にも品があった。

これは碌でなしの旦那から逃げてきたか、貴族の手がついた挙げ句に追い出されたとかだろうと思い、町の者達は余計な詮索をする事無くそれとなく気にかけておくことにした。


 しかし、赤味の強い明るい茶髪と新緑色の瞳、整った顔立ちの彼女は朗らかな性格で頑張り屋の働き者だった。

なのであっという間に町内の人気者になり、妊婦の一人暮らしという事情をさっ引いても皆あれこれと世話を焼くようになったのだった。


いざ出産となった時はまた凄かった。

近所中の手伝いに来れる奥様+婆様がやってきて、近くの産婆と、ちょっと遠くだが手の空いてた腕利き産婆と、引退したはずのゴッドハンド産婆の三人体制で分娩に備え、立ち入れないおっさん&爺様達は家の周りをオロオロと彷徨いていたという。


 そうして皆に見守られながらピュアリナは元気に産声を上げた。


 産湯をつかい、母親の手当や様々な処置を終えた後、いつもお世話になっているおかげでこうして無事生まれたのだからという母親の希望によって、赤ん方は早速集まってくれた近所の人達にお披露目された。


簡素だが丁寧に縫われた肌着に包まれたピュアリナは、もうこの時点で既にかなり可愛いかった。


「こんな可愛らしい赤ちゃんは初めてだ!」

「おお、めんこいのう、じいじじゃよ~」

「誰がじいじじゃ。そんなむさ苦しい顔を近づけたら赤子が泣くじゃろうが。」

「なんじゃい、鬼ばばあ。」

「よさんかお前ら、赤ん坊の教育に悪いわい。」

「しかし、なんと小ちゃい可愛いあんよだ。儂が世界一柔らかいお靴を作ってやるからのぉ。」

「もう少し大きくなったら、うちの自慢の林檎を食べさせてあげたいねぇ。」


 とびきり可愛い赤ん坊に大はしゃぎするジジババに、手伝いに来た奥様方は笑い、ピュアリナの母親は良いご近所に恵まれたことを心から感謝した。

 そして


「ふふ、素敵なお爺ちゃんとお婆ちゃんが沢山いて、この子は幸せ者ね。」



 その何気ない一言が町内(せかい)を変えた。




 翌日からというもの――――


「おや爺さん、朝から飲んだくれてないなんて珍しいじゃねえか。」

「フン、孫の花嫁姿を見ずに死ねんからの。節制じゃい。」


「婆さん、このところ随分内職に精を出してるじゃないか。」

「孫の玩具代くらいは稼ぎたいからね!」


「警邏隊の再雇用試験を受けるって本気か?!」

「へへっ、孫娘に格好良いとこ見せたくってよ。」

「いや、お前結婚どころか女が出来たことも無かっただろ。」


 なんかその気になったジジババ達が張り切りだした。

周りはちょっと呆れながらも、まあ良い変化ではあったのでそれぞれの家族にも歓迎されていた。




 そんな暖かいご近所に囲まれ、愛されてすくすく育ったピュアリナは更にとんでもなく可愛い幼児に成長した。


 薄紅色の花で染め上げたようなふわふわの髪。

蜂蜜色のキラキラとこぼれ落ちそうに大きな瞳。

ミルク色をしたふくふくモチモチのツヤツヤほっぺ。

 そして、人見知り?魔の2歳児?なにそれ美味しいの?と言わんばかりの安定した情緒から全方位に繰り出される満面の笑顔!


 自称じいじ&ばあばに加えて自称おじ・おば・兄・姉(後に弟妹も)が爆誕。

(※母親は実のが居るし、父親は碌でなしっぽいので欠番)


 おかげで照れ隠しで意地悪するようなガキ大将は行動に移す前にシメられ、常に不審者に目を光らせているのでスリだのなんだのは即しょっ引かれ、阿漕な露天商なんかはピュアリナの“初めてのおつかい”前の一斉清掃で姿を消した。


