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第95話 勇者の卵

「その商談!待ってもらいましょうか!!」


「むっ?!」


アルバンとキメルが声のする方に目を向けると細身で背が高く鋭い目つきの男がこちらに向かって歩いて来る。


「・・・確か貴方は・・リザテルト商会の・・・アーガン・べーニン殿ですね。」


キメルは見覚えのあるアーガンの顔を見据える。


「その通り。憶えていて頂き光悦ですな。キメル・レバランス殿。」


アーガンが立ち止まり余裕を見せるように一礼すると物陰から武器を持った男達がアルバン達を取り囲んだ。 


(えっ・・・また嫌な予感が・・・)


ゼノアは男達を見回して密かに身構える。


「ふむ。それでベーニン殿。これはどういう事なんだ?商談に武器は必要ないと思うが?」


「ほう。これは魔法ですか・・・こんな強力な魔法を使ったのは・・・あのメイドですね。」


アーガンはアルバンの言葉を無視するように串刺しになったヘルベアーを見上げる。するとフェルネスの背後からガタイの良い男が現れフェルネスの首元に剣を突き付ける。


「おっと動くなよ。」


(こ、この人間風情が・・・)


(あっ!フェルネス・・・殺しちゃ駄目だよ・・・)


(・・・は、はい。分かりました。いつでもご指示ください。)


咄嗟にフェルネスの殺気に気付いたゼノアがフェルネスに念話を放つ。フェルネスはゼノアの言葉通り殺気を収めて剣を突き付ける男を恨めしそうに睨みつけた。



「な、何をするつもりだ!?」


「ふっ。この状況を見て解りませんか?取り敢えずそのエナハーブを渡してもらいましょうか?この状況を理解出来るなら素直に渡した方が良いと思いますがね。」


アーガンは口元を歪めながら銀縁眼鏡の位置を直しアルバンを小馬鹿にするように見据える。


「アーガン・ベーニン・・・なるほど。噂は本当だったのですね。手段を選ばす犯罪紛いの行為で商品を手に入れていると。時には・・・口封じに殺人も厭わないと・・・」


「ふっ・・・キメル殿も知っての通り商人の世界とて弱肉強食。弱い商会は強い商会に搾取されるのは至極当然の事です。さあ。無駄話は終わりです。さっさとエナハーブを渡してもらいましょうか。」


「くくっ・・・アーガン・ベーニン。残念ながらそれは無理な話だ。」


「何っ?!」


話を聞いていたアルバンは笑みを浮かべながらゼノアに視線を落とす。その意味を察したキメルも肩をすくめて口角を上げる。


「ふっ・・アーガン・ベーニン殿。このエナハーブはまだロディアス商会の物ではないのです。ここにいるゼノア殿の所有物なのです。ですので私達が貴方に譲渡する権利はないのです。理解しましたか?」


今度はキメルが余裕の表情で一礼する。


アーガンは気に入らなかった。自分が優位に立っている筈なのにアルバンとキメル、娘であるイリアまで恐怖も無く余裕さえ伺えるのだ。アーガンの余裕の笑みに亀裂が入った。


「それがどうしたと言うんだ?!お前らはこの状況が見えていないのか?!お前らの頼みの綱の魔法使いは拘束しているんだ!!所有者がそのガキなら奪えば良いだけだ!!」


(・・・あ、あの人間・・・主様をガキ呼ばわりするとは・・・生きたまま四肢をもぎ取ってやるわ・・・)


