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第81話 勘違い

部下の男が首をカタカタとブリキ人形のように動かしてバルガーを見る・・・


「バ、バ、バルガー様・・・あ、あれは一体・・・ブ、ブラッドウルフが・・・人間を咥えて・・森に引き摺り込んで・・・」


部下の男達が怯えた目でバルガーに注目するがバルガーの目にはそれすらも目に入らず目の前の光景に驚愕し震えていた・・・


(ど、どうなっている・・な、何故だ・・い、一体何が起こっている・・・ブ、ブラッドウルフにあれ程の力は無い筈・・・あのガキ・・・ま、まさか・・そうか・・な、なるほど・・・そういう事か・・・テイマーだ・・あのガキ・・・ブラッドガルムとブラッドウルフを・・従魔にしやがった・・・聞いた事がある・・・従魔は主人の力によって強さが変わると・・・くっ・・・ブラッドウルフ如きがあれ程の力を得たという事は・・・やはりあのガキは魔人に違いない・・・)


バルガーの勘違いが加速し間違った方向に思考が進んで行く・・・


「・・・くっ・・人間の皮を被った魔人め!!遂に人間に牙を剥きやがった!!急げ!!〈封魔結界〉の準備はまだか?!」


焦るバルガーが苛立ち振り向けば部下達が額に汗を滲ませながら二つの蒼白い四角形錐の魔石に魔力を注いでいた。


「も、もう少しお待ちください!!」


バルガーはあからさまに焦りと苛立ちを浮かべる。


(・・・ちっ・・・強力な結界だが魔力の充填に時間が掛かるのが難点だ・・・それに充填して三十秒で使わなければ魔力が霧散してしまう・・・ここから奴等の所まで約100m・・・いや、120mか・・・)


バルガーはゼノア達までの距離を測りイメージを固める・・・


「バルガー様!!準備出来ました!!」


「むっ!!早く寄越せ!!」


バルガーは蒼白い光を放つ四角錐の魔石を部下から引ったくり両手に持つと一目散に森から飛び出し走り出した。


「どらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


(覚悟しろ!魔人め!このバルガー様が討ち倒してくれる!!)




「ん?誰かこっちに来る・・・」


ゼノアがバルガーの声に気付いて振り向く。皆もそれに釣られて皆の視線が白銀の鎧を揺らし迫るバルガーに集まった。


「あれは・・・バルガーかっ?!・・・ん?手に持っているのは・・・封魔結界石?!あいつは一体何をしようとしている?」


リズナーが迫り来るバルガーに目を細めているとバルガーの視線がゼノアに向いている事に気付く。


(・・・狙いはゼノア君か!・・・今までの経緯を見ていたな・・・なるほど・・確かに・・・そう思うのが普通か・・・)


「リズナーさん!あの人は誰なんですか?なんか必死な顔が怖いんですけど・・・」


ナリアがリズナーを見上げる。


「ふむ・・・あれは聖教会の異端審問官バルガーだ・・・あいつは今、盛大な勘違いをしながら向かって来ていると思われる・・・」


「えっ・・・勘違い?」


ナリアの考えが纏まる前にバルガーが気合いと共に両手を持った四角錐の魔石の底面同士を合わせる!


「魔人よ!!これでも喰らえ!!」


「えっ・・・魔人?」


ナリア達が首を傾げる・・・そんな空気の中お構いなしにバルガーは菱形になり蒼白い光を放つ封魔結界石を振りかぶり地面に突き立てた!