 地域の治安も良くなってまことにwinwinである。



 こうして町内皆の孫・姪・妹(姉)として愛されまくって安全に育ったピュアリナだったが、世の中には本当に危険な人間や悪人もいる。


珍しい髪色のとんでもなく可愛いらしい女児、しかも母親の方もまだ十分若いと言える美人だ。

身寄りの無い母子など、その手の犯罪者にかかっては簡単に浚ってしまえるだろう。

そういう趣味の金持ちに売り飛ばせばいくらになる事か…………


「オイそこのジジイ! この辺に珍しいピンク髪のガキがいるらしいな。」

「痛い目に合いたくなかったら大人しく案内しな。」

「ゲへへ、心配すんな。ちゃあんと母親も連れてってやるからよ? だあれも居なきゃ警邏だって動きゃしねえさ。」





「ママぁ、じいちゃん帰ってきたよ!」

「いやぁ、すまんすまん。道を聞かれて案内したら一緒に迷子になってしまってのぅ。」

「もう、お父さんたら。でも何事もなかったようで良かったわ。」


 すっかり冷めてしまった夕食のシチューを温め直す間、老人は先に軽く汗と埃とかを落としたいと言って浴室へ向かった。


「やれやれ、もう何十年も前に引退したというに、案外身体が覚えてるもんじゃのう……」



 その日、とある人身売買組織が壊滅した。

抗争でもあったのか無残な死体で埋め尽くされた現場は凄惨を極め、生存者は一人として見つからなかった。

檻の中の“商品”であった者達は事前に眠り薬で眠らされていたらしく、何も分からないという。

 また、その直後に組織の持っていた極秘リストが国の治安維持を担う騎士団に渡り、国内外のいくつかの商家や貴族に逮捕者が出て、いくつかの貴族家は取り潰しになった。


 その辺の国の闇にも関わる事情は公になどされず、一般庶民は知ることもない。

しかし、一連の件の報告書を上げられたとある部署のトップは

「まさか伝説の“絶望たる鮮紅の残照”が……馬鹿な、奴はもう何十年も前に死んだ筈だっ……!」

 と呟いたとか、呟かなかったとか。





 ちょっと話が逸れた気もするが――――ともかく、周囲の人達によって地域の治安ごと守られて危険な目に会う事も如何わしい話を耳にする事も無く、ピュアリナは人の好意を疑わない純粋無垢な少女に育った。

 12の時に流行病で母親が亡くなった時も、ご近所さん達は涙が止まらないピュアリナを代わる代わる抱きしめ、引くほど号泣しながら葬儀や諸々の手続きをしてくれた。

 その後も、母の思い出の残る家を離れがたい心情を汲んでくれ、家事やなんやらを争奪s、もとい持ち回りで手伝いに来てもくれた。



 とはいえ、所詮はそれぞれ自分達の仕事も家庭もある普通の一般庶民(※一部除く)。

偶然の一瞬の隙を突いて、男爵の手下にピュアリナを連れていかれてしまったのだった。






「じゃあ、一応酷い扱いはされてないんだな?」


 町のご近所さん達は翌日には連れ去ったのが某男爵家の者だと突き止め、翌々日にはそれぞれの伝手を駆使して出入りの搬入業者等に紛れ込んでいた。

何の力も無い一般庶民だからこそ、制限のない場所であればどこに居ても不審がられないし警戒もされないのである。


「来年度の王太子殿下の学園入学に合わせて高位の貴族子息も多く入るってんで、ピュアリナたんをエサに美味い汁を吸おうって事らしい。」

「許せねえ!ピュアちゃんを道具扱いしやがって!!」

「ウチらのピュアリナに変なことさせて堪るかい!」


 しかし相手は腐っても貴族。そして父親を名乗っているのが厄介だ。

遺伝子検査も血縁かどうかを判断できる都合の良いマジックアイテムとかも無い為、親子判定は自己申告と状況証拠頼りとなる。

特に貴族の子どもの認知に関しては、事情とか利権とか家内の裁判権等の関係で司法も易々とは介入出来ないし、昔関係のあった女が亡くなったのを知って残された庶子を引き取ったのだと言われれば文句の付けようが無い。

