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第82話 やらかした事

・・・・どどどど・・・


「ん?・・・あれは・・・」


何かが近付いてくるような音の方に目を向けると、ものすごい勢いで馬車が向かって来るのが見えた。


「・・・・い・・・ぉぉ・・い」


馬車が近付きよく見ると誰かが馬車の窓から身体を乗り出し手を振っていた。


「・・・んん?!あれは・・ユ、ユフィリアさん?!なんでここに・・・」


「ゼノア君。あの人を知っているのか?」


迫る馬車を目を凝らして見ていたリズナーが声を掛ける。


「うん。あの人はユフィリアさん。ゲイブルの街の領主のガベル・セルバン子爵の奥様です。」


それを聞いたリズナーが目を見開き明らかに動揺していた。


「な、何と?!あ、あの〈鋼の意思〉の魔導士・・四属性魔導士ユフィリア様か!〈王都ゼルガリアの落日〉の英雄の一角が今ここに・・・おふっ・・」


リズナーは迫り来る馬車に背筋を伸ばし手櫛で髪を整えると直立不動で出迎える準備を始めた。


「・・・リズナーさん?ど、どうしたんですか?」


「んんっ・・・ゼ、ゼノア君。い、いいかい?〈鋼の意思〉のユフィリア様と言えば人間界で魔法を志す者の目指す領域。言わば英雄、言わば伝説なのだよ!その方が今!目の前に降臨されるのだ!私は今・・・き、緊張と歓喜でどうにかなりそうなんだよ・・・」


(えっ・・・も、もしかして・・ユフィリアさんって・・・僕が思っている以上に凄い人なの・・・)


(・・・お、おい今〈鋼の意思〉って言わなかったか?)


(・・あ、あぁ・・・僕もそう聞こえた・・・)


ミレードとエルスが顔を見合わせる。


そんなリズナーの緊張感を裏腹に窓から手を振るユフィリアを乗せた馬車が目の前に止まる。


ガチャ!バァァァン!!


「ゼノア君!!」


(えうっ・・・なんか目が怒ってる・・)


馬車の扉が勢いよく開くとユフィリアが飛び出しゼノアに向かって行く。


「あ、あの・・・わ、私は・・・」


胸に手を当て高鳴る鼓動を感じているリズナーが緊張しながらユフィリアに声を掛けるが一瞥もされる事なく目の前を通過して行く。


「・・・えっ・・・あ・・あの・・・」


リズナーの声は虚しく虚空に響いただけだった。


そしてユフィリアは腰に両手を当てゼノアの前に立ちはだかった。


「こらっ!!今度は何をしでかしたの?!さっきの闘気と魔力は何?!一体何があったの!?怒らないから言ってごらんなさい?!」


「・・あ、あう・・も、もう怒ってる・・」


「・・・主様に何という態度を・・・」


ゼノアはユフィリアの背後で敵意を剥き出しするフェルネスに気付く・・・


「だ、駄目だよ!!フェルネス!!」


ユフィリアもまた殺気を気取り振り返っていた。


(・・・フェルネス?・・・これは・・人間の波動じゃないわ。そ、それより何?!こ、この桁外れな魔力・・・いえ、闘気?!・・・だけど・・この波動の中に感じる力は・・・ま、まさか・・・)


ユフィリアは何かに気付いたようにゆっくりとゼノアを見る。


(あう・・・目が怖い・・・)


「ゼノア君・・・あんた・・まさか・・・テイムしたの?」


「・・・えっ・・テ、テイム?テイムって・・・?」


「従魔契約の事だよ。」


不意に助け舟を出すようにリズナーが答える。


「ん?あんた誰?」


「こ、これはユフィリア様。お、お初にお目に掛かる。私は聖教会リズナー・セルナードと申します。差し支えなければ私から説明させて頂きます。ゼノア君。よろしいかな?」


(・・こ、ここは、お願いした方がいいかな・・・今のユフィリアさんに上手く説明する自信が無い・・・)


