プロローグ
学園都市、海の上にポツンと存在する人工島の上に作られた学生の為の都市、魔法を学ぶ日本人学生全てが生活する場所。
「話に聞いていたがすごいもんだな」
約4時間の船旅を終え、船から降りた神成新の一言目はそれだった。ほかにも色々と言いたいことはあったが、新が声に出していたのはすごいの一言であった。
それも無理はないだろう。学生が魔法を学ぶ為に作られた人工島には、学生だけで何十万人と言う数が住んでおり、島の大きさは一つの県に匹敵する大きさである。
そんな大規模な島を見て、ほかに何の感想が出るのだろうか。
唖然としていた状態から戻った新は、目的である〔キャスタルテ学園〕に向かう。学園の近くにはマンションがいくつか建っており、新はそのマンションの一室を借りることにしたのだった。
この巨大な人工島には7つの代表的な学園が存在している。そのうちの一つキャスタルテ学園は優秀な生徒が集まるとされている名門校である。
この学園の卒業生の中には、歴史に名を残すような功績をあげた者もいるほどである。
学園に行くには、船着き場のすぐ近くにあるバス停に止まるバスに乗る必要がある。
新はバス停の椅子に座り一息ついた。慣れない船旅のせいか少し疲れを感じていた。そんな疲れを感じながらも周りを見渡す。すると視界に少女が映る。
少女もまた慣れない船旅にやられたのか、ぐったりとしていた。
新は入学式がある4月1日の約3週間前にこの島にやってきた。理由はもちろん引っ越しの荷解きと、通う学校の下見である。
そんなこともあり、他の新入生らしき人物はいなかった。
バス停にいるのは新と少女の2人だけである。
新は少し、気まずさを感じ少女に話しかけた。
「君もキャスタルテ学園に入学するのか?」
ぐったりとした少女は顔を少し上げると新の顔を見て一言。
「誰?」
「おっと、すまない名を名乗るのが遅れたな。俺は神成新、キャスタルテ学園に入学予定の魔法士だ。よろしくな」
「そう、私は天川彩姫、同じくキャスタルテ学園に入学予定。よろしく」
「天川さん?も船にやられた口か?」
新は彩姫がぐったりしていた理由を尋ねる。ただ話のタネが無かっただけであるが。
「おおむね間違ってない、あと天川でいい」
「そうか、じゃあ天川って呼ばせてもらうよ、やっぱりあんな長い時間船に乗ってると少し疲れるよな、俺も少し疲れたよ」
「同意、普段から乗っていないものに長時間乗っていれば疲れるのも当然。私の場合は少し酔ったせいもあるけど」
「それで、どうして天川は入学式が始まる3週間も前からこの島に来たんだ?」
この学園都市に入ると、しばらく家族や親戚などに会えなくなる為、大抵の場合、新入生がこの島に来るのは入学式の2~3日前である。
「その質問をそっくりそのままあなたに返す」
新はだよなぁと思いつつもこの島に来た理由を話す、と言っても荷解きと学園の下見の二つしかないのだが。
それを聞いた彩姫もやっぱりそんなところかぁみたいな顔をしている。
「私も荷解きは一緒。ただ私の場合は島の観光および、普段使いする店や交通機関の確認。この島で暮らす以上最低限店の場所は把握しておかないと後からあたふたするのは嫌」
新は確かにと思い、ある提案を持ち掛けることにした。
「せっかく、ここで会えたのも何かの縁だ、もし荷解きが終わったら、一緒に都市の散策をしてもいいか?」
「問題はない」
そんな話をし、時間の潰しているとバスが到着する。バスの中にも人はおらず、なんとなく彩姫の隣に座る。
「じゃあ着いたら教えて」
その当人はやはり酔っていたのが辛かったのか直ぐに眠りに入ってしまう。新は彩姫を起こさぬように静かに景色を眺めることにした。
★
バスが動き出し約一時間、目的のキャスタルテ学園に到着した。流石に学園前には先輩らしき学生が歩いている。
「着いたぞ、天川起きろ」
肩をゆすり彩姫を起こす。
「ん~~おはよぅ」
眠そうな顔を擦り、辺りを見渡している。
「おぉ~意外と大きい」
学園を見るや否やそんな言葉を零す彩姫。
それもそのはず、学園というにはあまりに大きすぎる建物と広い敷地は、まるでテーマパークのように見える。
これが学園と言われても直ぐには理解しがたいものがあった。
「さてと……俺は借りたマンションに向かうとするよ。あ、そうだ連絡先教えてもらっていいか?島の探索をする時連絡したいし」
「はい、これが連絡先」
彩姫が見せてきたのはLINKと言うスマホアプリの画面。このアプリは世界中で使われており、今や連絡先の交換と言ったらこのアプリである。
チャットや電話機能の他に許可した人同士で今いる場所の共有もできるという便利な機能のおかげで、今はメールアドレスや電話を交換することはほぼなくなった。
「じゃあ、俺の借りたマンションはこっちだから、またな」
新は彩姫に別れを告げ、ゆっくり歩きだす。
その新の後ろを付いていくように彩姫も歩き出す。
「……天川もこっちか?」
別れを告げ手前少し気まずくなりながらも尋ねると
「うん」
という返事が返ってくる。
「因みにどの辺りに住むんだ?」
「あのマンション」
彩姫が指さすマンションは約300mほどの所にあった。
そして新の目指すマンションでもあった。
「同じマンションだな……」
「そうだね」
「一緒に行くか」
「うん」
他愛のない話をしながら歩き、マンションに到着する。
新はエレベーターに乗り込み、自分が住む予定の6階のボタンを押す
「天川は何階なんだ?」
「6階」
「……そうか」
新はあまりにも偶然が重なりすぎて驚きがなくなっていた。むしろ嫌な予感がしていた。
「うん、知ってた」
そんな言葉が零れた。新の部屋の隣の部屋に入って行く彩姫を見つめながら……
部屋が隣である。
いや寧ろよかったのかもしれない、知り合いになった相手がすぐ近くにいるのなら話しやすい。そう考えるとこの奇跡に感謝したいとすら思える。
そう思い、部屋に入ると荷物は既に部屋に置かれており、大量の段ボールの山が部屋を埋めていた。
一人暮らしで必要になると思ったものを片っ端から段ボールに詰めていた為、やや荷物の量が増えてしまった。
近くの段ボールを開くとそこには、魔法士の魂とも言える媒体が入っていた。魔法士はこの媒体に魔法式を起動させることで魔法を行使する。
媒体に決まった形はなく、杖状のから剣の形をしたもの、銃の形をしたものまで存在している。その理由は人によって得意な魔法が違うためである。
肉体強化の魔法が得意ならば剣などの近距離を想定した媒体を使い、付与魔法など物に属性を付けることが得意ならば銃の形などと言ったところである。
そして新の媒体は短剣の形をしていた。
新は媒体を手に取り、カバーに入れると腰に提げ、他の段ボールの片づけを始めた。