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第98話 ロディアス一行の生還

「ね、ねぇ、フェルネス。あの姿・・僕が想像してたのと違うような・・・もっと子供っぽくて幼児体型というか・・・」


ゼノアはルナレーンの強調された胸元を気にしながらフェルネスを見上げる。


ゼノアはルナレーンの声と喋り方から自分と同じくらいの女の子をイメージしていた。しかし目の前にいるのは見た目美しい大人の女性が小さくなって正座している姿であった。


(くっ・・・当たってるから何も言えないけど!!)


ルナレーンの頬が僅かに吊り上がる。


「そうですね。私も少々驚いています。ですがルナレーンは従属魔法で主様の魔力と繋がり私と同様に進化していますわ。」


ルナレーン

Lv 402

称号 魔人妃 〈従魔化〉

力   8497

体力  9008

素早さ 8790

魔力  27680


【固有スキル】〈テイムマスター 3〉〈暗黒魔法 3〉〈魔法耐性 3〉


フェルネスはルナレーンを鑑定し目を細める。


「魔人の上位種である魔人妃。私よりは劣っていますがステータスが跳ね上がっていますわ。そのステータスに見合った姿に進化したのですわ。」


フェルネスの言葉尻には少し棘があるように聞こえた。それはフェルネスの目線先にルナレーンの大人の姿に釘付けで口が開いたままのゼノアの姿があったからだった。


「・・・主様。」


「えっ?!あ、あぁ・・・な、何?」


フェルネスに声を掛けられて我に返ったゼノアが垂れかけた涎を拭きながら慌ててフェルネスを見上げる。


「はい、主様。さあ、このルナレーンにどのような罰を与えましょうか?例えば奴隷紋を刻み一生四つん這いで駒使いにしても良し、いっその事・・両手両脚を切り飛ばして自分の従魔達に好きにさせても・・・ふふっ・・・」


フェルネスの口角が妖しく吊り上がり目の奧が深淵の闇のようにどす黒く染まる。


「はひぃぃぃ!!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」


ルナレーンは恐怖の余り地面に額を付け頭の上で拝むように掌を擦り付ける。しかしフェルネスはそんな事もお構いなしにルナレーンの正面に立ち魔力を滲ませ見下ろす。


「ふふふ・・・そんな事で許されると?これまでの主様への不敬の数々・・・死すら生温いですわ。くくくっ・・・これからお前が生きる恥辱に塗れた生涯に絶望するのですわ!!!ふっ・・・ふはははははははぁぁぁぁ!!!」


フェルネスは感情のままに涙目のルナレーンを見下ろし魔王さながらの高笑いを見せる。そんな姿を唖然として見ているゼノアがいた。


(・・・フェ、フェルネスって・・・あんな性格だったっけ・・・そ、そうか・・基本的には闇属性だしね・・・そんな一面があっても不思議じゃないか・・・)


「・・あ、あの・・・フェルネス?ちょっといいかな?」


「・・ふはは・・・はへっ?!こ、こ、これは・・・わ、私とした事が・・・お恥ずかしい所をお見せしました!!あ、主様を差し置いて勝手な発言を!!も、申し訳ございません!!」


我に返ったフェルネスは深々と頭を下げるとゼノアの背後にそそくさと移動する。そして肩を窄めて恥ずかしそうに俯いている。


(・・・ははっ・・)


ゼノアはそんなフェルネスの姿に苦笑いを浮かべる。そして徐に涙目で上目遣いで見上げるルナレーンを見下ろした。


(はぁ・・・さてと。ふっ・・・とは言うものの・・なんかこんな姿見てたらね・・・)



「ねえ、ルナレーン。」


「は、はひっ!」


ルナレーンが肩を跳ね上げ怯えた目を丸くする。


「僕から君への罰なんだけど・・・」


ゼノアが笑みを浮かべて怯えたルナレーンの目を見る。


(な、なに・・・わ、私をどうするつもり・・・な、なんかこの笑顔が怖いよぉぉ・・・)