フェルネスの全身から再び殺気が漏れ出した。剣を突き付けている男の全身からは嫌な汗が噴き出る。


「お、おい!み、妙な真似するな!」


「あっ?勘違いしないで・・・お前如き主様のご命令があれば一秒で十枚に引き裂いてあげるわ。それまで・・・大人しくしてなさい・・・グルルゥゥ・・・」


フェルネスの口元だけ人化が解けて牙が剥き出しになる・・・


「ひ、ひぃぃ・・・お、お前は何なんだ?!」


男の全身はカタカタと震え腰が引けていた。突き付けている剣は既にフェルネスを拘束する役目は失っていた。


「ふっ・・・アーガン・ベーニン。さっきまでの冷静さはどうした?化けの皮が剥がれているぞ。」


「うぐっ」


(な、何だ・・こいつらの余裕は・・・何か策があると言うのか?!・・・はっ・・・な、なるほど・・・そういう事か・・・)


「はんっ!時間稼ぎなのが見え見えだぞアルバン・ロディアス!冒険者ギルドからの救援を待っているのだろうが、あと一時間は来ないぞ!!残念だったなぁ!!」


(何よ!あの勝ち誇った顔・・・ふん!何か勘違いしているみたいね・・・」


アーガンのニヤケた顔に苛立ったのかイリアがアルバンの前に出る。


「あーーもう!!あんた五月蝿いわね!!そんな事どうでもいいのよ!!ふん!あんたは私達が何でこんなに余裕なのかまだ解らないの?!あんたは今、人生終わるぐらいの大きなミスを犯してるのよ!!」


イリアはここぞとばかりに腰に手を添えて胸を張る。


「はっ?!ば、馬鹿な事を!!この私がミスなど犯すはずが無い!!」


イリアが許可を求めるようにアルバンとキメルの顔を見上げると二人は笑顔で頷き発言権をイリアに任せた。


「ふふっ・・・いいわ!解らないなら教えてあげるわ!!あんたは盛大に勘違いしてるの!この中で一番強いのはここに居るゼノア様よ!!あのゲイブルの街の魔族スタンピードの功労者よ!!あんた達全員十秒もあれば地面と顔面キスする事になるわ!!」


(あの娘・・・ゼノア様と。解っているではありませんか。ふふっ・・・気に入りましたわ。)


フェルネスの機嫌が少し良くなる。


「ふっ、ふははははぁぁ!!何かと思えばそんなハッタリ信じるとでも?そんなくそガキが魔族殺しだと?!馬鹿も休み休み言え!!」


アーガンを始め周りの男達もニヤケ顔で肩をすくめる。


「あーーっはっはっはっ!!本当にあんたは見る目が無いわね!!じゃあ死ぬ気で試してみたら?ほら!!ゼノア様の持ってるエナハーブ。奪えるものなら奪ってみなさいよ!!」


イリアは決まったとばかりに仁王立ちでアーガンに指を指す!


(イ、イリアちゃん・・・煽り過ぎだよ・・・まあ、何とかしないといけないのは確かだけどね・・・よし。)


ゼノアはフェルネスに視線を送るとこっそりと魔法を展開する。


(ふふっ・・・あの娘。ますます気に入りましたわ・・・んっ・・主様・・・何か仕掛けるおつもりですね・・・それではお役に立てるように準備しておきましょうか。)


フェルネスはゼノアの視線を感じて魔力の収束を始めた。


「ふん。言わせておけば・・・良いだろう!!お前等!エナハーブを奪え!!」


「おう!報酬は弾めよ!!」


アーガンの号令で周りを囲んでいた男達がアルバン達目掛けて一斉に動き出した・・・


「来るぞ!気を付けろ!」


アルバンが身構える。


(今だ!!アースバインド!!)


ゼノアは用意していた魔法を発動した。


ガクッ・・・


「んがっ?!あ、脚が・・?!」


「ぐっ?!な、何だ?!脚が動かないぞ!!」


「・・こ、これは!?あ、脚が石に挟まって・・・」


(フェルネス!!今だよ!死なない程度にやっちゃって!!)


(はい。お待ちしておりました!)


フェルネスが空に右手を掲げると同時に黄金色の閃光が轟き走る!


ズビシャァァァァン!!!


