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女王の盾  作者: 鰐屋雛菊
第一章
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序〜第一章〈一、或いは序の二〉

 冥の災害のあと、一番目の王子さまは、ふたりの弟王子と末の妹姫に言いました。

「島をきれいに四つに分けて、それぞれを治めることにしよう」

「それはいい!」

 弟妹たちも家来たちも一番目の王子さまに賛成しました。

 こうして『名を秘したる女神の島』に、四王国が誕生したのです。

        「建国の伝承」より




 砂に染まる風が、痛いほどに渇いている。

 旅人たちの標であったわだちは、百年の時をかけて刻まれ、たった一月で風紋に埋もれた。その標を頼りとする旅人もない。四王国中もっとも富み栄えたシェルナム王国が、いま死に行こうとしていた。

 無形なるものの死もまた、血肉を有するものの死と同様に、心の臓の停止によって脈動を止め、やがて朽ちて行く。砂に、時に埋もれて行く。

 だが、死とは腐臭をまとう。実体なくば腐敗とも無縁のはずが、死は潰えの美学を頑なに貫こうとする。国家という無形なるものの有終を、その血肉と模されるにんげんの、はらわたを曝した屍で飾らんと欲するのだ。斯くして生身の贄が、うやうやしく献上される。再生のための饗宴である。

 この物語はその饗宴を語らない。その饗宴にいたる因を記す。

 ゆえに英雄は、存在しない。



第一章

〈一、或いは序の二〉


 初夏の陽射しに灼かれた大地は、色が抜け落ちてざらついていた。水を映す鮮やかな空の青ですら目を刺す。

 シェルナム王国は交易で栄える国だった。栄華の始まりはおよそ百年前、リリス二世の御代に遡る。以後、王都より東西南へのびる街道は、国家の大動脈として人を物を、絶えず運び続けてきた。三月前、心の臓たる都が沈黙するまでは。

 己が意義を失い、茫然と横臥よこたわる街道と、それを取り巻く涸れ野とはもはや分かち難い。

 灼熱が凍りついていた。

 この調和を乱す異分子は、やがて東よりやって来る。足早でしっかりとした歩みに、丈長いマントの裾を重くはためかせる旅装の男。少年と呼ぶほどに幼くはなく、精悍さをかもすにはまだ若い。そんな男である。

 名をユリスリートと言う。

 名のほかに何も持たぬ男であった。

 これについては、おいおい語る。

 男——ユリスリートは、王都エルナ・デュガーレへの道を、ひたすらに急いでいた。八百年の歴史を持つ、四王国中でもっとも古い都。女神の真珠と讃えられし、壮麗でいびつな巨大都市。そして三月と四日前、女王チェスカレイア四世をはじめ、十万の民を飲み込んだ、不帰の地へと。


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