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長め
「っ………あ、あ…」
その光景を目にしたカインの手が、足が、体が。全身が震える。
顔も少しながら青い。
若干ながらも、息が上がり始める。
「おい、カイン?大丈夫か?!」
その様子を、不審に思ったグレンが問いかける。
「…あ……ああ……」
あやふやな返答しか返ってこない。
体の震えも徐々に大きくなっていく。
「あああああぁぁぁぁぁ!!!!」
突然、背を向けて走り出す。
「おい?!カイン!どこにいく?!」
「ああああああ!!!!」
グレンの声は届かず、一目散に逃げていく。
「チッ……よくわからんが、撤退だ!!魔法で牽制を続けろ!!!」
その指示に従って、各々が魔法をM53に放ちつつ、後ずさる。
ダメージが入っている様子はないが、
「おらっ!!これでも喰らえ!!」
グレンがM53向けて、特大の爆発を起こす。
M53は、視界を奪われ、標的を見失う。
「……ニゲタカ………マアイイ。イツデモコロシニイッテヤル」
元いた場所へと歩き出した。
****
「おい、カイン!止まれ!」
「ああぁぁ!!」
「カイン!!止まるんだ!」
必死に、逃げ惑うカインを、グレンはがっしりと掴む。
「っは………僕は何を……」
「大丈夫かよ、カイン。急に発狂して、走り出したから心配したんだぞ」
「…そうでしたか……すみません……」
ばつが悪そうに、顔を俯ける。
額からは汗が流れ、滴っている。
「…やつは…?」
「一旦撤退した。追ってきている様子はないようだ」
「そうでしたか」
辺りを見渡すと、みんながぐったりとして休んでいた。
「それで、お前は急にどうしたんだよ?」
「……レザリーさんが傷つくのを見て、少しトラウマが思い出されて……」
「トラウマ?」
「……はい………グレンさんには昔、一度話しましたよね?」
「え〜っと…、親を殺されたって話か?」
「はい。僕の親は、僕が子供の頃、魔族に殺されたんです」
顔を俯けて、ぽつぽつと話し始める。
****
昔、カインが生まれた村では、魔族の襲撃があった。
敵は特殊な転移魔法を使い、城壁を越えたのだ。
運悪く、魔族が転移した場所がカインの生まれた場所であったため、魔族たちはその村に住んでいたものたちを蹂躙し始めた。
「お前らだけでも逃げるんだ!!」
「…あなたは…?!」
「…俺は、あいつを足止めする。その間に、お前らは逃げるんだ…!」
そういうと、彼は壁に掛けてあった剣を抜き取り、魔族目掛けて走り出した。
「…っ、カインちゃん、いきましょう」
「お父さんは?どこに行ったの?」
純粋無垢な表情を浮かべる。
子供であるため、何が起こっているか、どうするべきかがわかっていない。
「…お父さんんは、私たちを生かすために戦いに行ったの」
「すぐに返ってくるかな?」
「………そうね。さあ、私たちもいきましょうか」
頑張って、笑みを浮かべる。唇は、微かに震えていた。
その様子に不信を覚えたカインだったが、連れられるがままにする。
ドゴオオン!!!!
家を出ようとする2人の、足を止めるほどの爆発轟音が響き渡る。
そこは、カインの父が出向いて行った方からだった。
「さあ、早くいきましょう!」
カインは抱き抱えられて移動する。
一歩、二歩…踏み出した足取りは、先に進むことなく、急に倒れ込む。
そのまま、抱き抱えられていたカインは吹っ飛ぶ。
「お母さん?どうしたの?」
「………」
「お母さん…?お母さん?」
ぺしぺしと、母を起こすために叩く。しかし返答はない。
母の背中を見る。そこには、体を貫かんとする大きな傷ができていた。
そこから、血が流れ、地面を濡らす。
カインは、それを触り、不思議がる。
「……ごめんね……もう……私は……むりだわ………」
「お母さん?」
母は、カインの手をぎゅっと握り、無理やり笑みを作る。
「……ごめんね……幸せにできなくて………カインは……長生きするんだよ………」
それを最後に、握りしめていた手の力がスッと抜ける。
「お母さん?お母さん?」
ゆさゆさと、体を揺さぶる。声は返ってこない。
「やっと死んだか。手間暇かけさせやがって」
その奥から、剣を持った1人の男がやってくる。
しかし、見た目が異常で、額に角が生えている。
「おじさん、誰?」
「ああ?俺は、魔族だよ魔族」
カインは、意味がわからずに首を傾げる。
「お父さんは?」
「お父さんだと?こいつのことか?」
魔族の男が、何かを放り投げる。
「っ!お父さん!」
僅かに息があるようだったが、もう虫の息だ。
「…カインか……すまんな……俺にはもう無理だ……」
最後の力を振り絞り、カインの頭を撫でる。
「………お前は……長生きするんだぞ……」
「お父さん?お父さん!!」
必死に呼びかけるも、声は返ってこない。
「お父さん!お母さん!」
「ああ、そいつらなら死んだな」
「死、ぬ?」
5歳であったカインには、全く理解できないことだった。
「そうさ。この世からいなくなることだ」
「うそ、だよね?ここに、お父さんとお母さんいるんだもん」
「いないさ。もう、どこかにいったんだ」
必死に、2人の死骸を揺さぶるが、全く反応がない。
2人からは、いつもの温もりはなく、とてつもなく冷たい。
「嘘だっ!!嘘だっ!!!そんなはずがない!!!」
カインの瞳から、ボロボロと涙が溢れる。
「おしゃべりもこれくらいにして、俺も仕事をまっとうするか。お前も、親と同じところに送ってやるよ!!」
血に濡れた剣を振り上げる。
その間も、必死に呼びかけ、揺さぶる。
「そんなはずない!!!嘘つきだっ!!!!」
途端、カインからとてつもない魔力が溢れ出す。
魔力が、風圧となり、魔族に吹き付ける。
「っ、なんだ?気のせいか?」
魔族は不審に思いながらも、振り上げた剣を振り下ろした。
ザン!!!!!
「ああぁぁぁ!!!!!!」
咄嗟に体を逸らしたため、体を切り裂くはずであった剣は、片方の目を切り裂いた。
カインに激痛が走り、泣き叫ぶ。
「ちっ…、まあいい、死ねっ!」
避けられたことを不服に思いつつも、再び剣を振るった。
真っ直ぐに、カインを捉えた剣。
咄嗟に、残った片目を閉じる。
ザン!!!!!!
血が溢れ、地面に赤い水溜りを作り出した。