黄金色の閃光が戸惑う男達を穿つ。


「あがっ・・・・」

「がはっ・・・」

「な、なにが・・・」


どさっ・・・どさどさどさっ・・・


男達は訳も分からず焦臭い煙を漂わせて膝から崩れ落ちた。


「・・お、おいキメル・・い、一体どうなったんだ!?」


「・・・はい。どうやったかは解りませんが状況からすると恐らくゼノア殿は奴等が襲って来てからだと私達も巻き添えになる恐れがあるので事前に動きを封じてから攻撃したのでしょう。」


「な、なるほど・・・ふっ・・・ゼノア君は私達の事を護りながら戦ってくれているのか・・・本当に頭が下がる思いだ。それにしても奴等には少しだけ同情する・・・七歳の子供に何をされたのかも解らず倒されたのだからな・・・」


「えぇ・・・全くです。」


アルバンとキメルは粋がっていた男達が倒れて痙攣している姿を見渡し同情の念を送るのであった。



(フェルネスありがとう。良いタイミングだったよ。)


(ふふっ。これくらい容易い事ですわ。)


フェルネスは横目で隣で痙攣しながら倒れている男を見下ろす。


「ふんっ・・この程度で済んで有難いと思う事ですわ。我が主様に感謝するのです。」



「なっ?!何がどうした!?お、おい!お前等!!くっ・・・い、一体何をしたぁぁぁぁ!!!」


アーガンもまた訳も分からず恐怖を覚え後退って行く。


イリアも一瞬の出来事で何が起こったのか解らなかった。ただ襲って来た男達が倒れているのを見てゼノアの仕業だと思うのがやっとであった。


「えっ・・あっ・・ふ、ふふんっ!!じゅ、十秒も要らなかったみたいね。どう?これが私のゼノア様の力よ!!あんたこそ状況を理解出来た?」


「・・・私の・・?何か誤解がある言い方だね・・・ん?」


ゼノアがふとフェルネスを見ると青黒いオーラを立ち昇らせていた。


(・・・あの娘・・どさくさに紛れて私の主様を・・・少しお話をしなければなりませんわね・・・)




(何故イリアが得意な顔をしているのだ?)


(ふっ。お嬢様もゼノア殿に会えて気分が上がっているのでしょう。ふう・・・それにしてもまたもやゼノア殿に救われましたな。この際いっその事お嬢様と・・・)


キメルが意味ありげにゼノアの背中を見つめる。


(ふむ。それは流石にわがままというものだ。だが・・・もしそうなれば今後のロディアス商会も安泰なのだがな・・・)


アルバンもゼノアの背中を見据え思いを馳せる。


(・・・んんっ・・・後ろでも小声で何か気になる言葉が飛び交っている気がする・・・それにこの物凄く背中に刺さるような視線は・・・)


