機械は沈黙の代わりに軋み、回り続ける
深夜、月は高く上り、窓から漏れる光も少なくなってきた頃。
ケイユーブ国の中心、大きな時計塔の頂点に位置する暗い部屋。そこには、姿形様々な機械が並び、点滅を繰り返していた。
その真ん中、大きな筒状の機械からは様々なケーブルとチューブがつながり、様々なものが行き来していた。
「へ〜ここが、この国の心臓部か」
そこに、身なりの整った男と、少し汚れた服を着た男がいた。
「はい、***様。ここでは、この国の様々な機械を統率し、指揮しています。あの、中心に備え付けられた大きな機械が、それら全てのことを管理しています」
「なるほどね〜。近くへ行ってみようか」
「はい」
乱雑に置かれたケーブルを避け、中心へと進む。
歯車が回り、軋む騒々しい音が響き渡る空間に、2つの足音が加わる。
「ふむ」
身なりの整った男が、機械を観察する。
機械は、恥じらいや不信感を見せるわけもなく、ただ沈黙と、一定周期の光を放つのみ。
「…すごいね、これは。確かに君が言っていた通りだ」
「わかってもらえましたでしょうか?」
「ああ、はっきりとね。いやぁ、それにしても、これはなかなか傑作だね。よく、国の政府はこんなモノを作ろうとしたね」
「忌々しいことに、奴らは目先の発展と利益しか考えてないですからね」
「ふふっ。人類なんてそんなもんさ。僕ら、魔族でさえそうなんだから。知能を持った生物なんて、ろくなやつらじゃないからね」
「おっしゃる通りで」
そんなやり取りをする間も、絶えず歯車は回り続ける。
「それで、***様の能力があれば、この機構を改変して、私たちの言うことを聞かせることもできるのでしょうか?」
「可能だね。けど、これはちょっと面倒そう。色々と制限、いわば呪いがかけられてるからね。あっさりと行くとは思えない。ま、多分明日の朝にはできてるだろう」
「ありがとうございます。我々からは、なんの対価も支払えないのに…」
「いいさ。私たちの目標は、世界征服だからね。それに比べたら安いもんさ」
世界征服。
その言葉を聞いた小汚い男は、不安そうな表情を見せる。男は、世界がどうなろうと知った事ではないが、自身の行動の末、人類を破滅へと導いてしまうのには、少し躊躇ってしまう。
「ああ、心配はいらないよ。これがうまく行って、目標が達成できた時には、この国はそれの対象外にしておくよ。それに、これが成功した時は、君はこの国の王になれるだろう?これは先行投資ってわけ。もちろん、見返りは全てが終わった後にね」
魔族の男は、清々しいほどの笑顔でそう語りかけた。
「王、ですか…」
「そう。ま、種族は違えど、王という立場になったら、お互い協力していこうね」
「…はい。ありがとうございます」
男はなんとも言えない表情で了承する。
「じゃ、僕は作業に取り掛かるけど、君はどうするかな?」
「私も、ご一緒します。何もできないですけど、ここにいたいんです」
「そっか。じゃ、始めるね」
魔族の男は、手を機械に当て、能力を発動させた。
瞬間、点滅は赤へと変わる物の、他には変化を見せずに動き続ける。
男は、その光景をじっと見つめ、懐かしい古い景色を思い浮かべ、想いに耽る。
(ああ、サーシャよ。君は今もここで眠り続けているのか?それとも、君には僕の声が聞こえているのだろうか?あの笑顔をもう一度見せてくれるのか?
…君が連れ去られた時、僕の世界は崩れ落ちた。唯一の希望、君が生きているかもしれないという希望を残して。
でも、もうそれに縋るのは終わりだ。君を、あいつらから連れ戻して、この崩れた世界をもとに戻すんだ。君がいなかったら、こんな世界に生きている意味はない。
さあ、サーシャ、僕に君の力を貸して。僕らはきっと、また出会える。君がどんな状態であろうと。)
魔族の男は、その様子をじっと見つめて、こう呟いた。
「さあ、歯車は整った。小さな懐中時計は回り始める、僕の手のひらの上でね」




