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第99話 終わり良ければ全て良し

「・・・あ、あのご主人様。さっきから気になっているんだけど、あそこにいるイケメンはもしかして・・・」


ルナレーンの目線の先には赤紫の髪をオールバックにし色黒で爽やかな微笑みを浮かべた男がいた。その目力は強いが何処か優しさも感じられた。全身は執事服に包み引き締まった身体を押さえ付け筋肉の形が浮き出ていた。見る者が見れば相当な手練と分かるだろう。


「・・うん、そう。君の従魔だったエンペラーデスグリズリーだよ。」


「・・・や、や、やっぱり。で・・・『君の従魔だった』って事は・・・まさか・・・」


恐る恐るルナレーンがゼノアに目線を送る。


「・・・う、うん。あのね・・フェルネスが凄く気に掛けてね・・・自分の部下にしたいって。だから勝手に従魔契約をしたの。ごめんね。」


「えっ!?あっ!い、いえっ!!ぜ、ぜ、全然だ、だ、大丈夫!!ご、ご、ご主人様がそうしたんだったら大丈夫!!だ、大丈夫です!!す、好きなようにして大丈夫です!」


「そう?良かった。」


ルナレーンはぎごちない笑顔を作りながら一生懸命小刻みに首を縦に振っていた。そして冷たい汗が頬を伝う。


(・・・た、た、他人の従魔を上書きして契約なんて・・・そ、それも魔人の・・・テイムマスターの私の従魔を・・・?!け、け、桁違いの力の差がないと出来ない筈・・・は、はうっっ!!こ、こ、怖っ!!)


ルナレーンは目の前でにっこり笑うゼノアに恐怖を覚える。そして絶対に逆らってはいけない存在として心に刻み込んだ。


そしてゼノアが後ろで控える若者に手招きする。


「さあ。こっちに来て自己紹介して。」


「はいっ!かしこまりました!主様!」


主であるゼノアに声を掛けられ緊張のあまり若者の声が上ずる。そして初仕事とばかりに緊張な面持ちで土下座のままのルナレーンの前に進み出た。


(こ、このイケメンが・・・あ、あのベアちゃん?)


(こ、この美女が・・・あ、あのルナレーン様?い、いや!ま、先ずは主様の命令を遂行するのみ!!)


二人はお互いの容姿の変化に無意識に頬が赤くなる。


「こ、この度、ゼノア様のご好意で従魔契約をして頂きディザスターグリズリーに進化したデグリーだ。以前は貴女に色々と世話になったが・・・今日、この日から我はゼノア様に忠誠を誓う従魔となった。以後、貴女の事は同じ従魔としてルナレーン殿と呼ばせて頂く。よろしく頼む。」


デグリーの脳裏にルナレーンから受けた数々の無茶振りやお仕置きを受けた記憶が走馬灯のように駆け巡る。時折り目尻に皺を寄せるが目を細めて耐えルナレーンを見下ろす。


「・・・ほ、ほへっ!あ・・・は、はい!よ、よ、よろしく・・・」


ルナレーンは惚けた顔を慌てて取り繕い上手め使いでデグリーの顔を見上げる。


(・・・あ、あのベアちゃんが・・・人化してこ、こんなイケメンになるなんて・・・そ、想像が付かないわ・・・一体・・ご、ご主人様は何者なの・・・)



「さあ!一旦戻ろうか!」


「はい。主様。」

「かしこまりました。主様。」

「ひゃ、ひゃいっ!!・・・ご、ご主人様!!」


ゼノアの言葉にフェルネスとデグリは落ち着き払った所作を見せるがルナレーンは慌てて立ち上がり声も上擦る。


「ふふっ。ルナレーン。そんなに緊張しなくていいよ・・・あっ、そうだ!君の魔力なんだけど、出来るだけ抑えてくれないかな?魔人の魔力は強力だからそのまま街に入ったら死人が出そうだからね。」


