第9話 ルガルvsゼノア 3
ゼノアの気合いに諦めかけたゴルドの目に生気が戻る!全身に寒気が走るほど歓喜に打ち震え両手の拳をガッチリと握り締めるとその拳を突き上げた!!
「うおりゃぁぁぁぁ!!!来やがったぁぁぁぁぁ!!!この土壇場で成長しやがったぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁ!!!ゼノアちゃーーん!!凄いわぁぁぁぁ!!そのままヒョロヒョロ蚊蜻蛉を薙ぎ倒すのよぉぉぉぉぉ!!!」
シーラもゼノアの気合いに我も忘れて拳を握った!
(ゼノア・・すまねぇ・・お前がまだ勝負を捨てちゃいねぇのに・・この俺が諦めちまうとはな・・雇い主として失格だぜ・・・)
(おいおい!!まだやるのか?!・・なんてぇ根性だよ!!)
(でもよぉ・・あそこから逆転するには難しいんじゃないか?俺にはジリ貧に見えるぜ?)
(ゼノアちゃん・・・頑張って・・・)
女性達は息を飲み祈る事で精一杯であった。
ゴルドも観客も驚いたが1番驚いているのはルガル本人であった。目の前の子供に自分の意地と信念を練り込んだ力を受け止められたのだ・・・
「そ、そんな馬鹿なぁぁぁぁ!!ぬぐぐぐぐぐ!!!何でこんなガキにぃぃぃぃ!!」
ルガルは必死の形相で力を込めるがゼノアの腕はそれ以上倒れない!そしてゼノアのスキルに変化が起きた・・・
〈腕力強化5〉→〈腕力強化6〉
再びゼノアの身体が淡く光る。身体の底から力が湧き上る!そしてゼノアの腕に力が籠る!これが最後と言わんばかりにゼノアが歯を食い縛った!
「うぐぁぁぁぁぁ!!!これが・・・僕の全部だぁぁぁぁ!!!」
ゼノアが無我夢中で全力で腕を振り抜いた・・・
どばぁぁぁん・・・・
ゼノアの全力をルガルは受け止めきれ無かった。2人の組んだ手があっという間に目の前を通過し反対側のテーブルに打ち付けられたのだった・・・
その光景を目撃した者達は突然訪れた結末に言葉が出ずに固まっていた・・・そして審判として側で見ていたジーンがいち早く我に返り自分の仕事を思い出す。
「しょ、勝者!ゼノア!!!」
ジーンはゼノアの小さな手首を握り掲げた!
その声に観客が我に返り込み上げる感情が吹き出した!!
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!すげぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!ゼノアちゃーーーーーん!!!!!」」」」
「すげぇ勝負だったぞぉぉぉぉ!!腕相撲でこんなに盛り上がるなんてなぁぁぁ!!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!
観客が熱狂し拍手喝采の中ゼノアは疲労困憊で肩で息をしていた。
(な、なんとか勝てた・・・や、やっぱりお仕事はキツいね・・・よっと!)
ゼノアが椅子から降りて無邪気にシーラの元に駆け寄るとシーラが両手を広げて待っていた。
「シーラさーん!!」
「ゼノアちゃーん!!凄かったよーー!!」
ぽふん・・・
シーラはゼノアを谷間に収めるとそのまま抱きしめて立ち上がる。
(ふんふんふんふんふんふんふん・・・これはご褒美だからね・・・)
「・・・ゼノアの奴・・・羨ましい事しやがって・・・」
「あいつ・・・絶対わざとだぞ・・・くそっ!俺も子供になりたい・・・」
ゴルド水産の男達が邪な目でシーラを眺めるのであった・・・
そして拳を握りしめて肩を震わせ項垂れるルガルがいた・・・仲間2人も掛ける声がなく立ち尽くしていた。
「お、俺が・・こんなガキに負けた?・・・な、何なんだお前は・・何でそんな小さな身体で俺に勝つんだよぉぉ・・俺の今までの努力は何だったんだ・・・こんなガキにも勝てないなんて・・・くそぉぉぉぉ!!!!」
ドガァン!ドガァン!!