「あ、あうぅぅ・・・え、えぐっ・・・ぐずっ・・・うぐっ・・・」


自分を見つめるゼノアの笑顔が逆に恐怖に駆られ無意識にルナレーンの顔が涙と鼻水で溢れていた。


「・・・あのね、僕の仲間になってよ。それで僕にいろんな事を教えてよ。」


「ぶ、ぶへっ・・・?な、な、仲間?い、い、いろんな事を・・・お、教える・・・?」


ルナレーンはゼノアの意表をついた言葉に怯えながらも言葉の意味を詮索する。


(わ、わ、私が人間の・・な、仲間?・・・そ、そして・・こ、子供だけど目の前の主に・・・こ、この私が色々と教える・・・と、という事は・・・はっ!そ、そ、そういう事・・・?!)


ルナレーンは妄想を加速させて自分の胸元にふと目を落とし頬を赤らめる。


(し、し、仕方ないわよね・・・ひ、酷い目に合うよりかは進化させて貰った主の慰みものになる方が・・・良いわ・・・で、でも・・・わ、わ私はそんな経験無いし・・・ど、どうしたら良いか・・・)


ゼノアは頬を赤らめてもじもじするルナレーンを眺めると察したように軽く頷く。


(・・・うん。確かに魔人が人間に仕えるなんて抵抗あるよね。それに今まで居た所の主や友達の事もあるしね・・・僕も少し強引だったかな・・・)


「ルナレーン。僕のこの提案を断っても良いんだよ。それは君の自由だよ。確かに僕もいきなりで強引だと思うからね。だけど僕の従魔になった以上放ってはおけないんだよ。だからその時は君の処遇はフェルネスに一任するけど良いかな?」


「ふへっ?」


ゼノアはルナレーンの事を考えて話したつもりだった。しかしルナレーンがふとゼノアの背後に黙って控えるフェルネスに目を向ける。そしてフェルネスの口元が微かに笑みを浮かべ全身から魔力を滲ませるのを見逃さなかった。


「ひっ、ひいっぃぃぃ!!ご、ご、ご主人様の言う通りに致しますぅぅぅぅ!!!ふ、ふ、不束者ですが、せ、せ、精一杯御奉仕しますのでお側に置いてくださいぃぃぃぃ!!!!!」


ルナレーンは怯えながらゼノアの足元に必死に縋るようにしがみ付くのだった。





 デルマ率いる冒険者達が街道に到着した。すると乗ってきた馬達が異様な雰囲気に怯え暴れ出す。


「ヒヒーンッ!!ブルッ、ブルルッ!!」


「んをっ?!ど、どうした!!どうどう!!お、落ち着け!!」


集められた冒険者達も気付けば馬上で無意識に冷たい汗が頬を伝う。


「な、なんだいこの重苦しい空気は・・・」


デルマは馬から降りると全身に重くのしかかるような雰囲気に警戒し辺りを見回す。


「こ、これは・・・魔力の波動だ。それも・・・この心臓を鷲掴みされるような波動は・・・恐らく魔族だ・・・」


Aランク冒険者モーリアがデルマの隣に並び立つ。


「・・・ふん。あんたもそう思うかい?やれやれ・・・これは思っていたより大事だわさ。」


「ま、待ってくれよ!!魔族だって?!じょ、冗談はよしてくれよ!!」


「そ、そ、そうだぜ!もし魔族が相手なら俺達なんか何も出来ずに死んじまうぞ!?」


魔族と聞いて冒険者達が浮き足立つ。


(・・・確かに・・・こんな所で魔族と鉢合わせたら一溜まりもないわさ・・・だけど・・・やるべき事はやるわさ!)


