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第84話 ゼノアの魔力

 ゼノア達が王都に戻り門を潜ると近衛兵団長ベリオールが馬に乗りゼノア達が乗る馬車に駆け寄って来た。


「ミラゼール殿!!待っていた!!急ぎで陛下がお呼びだ!!今すぐ向かってくれ!」


「あ、あぁ・・・わ、分かった!先導を頼む!」


(・・・もう陛下の耳に入ったのだろう・・・それにしても陛下の耳は早いな・・・)


クロードは軽く首を傾げながらベリオールの後に付いて急ぐ。


「任務完了。」


そんな様子をイーシアがポーズを決めながら建物の屋根から見下ろすのであった。




「ふむ。皆楽にせよ。・・・この度の事、ある程度の報告は聞いている。」


セルバイヤ王の前で跪いていたゼノア達が立ち上がる。


そしてゼノア達の背後には後ろ手に縄を打たれたバルガーとキベリアード伯爵と息子のラグベルが跪いている。



「さて。マリスよ。この度の事を報告書にて概要を説明せよ。」


「はっ。かしこまりました。それでは。」


セルバイヤ王の苛立ちと怒りを含んだ声を受けて宰相のマリスが厳しい表情を浮かべながら手元の報告に目を落とす。


「本日、サーメリア学院の教師と共にSクラスの生徒が南の森で郊外学習を行っておりました。

そこで事もあろうに、そこに居るキベリアード伯爵の三男ラグベルが魔物玉の使用禁止区域である南の森で魔物玉を使用したのです。」


「そ、それは!!あ、あいつが!!」


「黙りなさい!!陛下の前です!!」


「あぐっ!!」


不意に声を上げたラグベルがマリスに一括され兵士に頭を押さえ付けられる。マルスは冷たい目でラグベルを一瞥すると淡々と報告を続ける。


「その影響でブラッドウルフ数十体と危険度Bランク魔狼ブラッドガルムが現れ学院の教師と生徒に死の恐怖に晒されました。しかしその襲撃を学院の生徒であるゼノア君と駆けつけたリズナー・セルナード枢機卿の働きにより辛うじて退けたのです。」


セルバイヤ王が感極まり思わず立ち上がる。


「うむ!ゼノア、リズナー枢機卿よ!良くぞ皆を助けてくれた!皆に代わりわしからも礼を言うぞ!!」


「・・・い、いえ!当然の事をしただけです。」


「勿体なきお言葉!!ですがゼノア君の言う通りでございます。」


ゼノアはリズナーに合わせて一礼する。


「へ、陛下。続けても宜しいですか?」


「むっ・・そうだな・・続けてくれ。」


マリスは少し笑みを浮かべ報告書に目を移す。


「しかしその後、キベリアード伯爵が私兵を率い連れ現れると息子の失態を無きものとしようと目撃者である第三王女であらせられるナリア様に剣を向け、その上サーメリア学院の教師と生徒を皆殺しにしようとしたのです。」


「まっ、待ってくれ!!そ、それは誤解なのです!!わ、私は・・・ただ・・」


弾けるようにキベリアード伯爵が顔を上げ声を上げる。しかしそれと同時に謁見の間に怒号が響く。


「黙れぇい!!キベリアード!!貴様が我が娘に剣を向け亡き者にしようとした事は紛れもなく事実!!言い逃れは出来んぞ!!貴様は未遂とは言え王族殺しとして不敬罪で極刑に処す!!この罪人を牢に叩き込んでおけ!!」


「はっ!!」


「なっ?!や、やめろぉぉ!!私に触るなぁぁ!!」


セルバイヤ王の言葉に屈強な兵士二人がキベリアードの両脇を乱暴に腕を絡めると問答無用で引き摺るように連れて行く。


「そ、そんなぁぁぁぁ!!へ、陛下!!陛下ぁぁぁぁ!!!!お、お待ちください!!じ、慈悲をーー!!お慈悲をぉぉぉぉぉ!!!!」


「ふん!見苦しい!!貴族なら貴族らしく潔く罰を受け入るのだ!!」


「と、父様・・・父様・・・父様ぁぁぁぁ!!!くっ!!お、お前のせいで!!お、お前のせいでこうなったんだぁぁぁぁぁ!!全部お前のせいだぁぁぁぁ!!!」


ラグベルが引き摺り出される父親の姿にどうしようもない後悔と絶望感で顔を涙と鼻水で濡らし縛られている事も忘れてゼノアに迫る。


(くっ・・・何でこんなに勝手な事が言えるんだ・・・やっぱり貴族って・・・嫌いだ・・・なんか段々腹が立ってきたぞ・・・)


