第8話 ルガルvsゼノア 2
ルガルは予想以上の人集りにこめかみを震わす。
「けっ!!大騒ぎしやがって!!こんな勝負分かり切ってるだろうが!!俺が秒殺して終わりだ!!」
「おい!ルガル!!お前に全財産賭けたからな!!頼むぞ!!」
見れば黄髪の男が引き換え券をパタパタとはためかせて応援していた。
おおう!その手があったか!!・・・クックッ・・ひと稼ぎさせて貰うぜぇ・・・持てる力を全て使っていいんだよな・・・ククッ・・
「おう!!任せとけ!!こんなガキ身体ごとぶっ倒してやるぜ!!」
ルガルがゼノアを威嚇するように拳を挙げて仲間に応える!!するとシーラのこめかみに青筋が走った・・・
「この蚊蜻蛉!!ゼノアちゃんになんて事言うのよ!!・・いいわ・・・ゼノアちゃん!!全力よ!!私が許すわ!!全力でそのヒョロヒョロ蚊蜻蛉の腕をへし折ってやるのよ!!」
シーラが拳を握り締め我を忘れてルガルに野次を飛ばすとゴルド水産の面々がシーラの変貌ぶりにポカンと口を開けて見ていた・・・
(シーラちゃん・・・が・・・)
「お、おう・・・シ、シーラちゃん?い、意外と熱くなるタイプなんだな・・・ちょ、ちょっと見直したぜ・・・」
「えっ?!や、やだ?!私ったら・・はしたない・・・い、今のは無しで・・・」
シーラは我に返り顔を真っ赤にして俯きモジモジと身体を捩るのだった・・・
観客が揃い今か今かと勝負の開始を待つ中、頃合いを見計らってゴルドが声を上げる!!
「よぉぉし!!お前らぁ!!準備は整ったかぁぁ?!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!準備万端だぁ!!」
「よぉぉし!!まずは赤コーナー!!王都ゼルガリア所属ぅぅぅ!!!Cランク冒険者ルガーーールゥゥゥゥゥゥ!!!」
ゴルドが勢いに乗せて選手紹介を始めると観客達の熱量も上がって行く!!
「うぉぉぉぉ!!ルガル!!冒険者の意地を見せろよぉぉぉぉ!!」
「お前に期待してんだぞぉぉぉ!!そんな子供に負けんじゃないぞぉぉぉ!!!」
ルガルも熱くなり勢いよく立ち上がると右手を高らかに挙げて皆に応える!!
「おおう!!任せとけぇぇぇ!!一瞬で決めてやらぁぁぁぁ!!拍子抜けしても文句言うなよぉぉぉぉ!!!」
「そしてぇぇぇ!!!青コーナー!!ゴルド水産所属ぅぅぅぅ!!期待の新人!!ゼノーーーアァァァァァ!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!ゼノアちゃーーーん!!頑張ってぇぇぇ!!勝ったら抱き締めてめちゃくちゃにしてあげるぅぅぅぅ!!」
「ゼノアちゃーーん!!頑張ってぇぇぇ!!愛してるわよぉぉぉぉぉ!!!」
「あぁーーーん!!勝っても負けてもいいからうちの子になってぇぇぇぇん!!!」
「あふん・・・可愛い・・・」
ゼノアが女性達に応えて笑顔を振り撒くと失神する女性すらいた・・・
(おいおい・・ゼノアはいつの間にあんなに女性の人気を集めたんだ?!)
(わ、私も知らなかったです・・・こ、こんなに人気だったなんて・・・)
シーラは何か複雑な気持ちに襲われゼノアの背中を見つめるのであった。
「そしてぇぇ!!審判は”港食堂”美人女将ぃぃぃぃ!!ジーンだぁぁぁぁ!!」
「「「ぶぅぅぅぅぅーーーー!!!!」」」
「何だい?!あんたら!!次来た時に肉抜きにしてやるわよ!!!」
「そ、それだけは勘弁をーーーー!!!」
「あーっはっはっはっはーーーーー!!」
「よぉぉし!!暖まって来たなぁぁぁ!!ジーン!!開始の合図を頼むぜぇぇぇ!!」
「あいよぉぉぉ!!」
ジーンが意気揚々とルガルとゼノアが居るテーブルの横に立つ。
「さあ!2人とも肘を付いて手を組みな!」
緊張する2人はジーンの言う通りにゆっくりと
手を組んだ・・・
(うん・・やっぱり・・握っただけで分かる・・・この人・・強い・・・)
(な、何だ?!この感覚は・・・こ、この小さな手が重く感じる・・・これは・・油断出来ないぞ・・・)
ルガルとゼノアは相手の力量を手の感触だけで悟った・・・お互い今までのイメージを修正して気を引き締める。
「お互い恨みっこ無し!!一回勝負よ!自分の持てる力を全力でぶつけな!!」
ルガルとゼノアは黙って頷く。そしてジーンが2人が組んだ手の上に右手を置いた・・
「よぉぉぉぉい・・・・始めぇ!!!!」
「ぬがぁぁぁぁ!!!」
「うぐぅぅぅぅ!!!」
ギシッ・・ミシッ・・・
ジーンの号令と同時に2人の腕に青筋が走る!必死の形相にも関わらずデーブル中央で両者の腕が小刻みに震えながら動く事なくテーブルが軋む音だけが響く・・・
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・・」
