5
追記 改変しました
「おい」
ゾワゾワとする、ドスのかかった低い声。
子供の声帯で、こんな声を出せるものなのか。周りにいたものの背筋を凍らせる。
唯一、タイキには効果がないようだ。
「…なんだ?」
「さっきから、こっちがいい気で聞いていたからと、何ともまぁ、言ってくれたものだな。大概にしろ」
辺りにいたものの、背筋から冷たい汗が流れる。
ヘンリーは、これからカインを止めるのに面倒になるぞと、内心でため息をついた。
その言葉を間に受けているタイキは、不信感を露わにする。
「誰が、役立たずだ?大事な時に、市民を守れないやつがどんな口聞いてんだよ。ふざけんな」
「な、何を言ってるんだ?いつの話だ!?」
「お前らが、お前らの行動が遅いせいで、こっちは大切な人を失ってるんだぞ」
顔が忌々しげに歪む。実際に体験したそれを思い浮かべているようだった。
側から見る者の目に恐怖を与えるその顔。そこには微塵も笑顔は残っていない。
「ふん!たかが、庶民だろう。庶民の数人、死んでも何ともない!!我ら、貴族さえいればいいのだ!!」
ズレた思考。我らこそ至高の存在と思ってるかの如く発言。庶民がいるからこそ、貴族が成り立っているということがわかっていないようだ。
それが、カインの逆鱗に触れる。
「ああ、そうだよね。どうせ、お前らはそうとしか思ってない。醜いよね」
頭を振り、髪を乱暴に触る。
「庶民が何を言ってるんだ?お前らの代わりなんていくらでもいるんだよ!」
「そうかもね。けど、僕らからしたら、一人一人が大切な人。代わりなんていないんだよ。そんなのもわからないの?」
「ごちゃごちゃと、五月蝿い庶民のガキめ!そんなことを言ったところで、戦況は変わらない!!」
言葉と同時に、魔法も絶え間なく飛び続ける。
「はあ…ごちゃごちゃ五月蝿いのは、お前だ」
「何を……?」
言いかけた、その言葉は途中で消えていった。
自然と無くなったわけではない。突如として頭部に激しい痛みを感じたからだ。
「よかったですね。これで、庶民である僕の声を聞かなくて良くなって」
「ぐがあぁぁ!!!!俺様の耳がぁ!!」
カインが、誰の耳にも留まらないほどの速さで魔文を詠唱し、風の刃がタイキの片耳を削ぎ落とした。
その刃すらも、誰にも見えなかった。
あまりの痛さに、魔法を撃つ手を止めて、耳を抑える。
その様を眺めるカインの顔は、いまだに怒りに染まっている。
「さて、もう片方も要らないですよね?本当に必要な声を聞けず、自分を褒め称える声しか聞けない、ただの飾りですしね」
痛みで疼くまるタイキの元へ歩いていく。
タイキは必死に魔法を放ち続ける。
しかし、そのどれもが当たらず消えさった。それと同時に、タイキの希望も消え去っていく。
「…や、やめろ!!!俺様に近寄るなぁ!!」
ガタガタと、体が震え、顔が恐怖に染まる。額から夥しい量の汗が垂れる。
先ほどまでの威勢はとっくに消えていた。
「じゃあ、さっきの発言を取り消して、謝ってくれますか?」
「…俺様に命令をするの、ギャァ!!」
反発しようとしかけたタイキのもう片耳を容赦なく切る。
「で?どうなんですか?」
「…すみませんでした!!!俺様が間違っていました!!」
このままでは命が危ないと感じ、土下座するタイキ。
「他には?」
「ヘンリー様が1番強いです!役立たずは俺です!」
「よろしい」
無理やり言わせたようにも感じるが、カインは満足している。
「それじゃ、僕の勝ちってことでいいよね?」
「もちろんです!」
「だそうですけど、ゲシンさん?」
あまりにも予想だにしない事が起こっていたため、呆気に取られていたゲシンに声をかける。
声をかけられて意識が現実に戻ったようだ。
「…あ、ああ。それまで!勝者、カイン!」
ゲシンがその言葉を告げる。それと同時に、3人を隔離していた結界が消える。
「師匠ー!どうでしたか?」
テトテトと、ヘンリーの元へ小走りに寄っていく。
さっきまでの不機嫌さを一切感じさせない声。そして、ニコニコの笑顔。
「…カイン…ちょっとやりすぎじゃないかのう……」
「仕方ないでしょう?あれだけ言われたら、カチンときますよ」
「…いくら、回復魔法があるからと言っても、少しやりすぎな気もするがのう…」
「あんな、舐めたやつにはこれぐらいしないとダメですよ!」
「ううむ…なんじゃか、どんどんカインの考えが良くないようになっているような…」
「気のせいですよ師匠!」
ペシペシと叩くカイン。気が重くなると同時に、露骨に撫でるのを避けてくるカインに残念に思うヘンリーだった。
他の者達は、そんなカインの様子の変化に恐れを抱いていた。また、絶対にカインを怒らせないようにしよう。そう心に刻んだのだった。
そして、カインは今後こう呼ばれることになる。
“見た目騙しの魔法使い”
はい。明日は2本ぐらい出します。
よければいいねお願いします