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はい
「大丈夫ですか、ゲシンさん!」
「……なんとか。結構やばい」
死は逃れたものの、すぐそこにまで近づいてきていた。
カインは咄嗟に魔法で傷を癒していくもあまりにも大きいため、容態は良くならない。
どんどんと焦りが募っていく。
「なかなか面白かったですよ。流石、私を呼び出す人です」
ばっと顔を上げるとそこには、何処からか取り出した黒い執事服を着たルインがいた。
ルインは満足そうに笑みを浮かべ、くすくすと笑っていた。
「ルイン、どうにかできない?」
「応急処置なら」
「頼む。ゲシンが死んじゃう」
ルインは笑みを浮かべ、ゲシンに触れる。
『万物を司る神よ、我が願いを叶えたまへ。物質を元の形へ、元の動きに。修復』
カインが聞いたことのない、魔法文字、術式が発動し、ゲシンの傷ついた部位が元通りになる。
「こんなもんですかね。まだ、動かない方がいいですよ。血液が減っているし、体力までは戻せませんから」
「あ、ああ。ありがとう。助かった」
驚きのあまり、返答が遅れてしまう。それほど、非現実的だった。
魔法で回復すると言っても、小さな切り口や、傷ついたばかりの大きな傷などで、傷が大きければ大きいほど、何度も魔法を使う必要がある。
それを1発で回復させたのだ。唖然とするのも仕方ないだろう。
「さて、向こうも終わったようですし、行きま………」
咄嗟に、ルインが何もない空間を睨みつけた。
「あらら、これはなんとまあ」
次の瞬間、風景が裂け、何者かがゾロゾロと現れた。
「みっともないわね、リィ」
「…おねえ…ちゃん………」
地に伏した少女がなんとかして顔を上げた。
「なんで、こんなところで負けてるの?あなたは、彼の方の大事な戦力なんだから」
「………」
「ま、役立たずが1人いなくなっただけね。異分子が1人消えて気が楽だわ」
少女は驚きを隠せない。姉が、自分のことをそんな風に思っていたとは全く考えられなかったようだ。
そして少女は、これまでの姉はもう、いなくなってしまったことを理解した。
涙が再び溢れ出し、起きあがろうとするも、力が入らない。
何か物を言おうとしても、何も言えない。声を出せない。
それほど、涙はとめどなく流れ続ける。
「それじゃ、あんたは私が止めを刺してあげる。感謝しなさい」
そう言って不敵に笑い、懐から純弾を取り出して、放り投げた。
瞬間、重力に従ってゆっくりと落ちていく弾丸が、何かに引っ張られたかのように加速する。
そして、小さな発砲音と共に、小さな命は儚く散った。
「さて、次はあなたたちね」
「…なかなか、可哀想なことをするじゃないか」
「かわいそう?なんのことかしら。私はやりたいことをしただけだけど」
妹を殺したことに、なんの違和感も持たない女。
沸々と、怒りが湧いてきていた。
「お前はおかしい。普通、家族は大切な人だろう。そんな人を殺しても何も感じない。人間じゃない」
「ええ、そうよ。人間じゃないもの」
そう言って笑う女。カインの怒りはどんどんと溜まっていく。
堪忍袋の緒が切れる寸前、ルインが動いた。
「あなたの行動は、理解できない。家族は支え合い、お互いに協力していくものです」
そう言い、一歩前に踏み出す。
「ルイン」
「私がやります。カイン様はそこで見ていてください」
そう言っても下がろうとしないカイン。
「カイン様、私はね、許せないんですよ。家族を殺すことが、やりたいこと?寝言は寝て言え。それは、道徳的にも、そして私の考えにも反している」
一歩、また一歩と進む。
「カイン様、あなたは私に、こいつらに対する魔法を教えてほしいとのことですよね?」
「そうだね」
「では、見せてあげましょう。私の人生のうちの短くて長い時間に生み出した、究極の魔法を」
そう言い、魔分の詠唱を始めた。
『全てを統べる世界の神よ、我が願いを叶えたまへ』
何か、危険を感じた女の部下たちは、咄嗟にルイン目掛けて走り出す。
『異なる世界から我が世界を犯す異分子を滅ぼし、この世界を守るため、その力を与えたまへ』
遠くからナイフを投げる者、近づいて殴りかかる者。
皆、それぞれの方法で危害を加えようとする。
『全てを喰らい尽くし、全てを飲み込め』
しかし、そのどれもが当たらない。
まるで、未来が見えているかのように避ける。
『悪蝕黒弾』
それは、時間差なしで、その場にいた者の耳に届いた。
そして、黒い小さな球体が、彼ら彼女らに向けて放たれた。
一本の、黒い弾丸が、生きているかのようにうねり、全員を貫いた。
しかし、そのどれもが、人間の急所を外していた。
彼ら彼女らは、一瞬呆気に取られたものの、再びルイン目掛けて攻撃を始めようとした。
突如、それを喰らった者が、塵となって消えた。
「は?」
唯一、“当たらなかった”女は、事態を飲み込めていなかった。
ルインが放った“悪蝕黒弾”は、その名の通り全てを喰らう。
この場合、ルインは、相手を守る障壁を喰らった。
相手は全員、別の世界からやってきた者で、魔王から肉体が滅ばないよう障壁を一枚貼っていた。それを喰らったらどうなるのか?
それが、先ほどの現状だ。
障壁を取り除かれ、そこにいた者は全員、肉体が耐えきれなくなり、消滅したのだ。
「正直、ちゃんと戦いたかったですけど、あなた方は弱すぎる。話にならない」
忌々しそうに、顔を歪める。それは、見るものに恐怖を植え付け、一生消えない。
「クソがッ!!!!」
女の顔は恐怖に染まっていた。
そして咄嗟に悪態を吐いて空間を裂き、一瞬にして姿を消した。
女が居なくなったそこは、いつもとなんら変わりない静けさがあった。
「ふふっ、あなたが死ぬのはまだ早い。もっと地獄を見せる必要がありますからね」
溢した言葉は、幸か不幸か、女には届いていなかった。
お疲れ様でした。
いやー、あと1話でこの章も終わりです。本当に長かった。
思えば、この賞を書き始めたのが夏ぐらいで、今はもう11月ですからね。長すぎます。それだけやる気がなかったわけではないですええ決して。




