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01-2.悪役令嬢は断罪される

「怖気づいても無駄だぞ! 俺はお前を捨ててやるんだからな!」


 メイヴィスがなにを思っているのか知らないアルベルトは正しいことをしていると言いたげな顔で、言葉を続ける。


 それを否定する人がいないのも関係しているだろうが、あきらかに、アルベルトの暴走によるものだった。


 ……国王陛下のお怒りを買いたいのか? そうだとしたら、殿下とはいえ、笑えない話なのだが。……いや、そのようことを考えて行動ができるような人ではないか。


 メイヴィスは自身の考えを訂正する。


 メイヴィスを王室へと引き入れたいのは国王夫妻である。二人の婚約には当人たちの感情などはなにも考慮されていない。


 メイヴィスの両親も国王の望み通りに差し出しただけなのだ。


 アルベルトはそれを理解していないのだろう。


 理解をしていたのならば、婚約破棄を言い放つわけがない。


「なんだ、その眼は! 不服とでも言いたそうな顔をして! まさか、エミリアにしたことを覚えていないわけではないだろうな!?」


 アルベルトは感情の起伏が激しいものの、鈍感ではない。


 周囲の視線には敏感な方だった。特にメイヴィスの視線はいつも気にしていた。


「殿下が癇癪を起すような行為はしておりませんわ」


 メイヴィスは即答する。


 ……エミリアっていうのか。初めて知った。


 アルベルトが連れ歩いている少女、エミリアの名を初めて耳にした。


 なにも興味がなかった。


 アルベルトに対し、情を抱いたこともない。


 婚約をしているのは両親の意思に従っているだけであり、王太子妃の座に座らされる未来に対して希望も欲望も抱いていなかった。


 メイヴィスは知っていた。


 稀代の天才と称されるメイヴィスを王国内にとどめておく為だけに結ばれた政略的な意味合いしかない婚約であり、その婚約を条件が最低条件としてアルベルトが王太子に選ばれただけである。


 貴族ならば誰でも耳にしたことがある噂話が、悲しいことに真実であると知っているからこそ、メイヴィスはアルベルトとの婚約を受け入れるしかなかった。


 ……興味がない相手に対してなにかをしたかと言われても、さすがに困るな。覚えてないことを咎められても反応できない。


 アルベルトが女性を連れ歩いていることは知っていた。


 しかし、婚約者が他の女性に構っていることに対して不快だと思うこともなく、興味を抱くこともできなかった。そもそも、眼中になかったのだろう。


 ……興味がなかったのだから、しかたがない。


 メイヴィスの言葉を聞き、アルベルトは即時に対応ができない。

 対応力の悪さは王太子として立場を揺らがせると理解もしていないようだ。


 ……殿下はどうしようもない女好きでも、最後は国王陛下の望みを叶えるものだと思っていたのだが、見当違いだったようだ。


 どこの国でも、王室に限り、一夫多妻制を採用しているのは知識として知っていた。


 国王も側室を何人も抱えている。


 それを考えれば、アルベルトが女性に現を抜かしている姿を見ても、声を荒げるだけ無駄だと判断してしまったのだろう。


 側室の存在を気にしていれば、精神がおかしくなってしまうだろう。


 ……次期国王には汚点は不要だ。厄介なことをしてくれたものだ。


 メイヴィスは考えなければならない。


 アルベルトの評判は地の底へと落ちていくだろう。それを食い止める策をアルベルトが考えているとは思えなかった。


 いつだって、アルベルトの問題行動の尻拭いをするのはメイヴィスだ。


 しかし、人目のある場所で宣言をしたからにはアルベルトの発言は広がってしまうだろう。国王の耳に届く日も遠くはない。


 もしかしたら、本日中には伝わってしまうかもしれない。


 それを防ぐ為の方法を考える。


 王太子の品格を疑われないように、頭を抱えるのはいつだってメイヴィスの役割だった。


「アル様は癇癪なんて起こしていないわ! メイヴィス様、ひどいですわ。どうして、そうやってアル様を傷つけるの!?」


 悲しくてしかたがないと言いたげな表情をしながら、声をあげたのはエミリアだった。


「ひどいわ。あんまりよ!」


 泣き始めてしまったエミリアを宥めるかのように、アルベルトは優しく彼女を抱き締める。エミリアの愛らしい容姿だからだろうか。


 その様子は愛し愛されている恋人同士のようにも見える。


 互いのことしか考えていない姿は痛々しく、悲劇を題材として演劇を見せられているような気分だった。


 誰もエミリアの言葉に同調していないことに気づいてもいないのだろう。


 エミリアが嘘を吐いているのはアルベルトとその友人たちを除き、わかっていた。


 メイヴィスがそのようなことをしている暇がないと知っているからだ。


 ……吐き気がする。


 そのようなことをしている暇はないのだと言いかけた言葉を飲み込んだ。


「エミリア、泣かないでくれ。彼奴がいるから泣くのか? ……衛兵、メイヴィスを捕えろ。バレステロス監獄の地下牢にでも放り込んでしまえ!!」


「し、しかし、殿下、メイヴィス公爵令嬢は――」


「俺の命令が聞けないのならば解雇するぞ!!」


 アルベルトは叫んだ。横暴な言葉は会場中に響き渡る。


 癇癪王子と影口を叩かれていることも知らず、アルベルトは自身の要求が通るのが当然だと思っている。


 ……横暴だ。王太子に選ばれたとは思いたくない。


 僅かにしかない信頼を投げ捨ててでも、エミリアが大切なのだろうか。


 アルベルトの理不尽な命令に従うことができない衛兵たちの視線を感じ、メイヴィスはため息を零す。


 ……そこまでして恋人を守りたいものなのか。


 メイヴィスには理解ができなかった。


 メイヴィスはアルベルトに対して恋心を抱いていない。


 それどころか、好意を抱けなかった。しかし、王太子になったアルベルトが暴走し、王国民が路頭を彷徨うことにならないように、しなければいけなかった。


 だからこそ、勉学に励んできたのだ。


 令嬢が学ぶべきことではないはずの帝王学も経営学も学んできた。


 ……理解ができない。


 すべてはアルベルトを支える為にしてきたことだった。


 王国民を守る為に様々な勉学に励み、天才だと評価されても努力を怠ることはしなかった。それはアルベルトが国政を担う時に備えたものだった。


 それは無駄な行為だったのだろうか。


 それは求められていない行為だったのだろうか。


「護衛騎士殿、殿下の指示に従ってくださるかしら?」


 メイヴィスの言葉に眼を見開いたのは数人の護衛騎士とエドワルドだった。


 しかし、エドワルドが驚いていることにメイヴィスは気づいていないだろう。


「卒業の祝いの席を早々に抜け出してしまうことをお詫び申し上げます。それでは、殿下、お先に失礼いたしますわ」


 メイヴィスは迷うことなく背を向ける。


 戸惑いを隠せていない護衛騎士の腕を引っ張り、やるべきことをしろと言いたげな視線を向けるメイヴィスの堂々とした姿は婚約破棄をされた令嬢の姿とは思えない。


 ……いけない。忘れるところだった。


 そんなメイヴィスではあったが、不意に言い残したことがあったと言わんばかりに振り返った。


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