そしてデルマは覚悟を決め声を上げる。


「良いかい!!あんた達!!とにかく今はアルバン・ロディアス一行の救出を優先するわさ!!」


「はぁっ?!魔族がいるかも知れないのにか?!」


「やかましいわさ!!お前達はロディアス商会一行の救出をする為に集まったんだよ!!もし今逃げ出すなら報酬は無いわさ!!」


「う、うぐっ・・・」


デルマの言葉に冒険者達が言葉を飲み込む。その冒険者達の姿をデルマは無言の全員参加の意思と受け取り踵を返す。


「さあ仕事だよ!!ロギング!!馬車はどこだい?!早く案内するわさ!!」


「お、おう!こっちだ!」


デルマ達は警戒しながらロギングの案内で街道の中央まで移動した。しかしアルグの記憶とは裏腹にそこには馬車は無く馬車の破片と思しき物が周りに散乱しているだけだった。


「なっ!?無い!!た、確かに此処に馬車があったんだ!!」


ロギングが焦り狼狽えていると冷静に状況を観察していたモーリアが目を細める。


「・・・馬車の破片が森の中へ続いてる・・・多分・・複数のヘルベアーの攻撃で馬車が森の中へ押し込まれたんだ。ふむ・・・この破片の大きさと数・・・すでに馬車は破壊されたと考えるのが妥当だ・・・そしてまだ襲われているなら静か過ぎる・・だとすれば・・・ロディアス商会一行は既に・・・」


モーリアは言葉を濁しロディアス商会一行の絶望的状況を伝えるようにデルマの目を見据える。


(うくっ・・・モーリアの言うのも一理ある・・・だが・・・このまま手ぶらで帰る訳には行かないわさ・・・)


「・・・いや!まだ可能性はあるわさ!何処かに逃れて隠れているかも知れない!!皆で手分けして・・・」


「・・・んっ?!し、静かにっ!何か森の中からこっち向かって来る!!」


デルマが話を続けとうとしたその時、モーリアはデルマの話を遮る。そして森の中から何かがこちらに近付いて来る気配を察知し身構えた。その瞬間デルマ達にも緊張が走り耳を澄ませながら森の中を凝視する。


「モ、モーリア!な、何が来るって!?」


デルマも森を凝視しながら背中の槍を構える。


「しっ!・・・まだ分からないわ!」


「お、おいおい!!な、何なんだよ?!ま、魔族じゃねぇだろうな!?」


「ちいっ!!ば、馬鹿言うな!!魔族なら俺達は終わりだ!!」


するとデルマと浮き足立った冒険者達の耳にも森の中から段々大きくなる草木が踏まれ続ける音が聞こえ始める。


ざっ・・ざざっ・・ざざざっ・・・


「き、気を引き締めな!!!来るわさ!!」


ざざざぁぁぁん!!


デルマが声を上げた瞬間、森の中から二つの大きな黒い影が飛び出して来る!!


「なっ?!あ、あれは・・・」


デルマ達冒険者は飛び越える大きな二つの影を呆然と目で追い着地まで見送った。


ざざんっ!!


冒険者達は口をポカンと開けたまま目の前に降り立った二体の黒く燃えるような毛並みの獣を見上げる。


「・・・ブ、ブラッド・・ウルフ・・・い、いや・・・ち、違う・・こ、この威圧感は・・・ブラッド・ガルムだわさ・・・そ、それが二体も・・・」


「な、な、何でだ・・・ブラッド・ガルムがこんな所に・・・無理だ・・・」


「・・・だ、だだ・・駄目だ・・・お、俺達・・死ぬのか・・・」


「ちぃっ!!何をぼーっとしている!?構えろ!!死にたいのか!」


焦るデルマ達に喝を入れモーリアが闘気を解放し剣を抜き放つ。


(くっ・・一匹でも厄介な奴が二体だと?!それに浮き足だったこの状況では・・・だが、やるしか無い!!)


モーリアが覚悟を決めたその瞬間、ブラッドガルムの背に人影が現れる。


「・・・おおーいっ!!待ってくれぇーーー!!!」


「はへっ?!あ、あれは・・・まさか・・・アルバン・ロディアス?!」


モーリアが瞬きを忘れて大きな目を見開いていると、キメルとイリアも顔を出し手を大きく振っていた。


「な、な、何故・・・何故、アルバン・ロディアス一行がブラッド・ガルムの背に・・・も、もう訳がわからないわさ・・・」


再びデルマを始め冒険者達があんぐりと口をポカンと開けて和かに手を振るアルバン達を見上げるのであった。

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