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眺め。
彼に連れられて訓練場に行くと、そこには、私の世界の住人が何人かいて、中には私と同じ系統の奴もいた。
彼が訓練場に入った途端、そこにいた全員の視線が彼に向けられ、そして次に私に向けられた。
私はその圧で震えそうになる体を、必死に押さえつけていた。
「おはよう。みんな集まってるね」
彼はぐるりと視線を巡らせてみんなの顔をみた。
「おはようございます、サフィ様」
そこにいた者を代表して、1番先頭の、眼鏡をかけた男がそう答えた。
「大変、失礼なのですが…そちらのお嬢さんは誰でしょうか?」
「ああ、まだ言ってなかったね。ごめんごめん」
「いえいえ!サフィ様が謝る必要は全くありません!」
「いや、こっちのミスだからね。で、彼女が誰かって話だけど。スカウトしてきた」
「へ?」
そこにいる者たちは全く信じられないとばかりに、私を凝視する。
「いや、だから。あっちの世界から連れてきたんだよ」
「で、でも……お嬢さんのような体格の種族は見た事が……」
「ああ、それも言ってなかったね。彼女、自分で自分の肉を剥ぎ取ったんだとか」
皆んなの視線が驚愕に変わる。
私は気まずそうに目を虚に逸らす。
「な、なるほど…」
「変わってるでしょ。ま、それでも強そうだからね。ちょっと鍛えればすぐ強くなりそうな気もしてるんだ。期待してるよ」
「…はい」
期待している。そう言われたら、もう頑張るしかない。
皆んなの視線を受けながらも、私の体はやる気に満ち溢れていた。
「さ、そろそろ訓練を始めようか。いつも通りで」
「わかりました。それで、彼女は…」
「僕が色々と教えるよ。まず、戦えるかどうかもわかんないしね」
「作用ですか。よし、お前ら!行くぞ!!」
「「「おう!!!」」」
ビリビリと、空気を振動させるほど大きな声が訓練場に響く。
少し、耳が痛い。
「さ、僕らも始めようか」
彼に従い、訓練場の端に移動する。
色々なものが転がっているが、汚くは見えない。ちゃんと考えて置かれているようだ。
「まず、君は戦った事はないんだよね?」
「…はい。まだ教育機関に通っているぐらいでしたし、まったくと言って…」
「なるほど。じゃあとりあえず、各能力を試させてもらおう」
そういうと、彼は何処からか色々な道具を取り出して並べていく。
その中には、元の世界でも使われていた道具も多々あって、懐かしく思った。
「それじゃ、まずは速さから。とりあえず、こっからあそこまで走って」
「はい」
軽く体を動かして、運動の準備をする。
正直、緊張していた。この体で本気で動いた事がなかったから、どれだけ速く走れるのかもまったく検討がつかなかった。
ある程度準備を済ませて、体を前に倒して、思いっきり足を踏ん張った。
とてつもない速さが出た。
今まで付いていた余分なものが剥がれ、極限まで細くなった体は、空気の抵抗を減らし、私が足を前に出そうと意識すると、もうそこにあった。
ああ、面白い。
こんな世界の見え方があるなんて。ちょっと前には信じられなかっただろう。
気づいたら、走るべき距離はとうにすぎていた。
勢い付いた体を止めようと、ブレーキを無理やりかけた。
思いっきり前に引っ張られた。
こけた。
痛い。体がズキズキと痛む。
余分な部分を削ぎ落としたせいか、余計に痛い。
そんな私を、彼は笑っていた。
「あははっ、いいじゃないか。なかなか速いね。このままいけば、僕にも勝てるかもね」
彼はそう言って、私に手を差し出してきた。
それを借りて立ち上がるも、あちこちがまだズキズキと痛む。
「ふむ…耐久性は低いみたいだね」
「…はい。いらないところを減らしたせいで、余計に」
「面白い」
「え?」
何言ってんだこいつ、って思った。
「いや、それだけ耐久力が低いやつなんて見た事ないからね。実に興味深い」
そう言い、うんうんと頷く。
やばい奴なんだな、って昨日の優しいと言う評価から変わっていく。
「ま、人には長所があれば短所がある。うまく活用していこう」
それには賛同できたので、首を大きく縦に振った。
その後も、色々と調べた。
すると、思ったよりも腕の力はない事もわかった。けど、足の力だけは無駄に強かった。
その他は、まあ、平均ぐらいだった。
「お疲れ様」
くたくたになった私を彼が見下ろしてくる。
今日で分かった事は、こいつはおかしいって事だ。ちょっといかれてる。でも、優しい。
なんとも言えない気分だった。
あと、なんかめっちゃ強い。
****
ここにきて1ヶ月が経った。
ここでの生活にも慣れて、皆んなとも仲良くやっていけている。
皆んな、こんな私を認めてくれた。
ある日の夕食、みんなで食卓を囲んで楽しく過ごしていた時。
「ところで、なんで君は自分の体を削ぎ落としたのかな?」
突然、彼の口からそんな言葉が出た。
意味がわからない。なぜ、今?