ゼノアの背筋によく解らない汗が垂れるのだった。



「き、貴様等!!な、何をごちゃごちゃ言っている!?こ、この私を無視するなぁぁ!!」


悔しさのあまり癇癪を起こすアーガンを皆が冷めた目で見据える。


「あぁ、お前まだ居たのか。まあ、お前はもう終わりだ。この事実を報告すれば商会からは追放され最悪死罪もあり得るからな。首でも洗って待ってるがいい。」


アーガンはアルバンの冷めた言葉に身体中の血の気が引いて行くのが分かった。


「・・・なっ・・ま、まあ、まあ・・そ、そ、そう言うな・・・同じ商人の仲ではないか!そ、そうだ!取り引きをしようじゃな・・・」


「断る!!自分の命を狙った奴と信用取り引きなどできる訳がないだろう!!そんな事も解らない奴が商人を名乗るな!!貴様はもう終わりだ!」


アルバンの怒りが溢れ出す。商人としても人間としても最低な行為を平然とするアーガンに情けを掛けるつもりは一切なかった。


「ちっ!!この偽善者め!!綺麗事ばかりで儲かるか!!ふん!私はこのままでは終わらんぞ!!覚えていろ!!この報いは必ず受けさせるからな!!」


アーガンが捨て台詞を吐きながら後退る。すると突然アーガンの背後の空間が歪み大きく真っ黒な穴が現れた。


「主様!!気を付けてください!!何か来ます!!」


「・・・我の眷属を・・・よくも殺ってくれたな・・・」


フェルネスが叫ぶと同時に森の中に身体の芯に重く響く声が広がる。そして大きな真っ黒な穴からヘルベアーの約二回りは大きなヘルベアーに似た魔物がゆっくりと姿を見せた。その大きな身体からは深黒のオーラが立ち昇っていた。


「・・・何だ・・この重っ苦しい空気は・・・」


アルバンが離れないようにとイリアを引き寄せる。


「あ、あれは・・・あの時と同じ・・・」


ゼノアはゲイブルの街を襲ったミノタウロスと姿を重ねて身構える。


「主様。あれはヘルベアーの上位種デスグリズリーですわ。ですが・・この禍々しい闇のオーラと意思疎通が出来るほどの個体となると恐らく・・・魔族と従魔契約を交わして悪魔化したエンペラーデスグリズリーでしょう。少し警戒しなければならない相手ですわ。」


「・・やっぱり魔族か・・・でも何でこんな所に・・・」


「・・・お、お前ら・・・い、一体何を見ている・・・」


アーガンはアルバン達が自分では無く自分の背後の何かを固唾を飲んで見ている事に恐怖を覚える。そしてアーバンがゆっくりと振り返る。


「へはっ?!・・・な、何だこれは・・・」


振り返ったアーガンの目には大きく黒く聳える山のように見えた。そして目線をゆっくりと上げて行くと身体の先から大きな白い牙を剥き出したエンペラーデスグリズリーの黒く殺気の籠った目と合う。


「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!ば、ば、化け物ぉぉぉ!!!」


「ごふぅぅぅぅ・・・・」


アーガンの顔には恐怖の感情が張り付いたまま一歩も動けずにいた。エンペラーデスグリズリーはそんなアーガンを埃でも払うかのように剛腕を振り抜いた。


「・・お前違う・・・」


びべしぃぃぃ・・・


「ぐべぇぇぇぇぇ・・・」


そこにいたはずのアーガンは一瞬にして消えた。そして森の木々を越え飛ばされ遥か遠くの森の中へと消えて行った。


「・・・ごふぅぅ・・我の眷属を倒すのは並の人間では到底無理・・・我の眷属を倒したのは誰だ・・・そいつが勇者の・・卵だ・・・」


エンペラーデスグリズリーの呟きにアルバン達が咄嗟にゼノアに注目した。


(ゼ、ゼノア君が勇者の卵?!・・・やはりそうなのか・・・こ、これは・・本気でイリアを応援する事を考えるか・・・)


(やはり・・・私の目に狂いはなかった・・・こ、これは是が非でもお嬢様と・・・)


(ゼノア様が勇者?!・・・うふっ、うふっ、うふっ・・・こ、これは運命よ!うふふ・・勇者であるゼノア様と結婚してバシバシと・・・)


(ふっ・・・あの程度の魔物を倒して勇者ですか・・・人族最強の称号・・・人族で唯一魔の者に対抗出来る存在でしたわね。ですが今や人族最強は主様ですわ。)


「勇者の卵?あれ・・・何処かで聞いたような・・・ん?何だろう・・・この背中に視線が集まるような気配は・・・」


ゼノアがふと振り返るとアルバン、キメル、イリア、フェルネスがそれぞれの思いに口元を緩ませゼノアを見つめる姿があった。


「・・えっ・・・皆んな・・僕の背中に何か付いてるの?」


「えぇ。付いていますわ。”人族最強”という名の称号が。」


フェルネスが誇らしげに微笑む。


アルバン達も目の前のエンペラーデスグリズリーの存在をも忘れて獲物を狙うような目でゼノアを見つめるのであった。

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