ゼノアがにっこりと笑って首を傾げる。


「は、は、はい!!ご、ご、ごめんなさい!!み、皆んなが涼しい顔していたから気付がなかったわ!!」


ルナレーンは魔力を操作し魔力を抑えた。すると森がプレッシャーから解放されたかのように心地の良い風が吹き抜け草木と土の匂いが鼻を擽った。


「うん。ありがとう。それじゃあ行こうか。」


「えっ・・・じゅ、従魔にお礼なんて・・・」


ルナレーンは目をぱちくりさせながら歩き出すゼノアの背中を眺めていた。


「ルナレーン。何をぼーっとしているの?早く来なさい。」


「は、はい!!」


ルナレーンは小走りでフェルネスの隣に並ぶ。するとフェルネスは少し口元を緩めて小声で話し出す。


「ふっ。ルナレーン。主様は従魔であっても垣根なく仲間として扱ってくださるお優しい方なのです。今は理解が難しいかも知れませんがその内分かりますわ。」


「・・・な、仲間・・・た、確かに・・そんな事を言われたような・・・」


ルナレーンには理解が出来なかった。ルナレーンにとって主従関係とは絶対的なものであり従魔とは主人のどんな命令にも従い時には命さえも笑って捨てる存在なのだ。


(・・・い、意味が分からない・・・結局私はどうしたら良いんだろう・・・)


ルナレーンは考えが纏まらないまま不安を胸にゼノアの背中を見つめるのであった。





「な、なるほど・・・このブラッドガルムはフェルネス殿の眷属か・・・い、幾つもツッコミ所があるが・・・そ、それにしても・・・ゼノアが逸早く駆けつけてなかったら・・・最悪な事態になっていたのは事実だわさ・・・。ふう・・・大きな借りが出来たわさ。」


「はい。私はゼノア殿に足を向けて寝る事が出来ない。一度ならず二度までも。一体この恩をどう返せば良いか・・・」


ギルドマスターのデルマが複雑な表情で話しを聞きアルバンの本気で困った顔を見て取り敢えず胸を撫で下ろした。


「あ、あの!!ロディアスさん!本当に今回の事すまなかった!!」


タイミングを逃すまいとロギングが腰を直角に曲げてアルバンに頭を下げた。それに続いて断空の剣のメンバーも頭を下げる。ロギングは言い訳をするつもりは無かった。護衛という依頼を放棄して逃げた事は事実であったからだ。


「・・・うむ。頭を上げなさい。謝罪を受け入れよう。君達も命あっての冒険者だからな。自らの命を優先する気持ちは分かる。それに君達が逸早く冒険者ギルドに駆け込んでくれたお陰でゼノア君が間一髪間に合ったんだ。まあ、終わり良ければ全て良しという事だ。誠実な君達の今後の活躍に期待している。」


「あ、ありがとうございます!!そう言ってもらえて救われます!!」


罵倒されてもおかしくないと覚悟していたロギング達は涙目で何度も頭を下げていた。その実ロギング達の言い訳もなく誠実な謝罪にアルバンの危機に晒された怒りが削がれていた。その上ロギング達の鎧は無数の凹みが有り服は切り裂かれそこには夥しい乾いた血痕があった。アルバンも彼らが瀕死の思いをしたのだと察したのであった。


そんなやり取りを横目にモーリアが一歩踏み出す。


「おい!安心するのはまだ早い!あの少年は魔族と対峙しているのだろう?!助けに行かなければ・・・ん?」


「・・・魔族の波動が消えた?」


声を上げたモーリアだったが今まで纏わりつくような感覚が消えた事に気付く。


「そう言えば・・・身体が軽くなったわさ・・・」


「・・ほ、本当だ・・・あの嫌な感覚が無くなったぞ・・・」


さっきまでの纏わり付き締め付けられる感覚の中から解放され気持ちの良い風が吹き抜けていた。気付いたデルマと冒険者達も軽くなった身体を確認するように動かしている。


「・・・魔族の脅威は去った・・のか。」


モーリアが警戒を解きながら辺りを見回す。


「きっとゼノア様だわ!!ゼノア様が魔族をやっつけたのよー!!」


ブラッドガルムの背中から滑り降りて来たイリアがアルバンにスキップで駆け寄る。


「うむ。そのようだな。」


アルバンは満面の笑顔で見上げるイリアの頭に手を乗せる。


「・・・た、確かに・・・それとフェルネスだったか・・・あのメイドが一緒なら十分有り得るな・・・」


モーリアは少し前の冒険者登録試験の恐怖を思い出し目尻に皺が寄る。


「な、なぁ・・・さっきから言ってるゼノアってのは何者なんだ?」


黙って話を聞いていたロギングが耐えきれず口を開く。断空の剣のメンバーも気になっていたらしい。


「あぁ・・そうか。お前達は知らなかったな。まぁ・・・何と言うか・・一言で言えば規格外の国選冒険者だわさ。」


「なっ?!こ、国選冒険者ぁぁ?!という事はこの国に四人目の国選冒険者が出たのか!!」


(えぇーーっ?!国選冒険者が出たの?!)