「其奴を・・・」


「黙れぇぇ!!」


「んぐぅ?!」


セルバイヤ王が声を上げようとした瞬間、怒りの限界を越えたゼノアの怒声が謁見の間に響き渡った。セルバイヤ王も声を詰まらせ目を丸くしていた。


「うがぁぅぅぅ・・・」


そしてラグベルに向けられた怒号はゼノアの威圧と共に当てられラグベルは床に張り付いた。


「勝手な事ばっかり言うなぁぁぁ!!お前が皆んなを危険な目に遭わせたんだ!!お前の手で魔物玉を使ったんだ!!誰のせいでもない!!お前がやったんだ!!お前みたいなクズ貴族のが居るから陰で泣く人が絶えないんだ・・・お前みたいなクズ貴族が居るから理不尽な死に方をする人が居るんだ・・・お前みたいな・・・クズ貴族が・・・」


ゼノアの怒りに任せた威圧はラグベルの身体を更に床に押し付ける。


「がふっ・・・ぐぶっ・・・」


「いかん!」


ガベルが動くより早くユフィリアは優しくゼノアの頭の上に手を置いた。


「こら。もうその辺にしておきなさい。死んじゃうわよ?」


「あっ・・・」


(し、しまった・・・やり過ぎた・・)


ゼノアが我に返るとラグベルは泡を吹きながら下半身に水溜りを作り気絶していた。


「陛下。ごめんなさい・・・つい、やり過ぎました・・・」


「・・・うむ。良い。此奴の物言いには儂も腹が立った。此奴には良い薬になったであろう。」


(うーむ。確かに貴族である自分の親から見放され売られたのだ・・・余程この少年の中で大きな心の傷になっているのだろうな・・・)


セルバイヤ王は俯くゼノアの心情を察し目の奥が熱くなるのを堪える。そして黙ってマリスに頷き報告を促した。


「はい。それでは続けます。そのキベリアード伯爵の凶行をゼノア君とその従魔の働きにより退けたとの事です。」


(従魔・・あの者がゼノアと従魔契約を結んだブラッドガルムか・・・人化出来る程の力を持つ魔獣・・・この後、しっかりと話さねばなるまい・・・)


セルバイヤ王は目を伏せゼノアの側に佇むフェルネスを目を細めて見据える。


(やっぱり気になるよね・・・陛下の目が怖いよ・・・)


「その後、聖教会異端審問官バルガーは皆を命懸けで護ったゼノア君を事もあろう事か魔人と勘違いし殺害しようと襲い掛かりました。」


「お、恐れながら申しあげます!!け、決して勘違いなどではありません!!このガキは魔族が使う暗黒魔法を使っていたのです!!」


(・・暗黒魔法だと?!)


バルガーの言葉にセルバイヤ王も言葉を失い眉間に皺を寄せゼノアに目を移す。その時、助け船を出すようにユフィリアが口を開く。


「・・・あんた。ゼノア君が聖結界の中で平気だったのを忘れたの?それに何か勘違いしてるみたいね?」


「な、何?!こ、この俺が何を勘違いをしていると言うんだ?!」


バルガーが困惑した表情でユフィリアを見上げる。


「はぁ・・・知らないなら教えてあげるわ。いい?人間が暗黒魔法を使えないと言われる由縁は、魔族より圧倒的に魔力量が足りないからよ。魔族の魔力量はどの種族よりもずば抜けているのは知っているわよね?その上、暗黒魔法は特級属性魔法なの。更に魔力が必要なの。だから魔族ですらまともに使えない者がいるくらいよ。それと暗黒魔法を魔族しか使えないって言うのは偏見よ。魔族以外でも長命種である亜人の中には暗黒魔法を使える者もいるわ。だから魔族級の魔力量があれば人間でも暗黒魔法が使えるって事よ。」


