第78話 悪足掻き
「ふっ・・早速の呼び出しだな。」
「仕方ないわよ。あんなマジックポーションを王都のど真ん中で使ったのよ?陛下も度肝を抜かれたに決まっているわ。」
ガベルとユフィリアは王都からの呼び出しに応じて馬車に揺られている。ゴルドも来たがっていたが仕事が忙しく苦虫を噛み潰したような顔で二人が乗る馬車を見送った。ガベルはそんなゴルドの顔を思い浮かべ口元を緩める。するとガベルの対面に座り話を聞いていた情報収集担当クロード・ミラゼールがガベルに身を乗り出し詰め寄る。
「ちょ、ちょっと待ってください!い、今の話・・・マジックポーションとは何ですか?!ま、まさか・・”王都の奇跡”と関係があるのですか?!」
クロードはマルス宰相からゲイブルの街の領主ガベル・ゼルバンを呼んで来てくれと言われただけで詳しい内容は聞かされてなかった。
「あっ・・・言っちゃダメだった?」
「はぁ・・・ユフィリア。迂闊な事を言ってはいけないと言っただろう?ふぅ・・・クロード殿・・今のは聞かなかった事にしてくれ。」
「・・・えっ・・あっ・・・こ、これは・・し、失礼致しました・・・」
クロードは機密事項なのだと気付き目を泳がせながらゆっくりと座り直す。クロードは手を組み一点を見つめる。
(・・・こ、この反応・・薄々は感じていたが・・・間違いない・・・それに・・マジックポーションとは・・・一体何だ・・・)
道中何事もなくセルバイヤ王都が見え始めた頃、突然ユフィリアが弾けるように立ち上がり馬車の窓から顔を出しす。ガベルもユフィリアの行動の原因を感じていた。
「な、何?!この身体の底から寒気が来る波動は・・・えっ・・あ・・・あれは・・・・ま、まずいわよ・・・」
ユフィリアは顔を引き攣らせながら馬車の窓から後ずさる。
「ユフィリア!どうした?!」
「ガベル・・・急がないと・・・」
いつもの余裕のあるユフィリアからは想像もつかない程の緊張感にガベルも焦り馬車の窓から顔を出す。
「・・・な、何だあれは・・・」
ガベルは唖然する。遥か遠くの景色が切り取られそこだけ陽炎のように歪んでいた。その歪みは雲を押し除け空に不自然な穴が空いていた・・・
ユフィリアとガベルが顔を見合わせる・・・感じた事のある魔力と闘気・・二人が同時に思い浮かべた人物・・・
「ゼノア君・・・」
ユフィリアの止まった思考が動き出す。
「こ、この方向は南の平原・・・まずいわ!!方向転換よ!!南の平原へ向かいなさい!!」
ユフィリアはクロードに詰め寄りいつも緩く構えているユフィリアの表情は厳く眉間に皺が寄る・・・
「えっ・・な、何を・・あ、あの・・・陛下との謁見は・・・」
「クロード殿!!ユフィリアの言う通り南の平原へ行ってくれ!!この状況は一刻を争う!!」
「い、いや・・・ど、どう言う事でしょうか・・・んはっ?!」
ガベルにも詰め寄られ言葉を続けようとしたその時・・・肌寒く暑くもないのにクロードの頬に冷たい汗が幾重にも伝う・・・
「な、なんだ・・・こ、この纏わりつくような感覚は・・・ガ、ガベル殿!こ、これは・・・一体何が起こっているのですか?!」
「詳しい事は移動しながら話す!!急いでくれ!!でないと・・南の平原が・・・南の森が・・・地図から消える事にかるかも知れん・・・」
「へっ・・・そ、そんな・・・」
「もう!!!つべこべ言わずに早くしなさい!!」
「・・・あ・・は、はい・・・」
クロードはSランク冒険者ガベルとユフィリアに詰め寄られる。それ程緊迫した状況なのが伝わってくる。そしてクロードはこれから何が起こるのか想像もつかないまま震えながら頭を縦に振る。そしてガベル達が乗った馬車はすぐさま方向転換し全速力で南の平原に走り出すのであった。
「キベリアード伯爵。もう諦めた方がいい。貴方は選択を誤った・・・これ以上は全てを失う事になります。」
リズナーはゼノアの背後に立ち結界の中からキベリアード伯爵の目を見据える。
「リズナーさん・・・」
ゼノアは我に返り振り返ると放っていた魔闘気が弱まる。脂汗を垂らしながらゼノアの殺気に耐えていたキベリアード伯爵は敵意を向けながら口元を歪ませた。
「私は・・・この国に・・・この世界に必要な人間なのだ!!ふん!諦めろ?!諦めるのは貴様等だ!!私は乗り越えて見せる!!・・・くくっ・・あれを見てみろ!」
「むっ?!」
リズナーがキベリアード伯爵の目線を追うと待機させていた私兵二人が森の入口に立ち尽くしているナルメーラと子供達に迫っていた。
「あっ!!皆んなが!!」
「キベリアード伯爵!悪足掻きは止めるんだ!!もうこれ以上・・・」
「もう遅い!!後の事は貴様らを始末してから考える事にする!!手始めにあいつらを・・・・」
「ぐろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
その時、突然キベリアード伯爵の言葉を遮るようにブラッドガルムの遠吠えが響いた。
(えっ?!ブラッドガルム・・・どうして・・・)
「な、何だ?!」
その場にいる者は動きを止めて警戒しながら辺りを見渡していると森の中からブラッドウルフが次々と飛び出して来る!