(う、嘘だろ?!な、何だこのガキ・・・く、くそっ・・・油断すると持っていかれる・・)
「うぐぐぐぐぐぐぐ・・・・」
(や、やっぱり・・・強い・・でも・・なんか・・・負けたくない・・・)
この予想外の状況に周りの観客が息を飲みざわつき出す・・・
「マ、マジか・・・あの身体で・・Cランク冒険者と渡り合ってるのか・・・」
「一体どうなってるんだ?!・・・あのゼノアって奴は・・・」
「お、おい・・・ルガル!楽勝じゃねぇーのかよぉぉ!!!全財産かかってるんだぞ?!」
多くの観客はルガルの圧勝だと思っていた。しかしそう思うのは仕方のない事である。なにせ相手は3歳の子供なのだから。
ゼノアの姿を見てゴルドの口元が震えながら歪む。
「や、やっぱりな・・・俺の目に狂いは無かった・・・ゼノアは・・特別な固有スキルを持っているんだ・・・」
「えぇ?!ゴルドさん!それはどう言う事ですか?」
「おう。シーラちゃんは気付かなかったか?あいつは一度経験した事は次からすぐ出来ちまうんだ。それが日に日に上手くなって行く。とにかくゼノアの成長速度は異常なんだ。それとシーラちゃん・・・ゼノアはあの若造を凌ぐ力を持っている。」
「えっ?!それなら何で動かないんですか?」
「あぁ・・シーラちゃん。よく見てみろ!ゼノアは床に足が付いてないんだ。あれじゃあ踏ん張れねぇ。あれじゃあ力の半分も出せないだろう。それでもゼノアは上半身の力だけで若造の力を受け止めているんだ。」
「そ、そんな・・・ゼノアちゃん・・凄い・・」
シーラはゴルドの目線の先で必死に頑張っているゼノアの背中を呆然と見ていた。
このゴルドの予想は少なからず当たっていた。ゼノアはスキル神官により一度でも経験した事はスキルとして覚える事が出来る。そして創造神アルフェリアが書き換えた〈神級スキル〉により習得したスキルが強化されるのだ。
ゼノア
Lv 1
称号 スキル神官
力 355
体力 259
素早さ 110
魔力 47
スキルポイント 345
【固有スキル】〈神級スキル〉〈種3〉〈寒耐性10〉〈苦痛耐性9〉〈状態異常耐性9〉〈運搬5〉〈料理3〉〈解体3〉〈腕力強化5〉〈体力強化5〉〈脚力強化5〉〈物理防御5〉
ルガルは腹に力を込め奥歯を噛み締めゼノアを睨みつける。
「ぬぐぐぐぐ・・・俺はCランク冒険者なんだ・・・こんなガキにぃぃぃぃ・・・苦戦すら許されないんだぁぁぁぁ!!!」
ルガルの意地が勢いに乗りゼノアの腕に襲い掛かる!!
「あぐっぅぅぅぅ・・・・」
ゼノアがルガルの圧力に苦悶の表情を浮かべる!
(や、やっぱり・・・強い・・でも・・・最後まで・・・諦めないぞ!)
ルガルが足を踏ん張り全体重を右腕に乗せると更に均衡が崩れる!
「ぐぐぐぐぐ・・・早く・・諦めちまえぇぇ・・・」
「おっ・・ルガルが押してるぞ・・・」
「やっぱり子供とは体力が違うからな・・」
「だけどよぉ!ゼノアも頑張ったぜ!」
「あぁ・・・ゼノアちゃん・・頑張って・・」
シーラが胸の前で手を組み祈るように応援する。しかし観客達はルガルの勝利を感じ始めていた。
「うぐぐっ・・・支えてられない・・ここまでか・・・」
ゼノアは椅子の脚に足を絡めて下半身を固定するが全力が出せずにジワジワと押されて行く!
勝負の行方を見ていたゴルドが肩の力を抜いた。悔しいがルガルの勝利を確信してしまったのだ。
「ちっ・・あの若造・・なり振り構わず踏ん張りやがった・・流石にここまでか・・だけどよ。頑張ったな・・・ゼノア。お前は・・凄ぇ・・・・・んっ?!」
ゴルドがゼノアの敗北を感じたその時。ゴルドの言葉が詰まった。目の前のゼノアが淡く光っているように見えたのだ。
ゼノアも自分の身体がいつものように光り出して”あっ!”と気付いた・・
(こ、これは・・・そ、そうか!5日前・・・種の生成は・・昼ごはんを食べて・・・帰ってからだった!確か・・力2、魔力1・・・)
ゼノアは5日前ゴルドに始めて会った日、朝忙しく種を生成する暇がなかったので仕事が終わり自分の部屋に帰ってから種を生成したのを忘れていのだ。
(よし!これで力が上がったぞ!これでどうだぁぁ!!)
ゼノアは力が湧き上がる感覚を覚えて奥歯を噛み締めるとルガルの力に争う!!
「僕だってぇぇぇ!!負けないぃぃぃ!!うぐぁぁぁぁぁぁ!!」
ゼノアは負けたくない一心で必死に力を込めると椅子の脚が悲鳴を上げるように軋しむ!するとルガルが勝利を確信して半分以上倒した腕をピタリと止めた。
「や、やりやがった・・・」
ゴルドは目の前の光景に湧き上がる歓喜で肩を震わすのであった・・・
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