「は、はい。お願いします・・・」


「ふむ。ありがとう。」


「ふーん・・・あんたが聖教会の・・ゼノア君がそう言うなら聞いてあげるわ。何があったの?」


(ふふっ・・これでユフィリア様と会話が出来る。そしてこれを機に・・・ユフィリア様との接点が出来れば・・・)


(うぉぉぉーー!!あ、あの人が俺の憧れ四属性魔導士ユフィリア様か!!・・くっ、くそぉぉ・・あいつ・・・ユフィリア様とあんなに近くで・・・あ・・待てよ・・・あいつと仲良くすれば・・・)


ミレードの目がいやらしく光る。魔導士を目指すミレードにとって〈鋼の意思〉のユフィリアと言えば雲の人であり目指す人物であるのだ。


「その話。私も聞かせてくれ。」


不意に話し掛けられ振り向けば静かな足取りで近付くガベル・セルバン子爵の姿があった。


「ななっ?!こ、これは夢か・・は、鋼の意思のメンバーが・・・目の前に二人も・・・」


(むう・・ゼノア君は〈鋼の意思〉に囲まれ生活していたのか・・・通りで他の子供達とは一線違うと思ったが・・・納得だ・・・)


(あ、あ、あの方は!!氷剣のガベル様!!・・・す、凄い・・た、ただ歩いているだけなのにこんな僕でも達人だと分かる・・・くっ・・わかったぞ・・・あいつの剣技の師匠はガベル様だ!!ず、ずるいぞゼノア・・・ん?ま、待てよ・・・リズナー枢機卿の言う通りあいつと仲良くなれば・・・ふふっ・・」


エルスは口元を緩める。すると同じように目を輝かせているミレードと目が合った。お互い同じ事を考えているが分かり頷き合う。


「これはセルバン子爵様。お初にお目に掛かる。私は聖教会リズナー・セルナードと申します。

あの有名な〈鋼の意思〉のメンバーに会えた事を光栄に思います。」


リズナーは敬意を込めて頭を下げる。


「ほう。貴殿があの聖教会のリズナー・セルバン枢機卿か。

ふっ・・・私はもう引退した身だ。それに比べ貴殿は現役で聖教会で活躍していると聞き及んでいる。そんなに畏まる事はない。頭を上げてくれ。それよりここで何があったか教えてくれないか?」


(・・・貴族でありながらこの物腰・・・絶対的な自信と余裕が伺える・・流石だ。)


思っていたよりも物腰が柔らかいガベルの対応に少し驚いた。

そしてリズナーは頭を上げこれまでの経緯を話し出した。




「・・・なるほど。つまりこの事態の元凶はそこに埋まっているキベリアード伯爵並びにその息子と言う訳か。なんと言う馬鹿な事を・・・陛下に事情を説明すればこれ程の事態にはならなかった筈だ。くだらない意地を張ったばかりに全てを失う事になるとはな。」


ガベルは瀕死の状態で地面に顔をめり込ませたキベリアード伯爵を憐れみの目で見下ろした。


「はぁ・・・それにしても・・・ゼノア君。あんたはまた盛大にやらかしたわね・・・テイムして進化したダークネスフェンリル・・・特Sランクの幻獣・・この目で見る日が来るとはね・・・それに・・・あれだけ暗黒魔法は人前で使うなって言ったのに!」


ユフィリアが呆れ顔でゼノアの顔を覗き込む。


「あ、あう・・・ご、ごめんなさい・・・」


「い、いえ!!ま、待ってください!ユフィリア様!!今ここに私達が生きているのはゼノア君が護ってくれたからです!!ゼノア君が居なかったら・・・私達は・・・今頃・・・っ・・」