「ぐろぉぉ・・・」
「ぐるぅぅ・・・」
そしてブラッドウルフ達は示し合わせたかのように二手に別れ一方はナルメーラと子供達を護るように陣取り、一方はゼノア達を囲む私兵達を取り囲みキベリアード伯爵の私兵を威嚇し始めた。
(えっ?どうしてブラッドウルフ達が・・・)
(むっ・・ブラッドガルムが我々を護っている?!・・・ま、まさか・・ブラッドガルムがゼノア君を・・・)
「な、何故だ!!何故だ!!何故!魔獣が人間を助ける?!・・・き、貴様・・ま、まさか・・ブラッドガルムは貴様の従魔か?!」
キベリアード伯爵は動揺を隠せず立ち尽くす。
「えっ?!ブラッドガルムが・・・従魔?」
ゼノアは振り返りブラッドガルムを見上る。ブラッドガルムは鋭い眼光で牙を剥きキベリアード伯爵を見下ろしていた。まるで主に仇なす輩を威嚇するように。
「・・・従・・魔・・・あっ・・確か・・・」
ゼノアはステータスを見ながらスキル欄に目前に広げる。
「これだ!!」
〈従魔契約 1〉
スキルポイント1200
・魔物を意思疎通が可能となり従える事ができる。従魔となった魔物は主となった者の力により能力が変化する。
ゼノアが〈従魔契約 1〉をなぞるとアルフェリアの声が頭の中に響く。
〈従魔契約 1〉を取得しました。
(もしかして、このブラッドガルムは・・・)
ゼノアがスキルを発動する。ブラッドガルムに手を伸ばすと掌が淡く輝き出す。ブラッドガルムは威嚇を止めて吸い寄せられるようにゼノアの掌に自分の額を添えた。するとブラッドガルムの全身の毛が大きく揺れ湯気のようにゆらゆらと立ち登る。
「ぐるぅぅぅ・・・るぅぅぅ・・・るおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」
ブラッドガルムはまるで歓喜するように空に向かい遠吠えを放った。そして全身にゼノアの魔力を受け入れると黒い毛並みは尾の先まで美しく靡くように伸び、身体はさらに大きくなり存在感が増していった。
そんな光景をその場に居る者達が訳も分からず敵味方関係なく見つめていた。伯爵の私兵達は腰を抜かし見惚れる者、畏怖する者、許しを乞い手を合わせる者までいた。そしてナリア達は進化したブラッドガルムを見上げ唖然とするばかりであった。
「な、なぁ・・・い、一体何が起こってるんだよ・・・」
ミレードが尻餅を付いたままブラッドガルムを見上げている。
「わ、分からないわよ・・・た、ただ・・・あのブラッドガルムが敵じゃない事だけは確かよ・・・」
「・・・と、父様に聞いた事がある・・・レアなスキルには魔物と心を通わせるスキルがあるって・・・」
「・・・はぁ?じゃ、じゃあ、あいつはどれだけのスキルを持ってるんだよ?!そんな人間がいる訳ないだろ?!」
「ぼ、僕だってそう思っている!こ、こんな馬鹿げた数のスキルを持っている奴なんて居るはずないんだ!」
「・・・居るじゃない・・・目の前に・・」
ナリアが二人の言葉を遮る。
「はっ?」
「えっ?」
「・・・はぁ・・・もう私・・驚き疲れたわ・・・貴方達も認めなさいよ・・ゼノア君は私達の常識じゃあ測れないのよ・・・」
(・・・もうこの事態を収めないと・・)
ナリアは立ち上がりミレードとエルスの間をすり抜けてリズナーの隣へ並び立つ。
「えっ・・あ・・おい・・」
「キベリアード伯爵。もう止めてください。貴方は確実に間違った方向へと向かっています。剣を収めて罪を償ってください。」
「だ、黙れ!!小娘の分際で私に説教など・・・」
キベリアード伯爵がナリアに向かって剣先を向ける。しかしそれを遮るようにリズナーが前に出る。
「キベリアード伯爵!剣を収めるんだ!!この方を誰だと思っているんだ!!この方はセルバイヤ王国第三王女ナリア・セルバイヤ王女殿下に在らせられるぞ!」
「「「「「えっ?!」」」」」
リズナーの言葉にその場に居る全員の声が綺麗に揃い皆の視線がナリアに集まるのであった・・・
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