第75話 VSブラッドガルム 4
「枢機卿様!!」
メルローラは自分のスカーフを外すとリズナーの肩に巻き付け止血を試みる。
「んんっ・・・出血が酷いわ!血が止まらない!早く治療しないと!!このままでは危険だわ!!」
「リズナーさん!!」
メルローラの焦る声がゼノアの耳に響き思わず振り返ると隙ありとばかりにブラッドガルムが襲い掛かる!!
「ゼノア君!!危ない!!」
「んはっ?!」
ナリアの声に前を見ればブラッドガルムが飛び掛かり鋭い爪を振り下ろす瞬間であった。
(避け・・・くっ・・だ、駄目だ!!避けたら・・・」
ゼノアは背後のナリア達を護るように腰を落として衝撃に備える。
ずがぁぁん!!
みしぃぃ・・・
「うぐっ!!!」
(さ、さっきより・・お、重い・・・で、でも耐えたぞ・・・んあっ?!)
ブラッドガルムの本気の一撃をまともに受けて耐えたゼノアだったが既に横目にニ撃目が横凪に迫って居るのに気付いた!
「れ、連撃?!くっ・・・」
ゼノアが咄嗟に防御をするが間に合わずブラッドガルムの横薙ぎを諸に喰らった!!
どきゃぁぁぁぁ!!
「ぐはっ!!!」
すざざぁぁぁ!!
「ゼノア君!!!」
ゼノアは意表を突かれ防御が間に合わずブラッドガルムの前脚に脇腹を薙ぎ払われ飛ばされた。
「ぐふっ・・・げほっ・・・痛っっ・・・まさか連撃なんて・・・くそっ!早くしないと・・・」
ゼノアが鈍い痛みが残る脇腹を抑えながらよろよろと立ち上がる。するとブラッドガルムはゼノアではなく牙を剥きナリア達を見据えていた。
「あ・・うぅ・・・」
ナリア達は声も出せずに身を寄せ合い震えている。メルローラは恐怖の余り気を失っていた。
ゼノアはブラッドガルムの次の行動に背筋に冷たいものを感じる・・・
「ま、まさか!?や、止めろぉぉぉぉ!!・・お、お前の相手は僕だろぉぉぉぉぉぉ!!」
咄嗟にゼノアが駆け出すがブラッドガルムが大地を蹴るのが一歩速い!ゼノアは焦りなりふり構わず魔法を放った!
「ダークバインドォォォォォ!!」
ゼノアの足元から高速で無数の黒い筋がブラッドガルムに向かって行く!しかし一瞬歩早くブラッドガルムの鋭い爪がナリア達を襲う!
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
ナリアの悲鳴が響き渡り皆の脳裏に絶望の瞬間が過ぎる!もう駄目だと恐怖のあまり目を閉じて顔を伏せ死を覚悟した・・・
「・・・えっ・・・あれ・・?」
「・・・ど、どう・・した・・」
「・・・な、なんともない・・?」
しかしその絶望の瞬間はいつになっても訪れなかった。ナリア達は不思議に思い恐る恐る目を開けると目の前には鋭い爪が間近に迫りブラッドガルムが動きを止めていた。
「ぶ、ぶはぁぁぁぁぁ!!!!あ、危ねぇぇぇ!!!!」
「はっ、はっ、はっ・・・た、助かった・・・の?」
「・・ふっ、ふはっ・・ふはっ・・・な、何が起こったんだ・・・」
ナリア達が腰を抜かしながら見ればブラッドガルムの身体には真っ黒な筋が幾重にも巻き付きブラッドガルムの動きを完全に押さえ込んでいた。
「がぐるぅぅぅぅぅ・・・」
しかしブラッドガルムを捕らえたゼノア自身が一番驚いていたのだ。あのタイミングでは確実に間に合わずに絶望の瞬間を想像していたのだ。
(あ、あれで・・ま、間に合った・・?!確実に僕の方が遅かったのに・・・もう駄目かと思ったのに・・・)
「・・・ん?あれは・・・」
ゼノアはブラッドガルムの顔に違和感を感じた。近付くと黒い短刀のような物がブラッドガルムの目に刺さっているのに気付いた。
(・・・あ、あれは・・・そうか・・あれが僕の魔法が間に合った原因か・・・一体誰が・・そういえば森の中でブラッドウルフに囲まれた時も・・・)
「あっ!そんな事よりも!!リズナーさん!!」
ゼノアは慌ててリズナーに駆け寄ると右腕を拾い切断面に近付ける。
(出血が多い・・・間に合って!!)