「なっ?!・・ちょっ・・ちょっと待て・・・な、な、なら・・・そ、そのガキは人間ながら魔族級の魔力量を持っているって事か?!」


「えぇ、そうね。あんたみたいな頭の固い奴には信じられないかも知れないけどゼノア君はゲイブルの街を襲った幹部クラスの魔人を圧倒する程の魔力を持っているわ。だからあんたは運が良かったのよ。もし、ゼノア君が本気で魔法を放っていたら・・・あんたは跡形もなくこの世から消滅していたわ・・・良かったわね?あそこにいるフェルネスはあんたの命の恩人よ。感謝する事ね。」


バルガーが思わずフェルネスを見るとフェルネスの口元には笑みが浮かんでいた。


「・・・うっ・・くっ・・・そ、そんな馬鹿な事・・あ、ある訳が・・・」


「はぁ・・まだ信じられないなら・・・仕方ないわね。」


ユフィリアが呆れ顔でゼノアに目線を送る。


「んっ?」


(な、何?ユフィリアさん・・・どうするつもりなんだろう・・・)


「陛下。この場で少しだけゼノア君の魔力を解放する許可を頂けませんか?陛下もお気になっていますでしょう?」


(えっ?!こ、ここで?!)


ユフィリアがセルバイヤ王に一礼する。


「・・・うむ。良かろう。わしもゼノアの力を見てみたいと思っておった。幸いここには我が国の誇る魔導師団長シバリアスもいる。お前の力を判断出来る。良いか?ゼノアよ。」


ふとゼノアがセルバイヤ王の視線を追うと赤と白を基調としたローブを纏い金髪の女性と目が合う。そしてその目はゼノアの実力を嘲笑うかのように見えた。


(・・・やっぱり・・そんな態度になるよね・・・)


ゼノアは本当に良いのかとユフィリアの顔を見ると笑みを浮かべながら頷く。


「良いわよ。皆んなにゼノア君の実力の一端を見せてあげて。でもね、ゼノア君が一気に魔力を解放すると危ないからゆっくりね?」


(ふん・・・あんな子供にどれ程の魔力があると言うのだ。陛下も買い被り過ぎではないのか?)


魔導師団のシバリアスが肩をすくめながらゼノアを見下ろした。


「・・・は、はい。分かりました。」


(よし・・・どれくらい加減すれば分からないけどやってみよう・・・ゆっくり・・ゆっくり・・・)


ゼノアが少しづつ魔力を込めて行く・・・するとその度に周りの空気が震え出す・・・


・・・びびっ・・びびびっ・・・


そして段々と解放された魔力がゼノアを中心に渦巻き立ち登る。ゼノアにとってはゆっくりと抑えた魔力であったが、セルバイヤ王を始めマリス宰相そしてセルバイヤ王国が誇る魔導師団長のシバリアスの顔色が明らかに変わる。


「・・・こ、これ程とは・・・これでもまだ全力ではないのか・・・」


段々と勢いを増し渦巻き立ち登るゼノアの魔力風に肌で受けながらセルバイヤ王が言葉を詰まらせる。


(こ、こんな馬鹿な事って・・こ、こんな子供が・・・こ、これほどの魔力量・・・こ、この私よりも・・・)


魔導師団長シバリアスは想像を越えた魔力量を目の当たりにし動揺を見せまいとするが無意識に眉間に皺が寄り瞬きを忘れる。


そしてバルガーは子供だと思って侮っていたゼノアが纏っている膨大な魔力に只々言葉を失い驚愕の表情を浮かべ口が開いてた。


「・・・うっ・・・くっ・・・」


(こ、こいつは・・・い、異端だ・・・お、俺の判断は間違っていない・・・こいつは、こ、この世界に禍いをもたらす異物だ・・・排除しなければならない存在だ・・・)



(ふふふ。皆んなゼノア君の力を分かった見たいね・・・それにこれ以上は私も耐えられないわ・・・)