両拳を固く握り締めテーブルに打ち付けながら悔しがる。すると何も言わずにゴルドがルガルの側へ行くといきなり笑顔になってルガルの肩に腕を回す!!
がっ!!
「な!何だ?!」
「お前!!やるじゃねぇーか!!うちのゼノアを追い込むとはなぁ!!正直ちょっとだけヒヤッとしたぞ!!まあ・・何だ・・・そんなに落ち込むこたぁねぇぞ!!ゼノアはこの俺が鍛えているからな!当然の結果だ!!」
「くっ!うるせぇよ!!鍛えてたって3歳なんだろう?!俺は18歳だぞ?!俺だって鍛えてんだよ!!それでこんなガキに負けたんだ!!必死にCランクまで駆け上がって来た俺が・・俺が・・・」
ルガルは3歳のゼノアに負けた事がどうしても割り切れなかった。どんな理由がっても納得出来る事ではなかったのだった。
ゴルドは拗ねるルガルに苛つき肩に回した腕に力を入れる!
メキメキッ!!
「うがっ!!な、何・・しやがる・・・」
激痛にもがくルガルの耳元でドスの効いた声で口を開く。
「おい!若造!!いつまでウジウジ言ってやがる!!歳が上なら勝って当たり前か?!お前は歳上には勝てねぇと諦めるのか?!テメェの努力不足を棚に上げて自惚れるなよ!?うちのゼノアはなぁ!あの身体で毎日毎日80キロ以上ある魚籠を何十個も運んでるんだぞ?テメェ等なんざふんぞり返って格下の魔物狩るのが関の山だろうが!!違うか?」
「うぐっ・・・」
正に図星であった。ルガルはゴルドの言葉に何も言えず奥歯を噛み締める事しか出来なかった。初心を忘れてぬるま湯に浸かり出来る事しかしていなかった自分が走馬灯のように甦る・・・
ゴルドは言葉が出ず項垂れるルガルの拘束を解き頭に勢いよく手を乗せる!!
がすっ!!!
「ぐはっ!!!何しやがる!!」
「目ぇ覚ませ!!この若造!!まだ18ちゃいの鼻垂れ小僧だろうが!!お前より歳下で強い奴なんか掃いて捨てるほど居るぞ!!身体鍛えて出直して来い!!」
ゴルドがルガルの頭をガシガシと笑顔で揺らすと成すがままにルガルは左右に揺れていた。
「ふ、ふん!!つ、次は負けねぇからな!!行くぞ!!」
ルガルはゴルドの手を振り払い立ち上がった。素直にはなれないが初心を思い出し自分の甘さを思い知ったのだ。
ルガル達はシーラの胸に収まるゼノアを横目に食堂の出口に歩き出した。
「ちょっと待ちな!!あんたら何か忘れてるんじゃないかい?」
食堂の女将ジーンが歩き出したルガルの肩をむんずと掴む・・・
「な、何がだよ?!」
「”何が?!”じゃないわよ!!あんたが負けたんだから払うんだよね?」
ジーンが床に付く程長い伝票をルガル達に突き付ける。
「あ・・・銀貨6枚と・・・小銀貨6枚・・」
ルガルが仲間の顔を見るとハズレ券を振りながらプルプルと首を小刻みに揺らす。そしてルガルが苦笑いで頭を掻く・・
「あ、あれだ・・・ツ、ツケで・・・」
「駄目だね!うちはツケはやってないんだよ!いつも現金ニコニコ払いさ!!意地でも払ってもらうよ!!」
ジーンが腰に手を添えて立ちはだかる!!
「あう・・か、勘弁してくれ・・見ての通り文無しなんだ。」
「ふん!自業自得の敗者の末路はそういうもんさ!金がないなら身包み全部置いて行ってもらうよ!!」
「い、いや・・そ、それは・・・」
ジーンに迫られ後ずさる・・・すると背後からゴツい手がルガルの肩に置かれた。
「若造!困っているみたいだな?何なら手を貸してやってもいいぞ?」
「えっ?!」
ゴルドの言葉に期待して振り向いたルガルが見たものは悪い顔で笑うゴルドの顔であった・・・
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