なぜそれを今知る必要があるのか…。
この事を話したら、もしかしたら、彼は私を失望して捨てるかもしれない。
…いや、彼なら面白いとか言って笑ってくれるかもしれない…。
どうしようか迷ってると、再び彼が口を開いた。
「別に、それを聞いてどうこうするってわけじゃないからね。ちょっと聞いてみたいんだ。なんで、そうしたか」
私はおずおずと口を開くと、ぽつりぽつりと、過去を話し始めた。
正直、もう思い出したくなかった。
ここでの生活は、まるで夢のようだった。皆んなが優しくしてくれて、私はここにいていいんだって思った。
私が話を終えるまで、彼は黙っていた。
そして、終えると同時に、彼は口を開いた。
「…だよね」
「…え?」
「やっぱりそうだよねって」
何を言ってるんだ?やっぱりそう?彼にとっては私の話す事は想定内だったて事?でも、なぜ…。
様々な事が頭の中に浮かぶ。それの答えがわかる前に、彼は再び、口を開いた。
「ここにいるのはね。君みたいに、系統とは違った能力が高いものばかりなんだ」
正直、どの系統がどの能力が高いなんて覚えてなかった。
でも、自分と同じ系統だけは分かったけど、何処からどうみても、耐久力が高いようにしか見えなかった。
だから、この言葉には驚きしかなかった。
「皆んな、僕が拾ってきたんだ。君と出会ったあの荒野でね」
彼は、皆んなの顔をみながら話す。誰もその視線には気づいていない。
「僕は、あの世界の常識が嫌いだった。なんで、ある系統に生まれた子が、その系統の能力と違ったら捨てられるのか。意味がわからない。皆んな、違うから面白いんじゃないか。そう思っていた。でも、あいつらはそれが当たり前と捉えていた。そんな世界に嫌気がさして、僕も荒野を彷徨いてたんだ」
彼は、私には到底考えようもない事を語っていた。
そう、それはまるで、遥か上から私たちを眺めていたかのように。
「一つ、言ってなかったね。僕は、王種なんだ」
これまた驚きだった。
さっきの話、能力の強さをなどを鑑みると、そうかもしれないと思えた。
「世界を見てたけど、あの世界も常識はくだらない。所詮、伝統とか言ってるクソジジイどもの戯言。それを変えようにも、王種のトップは聞く耳を持たない。そんな事をいう僕は異端児扱い。正直、終わってるよね」
なんとも言えなかった。ただ、彼も人より苦労して生きてる事は分かった。
「だから、僕は魔王に拾われてから決めたんだ。君みたいな子を集めようって。そんな子たちが楽しく過ごせる場所を作ろう。それと同時に、彼の手伝いもしながらね」
王種だけあるなと思った。そんなスケールのでかい話よく思いつく。
「だから、君も僕も手伝いをしてくれるかな?」
こっちを見て、真剣に訴えかけてきた。
私は正直、そんな重要な事を手伝ってもいいのかと、悩んでいた。
でも、彼の優しさでここまで生きていけてる。その恩を報いるためにも、頑張らないといけないと思った。
だから、私は
「もちろんです。よろしくお願いします」
そう言った。
彼は安心したように笑って、頭を撫ででくれた。
正直恥ずかしかったけど、嬉しかった。
それから、私は彼の野望を叶えるため、さらに強くなろうと決意した。
いい感じ。
ちょっと短編書いたので、ぜひ読んでみてください。