ゼノアの一番近くにいるユフィリアは魔力の圧に耐えながら皆の顔色が変わり驚愕の表情に満足すると口元に笑みを浮かべゼノアの肩に手を置く。


「ゼノア君。も、もう良いわよ。こ、これ以上は皆んなが倒れるわ。」


「えっ・・・あっ・・もう良いの?まだ3分の1位だよ?」


「えぇ。もう十分よ。皆んな分かってくれたみたいよ。」


ゼノアがふとセルバイヤ王達の顔を見渡す。するとユフィリアに同意を示すようにコクコクと皆が首を縦に振っていた。


「うん。分かった。」


ゼノアが魔力を収めると皆が解放されたかの様に肩の力が抜けてため息が漏れる。


「ふうぅぅぅぅ・・・こ、これでまだ3分の1じゃと・・・」


「はぁぁぁぁ・・・い、いやはや・・これ程とは・・・陛下・・あの件を。」


汗を拭うセルバイヤ王にマリスが視線を送る。


「うむ。だがその前に。」


セルバイヤ王がゼノアの魔力に当てられ肩で息をしているバルガーを見下ろす。


「聖教会異端審問官バルガーよ。今ので分かったであろう。このゼノアは人間でありながら魔族級の魔力を持っておる。だから暗黒魔法が使えるのだ。よってゼノアは魔族ではなく人間である。良いな?」


セルバイヤ王の鋭い眼光がバルガーを見据える。しかしバルガーは顔を上げその眼光を見返す。


「・・・お、恐れながら申し上げます。こいつは・・・明らかに異端でございます。こ、この力は危険です!もしこの力が・・・我々人間に向いたのなら・・・人類の敵である魔族に取り込まれたのなら・・・我々人類は最大の危機にさらされるでしょう!!ならば!ここで排除すべきと考えます!!」


(えっ・・えぇっーーー!?は、排除ってぇぇぇ?!)


「ちっ・・何を言ってるの?!こいつは・・・」


「聖教会は自分達の知らぬ力は認めんと言う事か?!」


バルガーの発言にユフィリアとガベルが苛立ち眉を顰めバルガーを見下ろす。セルバイヤ王もバルガーの言葉に全てではないが一理あると一瞬何も言えずに言葉を飲む。そして周りの重臣達も賛否両論を繰り広げ始めた。


「・・・えっ・・・何?!僕はどうなるの?!」


「皆んな!!待って!!!」


ゼノアが動揺で言葉を失う最中、それを打ち払うかのように謁見の間に聞き慣れた声が響く。皆が会話を止めて声の主へと注目すると玉座の後ろから出て来た王族らしいドレスに身を包んだナリアの姿があった。


(ナ、ナリアちゃん・・・?そうだった・・ナリアちゃんは第三王女様・・)


「ナリアよ。言いたい事があるのか?」


セルバイヤ王がナリアを打ち合わせたかのように声を掛けた。


「勿論ですわ!!お父様!!あの場でゼノア君が身を挺して私達を護ってくれなかったら・・・私達はここに居なかったのだから!!そんなゼノア君が人類の敵である訳がないわ!!魔族を倒したゼノア君が魔族に取り入る事もありえないわ!!あの男は自分より力があるゼノア君に嫉妬しているだけよ!!命の恩人であるゼノア君を侮辱する者はこの私が許さないわ!!」


(ナ、ナリアちゃん・・・)


7歳とは思えないはっきりとした口調でナリアが想いの丈を打ち明けた。そのナリアの迫力にざわめいていた重臣達も背筋を伸ばし静かになる。


セルバイヤ王は口元を緩め我が娘の成長を感じながらナリアの頭にそっと手を置く。


「ふっ。さてバルガーよ。これ以上申開きはあるか?」


セルバイヤ王の何も言わせぬと圧のかかった質問にバルガーは観念する。


「・・い、いいえ。ございません。」


ゼノア達も7歳のナリアの迫力に呆気に取られていると、ナリアの表情が緩みゼノアに向かって親指を立てウインクを飛ばすのだった。

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