(だ、だけどよ、そんな凄い冒険者居たか?)


(そ、そうよね・・・それなら噂になっている筈よね・・・)


断空の剣のメンバーがひそひそと話している。


「あぁ・・それと・・・私の想像が正ければゼノアはお前達の命の恩人だわさ。」


デルマはギルド職員のセニアとの会話を思い出し確信していた。


「えっ?ど、どういう事だよ?」


「まあ、あくまで私の想像だわさ。会って聞けば分かるわさ。」


・・・ざっ・・ざざっ・・・


「むっ!何か来るぞ!」


再びモーリアが身構える。冒険者達も腰が引けながらもモーリアの見つめる先を緊張しながら凝視する。


ざざざっ・・・っ!!


「あーっ!!デルマさんも皆さんもお疲れ様でしたーー!!」


姿を現したのは年端も行かない少年が森の中から手を振りながら歩いて来る姿だった。


「ぶはぁぁぁっ・・・お、驚かせるんじゃないわさ!!」


全員が緊張から一気に脱力しため息が漏れる。


「きゃあーーー!!ほら!やっぱりゼノア様がやっつけたのよ!!ゼノア様!ゼノア様!ゼノア様ぁぁぁぁ!!!私の勇者ゼノア様ぁぁぁぁ!!!」


ゼノアの姿を見た瞬間イリアが冒険者達を書き分けデルマの脇をすり抜け全力の笑顔で駆け寄って行く。


(はうっ!い、いつもと同じ展開・・・ど、どうしよう・・・)


どうしようか考えているうちにイリアが獲物を捕食するかのように目を輝かせて飛び掛かって来る。


「ゼノア様ぁぁぁぁ!!!」


がしっ・・・


しかし飛びが掛かるイリアが寸前の所で空中で止まった。


「ふへっ?」


イリアが呆けた顔で見上げるとイリアの襟首をフェルネスが掴んでいた。


「な、何よぉぉぉぉ!!邪魔しないでぇぇぇ!!感動的な場面なんだからぁぁぁ!!ゼノア様とこのままお家に帰ってバシバシと・・・」


「・・・貴女・・・臭いますわね。」


「えっ?!そ、そ、そんな事ない・・・わ・・・あっ・・・」


何かを思い出し空中でジタバタと暴れるイリアがピタリと動きを止めた。


(・・・わ、忘れてた・・・私・・)


イリアはお漏らしをした事を思い出し罰の悪い表情ですんすんと鼻を動かす・・・


(・・・はうっ・・く、臭い・・・こ、これは・・・駄目よ・・・)


イリアは自分の下半身から漂うすえた臭いに気付きちらりと自分を乗せて来たブラッドガルムを見ると、鼻に皺を寄せてあからさまに怪訝な表情で自分の背中を嗅いでいた。


「・・・ぐるるるぅぅぅぅ・・・ぶしゅんっ!!」


恨めしそうに見つめるブラッドガルムと目が合った。


「・・はうっ・・あ、あの・・・フェルネスさん。お、下ろしてください・・・」


「はい。」


フェルネスがゆっくりとイリアを下ろすとぎごちない笑顔でゼノアを見据えながら一歩一歩後退って行く。


「あ、あの・・ゼノア様。ま、また後でお礼をするね・・・」


「あ・・う、うん。」


ゼノアは大人しく後退るイリアを不思議そうに首を傾げて見つめていた。


「さあ、主様。ギルドマスターも質問したくてうずうずしているようですから急いで街に帰りましょう。」


フェルネスはゼノアに声を掛けると同時に同意を求めるようにデルマに視線を送る。デルマは図星を突かれ眉が上り口元を緩めた。


「よし!アルバン・ロディアス一行の救出は無事成功したわさ!!お前達!!急いで街へ帰るよ!!」


デルマの号令が気持ちの良い風に乗り街道に響き渡るのであった。




ゼノアは歩きながら森の中を見つめ首を傾げる。


(ん?何か忘れているような・・・うーん・・・まいっか・・・)

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