すると封魔結界石の継ぎ目から蒼白い光が広がり直径15m程の魔法陣が広がりゼノア達を包みこむ・・・


(ん?・・・これは・・・聖結界?・・何でこんな事を・・・)


ゼノアが首を傾げバルガーの必死な行動を眺める。そう・・ここにいる者はバルガーの言動に全くと言っていい程疑問を抱えて首を傾げているのである。


「あいつ・・何を言ってるんだ?」


「あぁ・・・だから勘違いか・・・だけど・・・あんな光景を目の当たりにしたら・・・気持ちは分からないでもない・・・」


「・・・そう言う事か・・・まあ、確かにな・・・」


ミレードとエルスがひそひそと話しているのが聞こえて来る・・・


(あー・・・そう言う事か・・・暗黒魔法まで使っちゃったし・・・ゴルじい達が言っていたのはこう言う事だったんだね・・・)


「はーっはっはっはーー!これで貴様は動けまい!!覚悟しろ!!このバルガー様がその魔人を成敗してくれる!!」


バルガーは勢いよく腰の剣を抜き放ち決まったとばかりに切先をゼノアに向けた。しかしゼノアは苦しむ様子も無くリズナーを始めその場にいる者達も苦笑いを浮かべていた・・・


「ん?・・って・・あれ・・・お前ら・・何で・・・何故そんなに落ち着いている?!こいつは魔人で!き、危険な存在なんだぞ?!その魔人を・・・この俺が・・・」


「バルガー・・・ちょっといいか?」


「な、なんだ?!」


「・・・勘違いだ。ここには魔人は居ない。信じられないだろうがゼノア君は正真正銘人間なんだ。その証拠に封魔結界の中でゼノア君は平気な顔で立っているだろう?魔の者であれば苦痛で膝を付くだろうな。」


バルガーはリズナーの言葉にはっとしてゼノアに目を向けると苦笑いを浮かべながら頬を人差し指で掻いているゼノアがいた。


「なっ?!ば、馬鹿な!!な、何故だ?!何故、封魔結界の中で平然としていられる?!人間は暗黒魔法は使えない筈だろう?!魔の者が使う魔法だ!!くっ・・な、何なんだ!!あのガキは・・・あのガキは・・・」


そしてその隣にはワナワナと肩わせドス黒いオーラを立ち昇らせるメイドの姿があった・・・


「・・・主様に剣を・・・向けたわね・・・」


「えっ・・・フェルネス?そ、そういえばフェルネスはこの中で大丈夫なの?」


「ご心配ありがとうございます。多少は影響はあるようですが私の中には主様のお力が渦巻いています。この程度の結界など一万が九千九百になった程度です。何も問題ありません。それより・・・主様に敵意を持ち剣を向けるあの輩を排除致します・・・っ」


「あっ・・・まっ・・・」


フェルネスはゼノアの言葉を待つ事なく軽々と大地を蹴ると殺気を漲らせ一瞬でバルガーの懐に入った・・・


「はっ?!なっ?!」


ずどぼぉぉぉぉぉぉ!!!


バルガーが最後に見た光景はフェルネスの胸元であった・・・次の瞬間、バルガーの頭は草原の中に叩きつけられ埋められた・・・


「・・・ふん。最後まで変態でしたわね。早く死ねばいいのに・・・」


フェルネスは始終バルガーからのいやらしい視線を感じていた。気を失い全身が痙攣しているバルガーを汚物を見るような目で見下ろし追い討ちのようにバルガーの頭を踏み躙るのであった。


(・・・この人・・勘違いでやって来て・・いきなりやられて・・・可哀想で残念な人だね・・・)


ゼノアが哀れみの目を向ける。


リズナーが頭を抱えてゆっくりと首を振った。


「・・・バルガー・・・いつも言っていただろう・・・お前は状況把握を疎かにするからいつか失敗すると・・・状況を見ていたのなら喧嘩を売っていい相手か分かる筈なんだが・・・」


「・・よくお父様が言っていました。いくら素晴らしい称号やスキルを持っていてもその人間が愚かであれば宝の持ち腐れだと・・・正にその見本ですね・・・良い勉強になりました。」


ナリアもリズナーの隣に立ち踏み躙られるバルガーを軽蔑の眼差しで見下ろすのであった。

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