そして、見た目はまっっっったく似てないが、ピュアリナの母親が男爵家で以前メイドをしていたのは事実らしく、時期的にも合ってしまう。


「いや…………ここはあえて様子を見るのも手かもしれん。」


 ひとりの爺さんが呟いた。


「どういうことだい?」

「今回のことで、儂等の力不足は分かったじゃろう?」


 そう言われてしまえば言葉も無い。


「儂等のピュアリナちゃんを守るには新たな力が必要じゃ――あの男爵はもう何年も前に奥方に愛想を尽かされて離縁されとるし、他に子どもも適当な親族もおらん。」

「っ!まさか……っ」

「あの男に()()()()()()――――男爵家がピュアリナちゃんのものになる可能性がある。」


 爺さん割と黒いこと考えてた。


「ま、本当にもしもの話じゃがな。流石に儂らであの男を暗殺とか無理じゃし。」

「………………………………ソージャノ。」

「「?」」



 とはいえ、それが必ずしもピュアリナの為に良い事とは限らないし、今後やはり男爵が酷い待遇をする可能性もある。

だが詰め込みではあるが勉強やマナー教育自体は悪い事ではないし、それはピュアリナにとって無くならない財産になるだろう。


 そういう訳で、町の者達は万一の時にはすぐ動けるように、ひっそりジワジワと男爵家の周囲に入り込みつつ、ローテーションを組んで密かに様子を見ることにした。




 結果的にそれは大正解だった。


 入学早々ピュアリナの窮状を聞いた学園側が動き、後ろ暗い事が沢山あったらしい男爵は捕縛された。捜査の際、偶然不正の証拠が手に入ったり、偶々居合わせた平民が証言者の知人だったりしていたが――――まあそんな事もあるだろう。


ピュアリナは男爵の庶子ではあるが、王家や複数の高位貴族家の婚約関係を阻害する工作員とする為に引き取られ、親子としての交流等は皆無であったと調べが上がっている。

また、入学して男爵の監視から逃れてすぐ“事情を話して助けを求めた”事で彼女はあくまで被害者であると認められた。

 男爵家そのものは年回りや実務能力の見合う後継者が居なかった事で爵位返上となった。

しかし、その事で行く当ての無くなったピュアリナを、学園の教員であり、かつては王陛下の師でもあったガーク=ネンシュニン伯爵が養女として引き取ったそうだ。



 男爵令嬢から伯爵令嬢へ、しかもあの男とは比較も烏滸がましい程に人望と信頼のある評判の良い貴族様だという。


「優しげに見えるが、悪いと思えば当時の王様にでも容赦なく諌言なさったそうだ。」

「ちゃんとした方なんじゃなぁ。」

「実の孫娘のように可愛がってるそうだよ。」

「そりゃピュアちゃんは世界一の孫娘だからな!」

「実のお子様方はとうに成人してそれぞれに身を立ててらっしゃるもんで、お屋敷が若返った気がするって使用人にも歓迎されとるようだぞ。」



「…………これで、安心かのぅ。」


 町のご近所さん達はそれぞれ顔を見合わせて、笑った。

町でも評判の美人だった母にも増して、愛らしいピュアリナは成長してこれから更に美しくなるだろう。

その上素直で優しく、天真爛漫に笑うピュアリナならどんな貴公子でも、それこそ王子様だって夢中になったとしてもおかしくない。

 だが――まあ、自分達もちょっと過保護にしてしまった自覚はあるが――そもそも美しい平民の少女が力のある人間に見初められるなんて、たいがい碌なことにならないものだ。


 だからこそ無力な平民なりに結束した。

亡くなったピュアリナの母親が雲の上で安心できるように、皆で彼女を守っていこうと決めたのだった。


「ま、ひとまず肩の荷が下りたって感じかね。」

「あとはピュアリナちゃんの花嫁姿が見られれば思い残すことは無いわい。」

「できたらピュアちゃんの子どもが見てみたいねえ。」

「100歳越える気かい婆さん。」

「失礼な!あたしゃまだ80だよ!」


 笑い合いながら彼らは家路へと向かう。

この事を家族にも話してやって、今日はちょっと良いお肉と仕舞っておいたお酒を出しても良い。



 そうして――――――今度は学園関係にじわじわと然り気無く入り込んでいく事にしよう。



【おまけ】


 王宮にて。

「陛下、件の男爵の庶子ですがネンシュニン伯爵の養女となるそうでございます。」

「おお、ガーク先生か!」

「なるほど、それならば安心ですな。」

「思い出すのう……あの頃は余も未熟であった。先生の忠言が無ければ、愛する王妃との婚約もどうなっていたことか……」

「まことに!私も随分とヤンチャでしたからな。あのあくまで微笑みを崩すことのないお叱りの数々を思い出しますと、これこのように未だに脚が震えまする。」

「ははは、仕方のない奴よ。見よ、余など脂汗が止まらぬわ。」

「おお、これは見事な!さながら滝のようでありますな!」



(陛下達、いったい何やらかしたんだろう…………)


 賢明な侍従は口を出すこと無く、青春の思い出に浸る王と大臣を見守るに留めた。



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