「ナリアちゃん・・・」


ナリアは目に涙を溜め言葉を詰まらせながらユフィリアを見上げた。するとユフィリアは肩をすくめてナリアを見る。


「・・・はぁ・・・分かっているわ。だから怒るに怒れないのよ・・・ただ、覚えておいて。ゼノア君が怒りに任せて本気で力を使えば辺り一帯が荒野になる事を。だから側で宥めてくれる人が必要なんだけど・・・ね?第三王女ナリア様。」


「えっ・・・そ、それは・・・」


ユフィリアが目配せをするとナリアはユフィリアの意図を察して頬をあからめゼノアをチラリと見る。


「えっー!ひどいよユフィリアさん!流石に荒野になんかしないよーー!!もーーっ!!」


しかしナリアのそんな視線にも気付かずゼノアは頬を膨らませてユフィリアを見上げていた。


(・・・あうぅ・・・ゼノア君の目には今は私は映って無いのね・・・でも・・いつか必ず・・・)


ナリアは口元に薄っすらと笑みを浮かべゼノアを見つめていた。


「「ゼ・ノ・ア君!」」


そんなナリアの感傷を邪魔するように示し合わせたかのようにミレードとエルスがゼノアに駆け寄り両隣りに並び立った。


「えっ・・・ふ、二人共・・・何?」


「ユフィリア様!俺はミレード・ゾルディアです!魔法職です!ゼノア君とは仲良くしてます!!」


「ぼ、僕はエルス・ラビールと言います。ゼノア君とは仲良くさせて貰っています!僕は氷剣のガベル様に憧れています!!」


ミレードとエルスは目を輝かせて満面の笑みで両側からゼノアの肩に手を回した。


「えっ?!ふ、二人共どうしたの?!」


(ふふっ・・・あの二人・・・)


リズナーが二人の企みに気付く。


「ふーーん・・あんたにも友達が出来たのねぇー。ミレード君だったっけ?魔法職って言ったわね?」


「は、はい!!ユフィリア様のような魔導士を目指しています!!」


「ふん。良い心掛けね!いいわ!ゼノア君の友達なら今度一緒に遊びにでも来なさい。少し手解きしてあげるわ!」


(うっしゃぁぁぁぁぁ!!)


「は、はい!!ありがとうございます!是非お願いします!!」


ミレードは目を輝かせ拳を握り締めて小さくガッツポーズを決める。


「ほう。ゼノア君の友達か!エルス君と言ったな。ゼノア君と仲良くしてれるのならば是非もない!皆と遊びに来ると良い。私で良ければ心ゆくまで手解きしよう。」


「ほ、本当ですか!!ありがとうございます!!是非お願い致します!!」


ガベルの物腰柔らかな言葉にエルスは感動し嬉しさのあまり言葉を詰まらせるのであった。




すると突然ガベルが皆の顔を見渡しながら口を開く。


「時に皆に一つ確認したい事があるのだが良いか?」


リズナーを始め皆が顔を見合わせこくこくと首を縦に振る。


「ふむ。この中でゼノア君以外に〈従魔契約〉のスキルを持っている者はいるのか?」


皆が不思議そうに顔を見合わせていると、先程から話を聞いていた教師であるイーシアが不意に口を開いた。


「えっ・・・?居ないですよ・・・何故ですか?」


その質問の意図が分かったのはユフィリアだけであった。ガベルとユフィリアは目で会話をすると大きくため息をついた・・・


「ふぅ・・・まさかとは思ったが・・・」


「はぁ・・・そうみたいね・・・全く・・・」


ガベルとユフィリアは意味ありげにゼノアを見つめる。


「えっ・・・何?二人共・・何?!僕、何かまたやらかしたの?!」


ゼノアがガベルとユフィリアの目力に怯えながら上目遣いで交互に見上げる。


「あぁ・・ある意味やらかしているな・・・」


「ええ、やらかしてるわね・・・後できっちりと話す必要があるわね・・・」


「えぇーー!!何でぇぇーー!!!僕は何をしたのーーー!!」


自覚のないゼノアの叫びが南の草原に響き渡るののであった・・・

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