「ハイヒール!」
蒼白く眩い光がリズナーの傷口を温かく包み込む!そして吸い付くように切断面が消えて行った。真っ青だったリズナーの顔色が段々と赤みを帯びて行くと瞼が震える。
「うっ・・・むっ・・・」
「リズナーさん!大丈夫ですか?」
ゼノアが意識を取り戻したリズナーに声を掛けるとゆっくりと上半身を起こし記憶を辿るように額に右手を当てる。
「う、うむ・・・た、確か私は右腕を・・・んんっ?!こ、これは!!わ、私の右腕が・・・ある?!」
リズナーは何気なく額に当てた自分の右手を見てギョッとした。斬り飛ばされた筈の自分の右手が何事も無かったように付いているのだ。リズナーは色々な角度から何度も右腕を眺め動きを確かめていた。そして服の右袖の部分が肩から無くなっているのを目を細めて凝視する。
(た、確かに私の右腕は切断されたのだ・・・だがしかし・・・この通り違和感なく治っている・・・い、いや?!それだけじゃない・・・悩みの種だった肩凝りすら治っている・・)
リズナーは肩と首を回す。そして目を丸くして心配そうな顔で覗き込むゼノア顔を驚愕の眼差しで見ていた。
「あ、あぁ・・・だ、大丈夫だ。なんなら前より良くなったぐらいだ。聞くまでもないが・・・君が助けてくれたのか?」
「は、はい。間に合って・・良かったです。」
ゼノアはリズナーの前で聖魔法を使ってしまったのを仕方なく思うと同時に知られてしまった事に複雑な思いであった。
(・・・リズナーさんが助かったのは良いけど・・・これから面倒な事があるんだろうな・・・)
そんなゼノアの表情を読み取りリズナーの表情が緩む。
「・・・ふっ・・心配はいらない。ゼノア君には大きな借りが出来てしまったからな。」
「い、いえ!リズナーさんが護ってくれたから皆が無事なんです!これで貸し借りは無しです・・・」
「・・・そうか。んっ?!そ、それよりブラッドガルムは?!」
リズナーが警戒するように辺りをみわたすとブラッドガルムが攻撃を繰り出した状態で身動きが取れずに苦しそうに涎を垂らす姿があった。
「ごるぅぅぅぅ・・・ぐるぅぅぅ・・・」
「あ・・・ま、まさか・・・こ、これも君が?」
「・・・えっ・・あ・・・はい。」
ゼノアがバツの悪そうな顔で頷く。リズナーはゼノアの表情を見下ろしながら顎に手を添える。
(こ、この魔法は・・・暗黒魔法か・・まさか・・ゼノア君は・・・いや違う・・・何かゼノア君のスキルに関係している筈だ・・・それにしても・・・暗黒魔法と聖魔法・・極限に相反する魔法の同時行使か・・・ゼノア君はもう魔法に関してはなんでも有りだな・・・ふふっ・・・面白い・・・)
リズナーは一瞬ゼノアが魔族である可能性が脳裏に過ぎったが瞬時に否定した。そもそもゼノアはゲイブルの街で魔族を打ち倒しているのだ。ゼノアが人間の敵では無いと確信していた。その上でリズナーは只々ゼノアの力に興味を深めるのであった。
不適に笑うリズナーの表情を見てゼノアが頭を抱える。
(・・・咄嗟に暗黒魔法を使っちゃった・・・ゴルじいは信頼出来る仲間以外には見せるなって言ってたけど・・でも仕方ないよね・・・だけどリズナーさんは気付いてるよね・・・どうしよう・・・)
ゼノアにとって気まずい状況の中リズナーが呟くように話しかける。
「・・ゼノア君・・先程から思っていたのだが・・ブラッドガルムの敵意が無いように見えるのは気のせいか?」
「えっ?」
ゼノアが忘れていたとばかりに振り返ると先程のブラッドガルムから感じられた凶暴性は消えゼノアに向けるその目はまるで死を恐れ怯える獣であった。
「は、はい・・・僕もそう感じます・・・」
ゼノアが魔法を解除するとブラッドガルムは糸が切れた人形のようにその場に横たわる。
ずずぅぅん・・・
「ぐるぅぅぅ・・・」
横たわるブラッドガルムに近付くと足に何かが当たる感触があった。
こつっ・・
「ん?これは・・・」
ゼノアはブラッドガルムの顔の近く落ちている青い箱を手に取った。
「むっ!それは魔物玉を封印する箱だ。ブラッドガルムの様子からして誰かが魔物玉を封印したのだろう・・・しかし一体誰が・・・」
(うん・・誰かが僕達を助けてくれたのは確かだ・・・ん?)
ふと目線の高さにあるブラッドガルムの目に刺さっている黒塗りの短剣が目に止まる。
(・・この短剣・・・何処かで・・・見たような・・・っと、その前にこのままだと可哀そうだね・・・)
「少し痛いかも知れないけど我慢してね・・・」
ゼノアはブラッドガルムの目に刺さっている短剣に手を掛けて一気に引き抜いた。
すばぁぁっ!!
「ぎゃうっ!!」
ブラッドガルムは地面に伏せ激痛に耐える。
(・・完全に目が潰れているね・・・欠損部位はハイヒールじゃ治らない・・・仕方ない・・・ここはバレないように・・)
「ハイヒール!(エクストラヒール!)」
ゼノアはこれ以上目立つ事を危惧して最小限の魔力で〈エクストラヒール〉をブラッドガルムに放った・・・しかし、ブラッドガルムの周りに大きな魔法陣が描かれる。そして身体に刻まれた全ての傷が癒やされ潰れていた眼球もあっという間に治癒された。ブラッドガルムは目をぱちくりさせるとゼノアの足元に顎を付けて許しを乞うように上目遣いでゼノアを見ていた。
「大丈夫だよ。もう痛くない?」
ゼノアがブラッドガルムの頭を撫でると大きな尻尾をブンブン振りながら嬉しさをぶつけるようにゼノアを押し倒し舐め回す。
「あうっ・・・こらっ・・」
「・・ふっ・・・ふふっ・・ふふふっ・・ふはぁーーーはっはっはっはっはっはぁーーー!!!!」
突然リズナーが空を仰いで笑い出した。皆が驚いてリズナーに注目する。
「な、なに?!何事ですか?!」
気絶していたメルローラもリズナーの笑い声で飛び起きて辺りを見回す。そしてゼノアを押し倒しているブラッドガルムと再び目が合う・・・
「ぐるぅぅ・・・」
「ひぃぃぃぃぃぃ・・・ゼ、ゼノア君が・・た、食べられて・・・・あふ・・」
どさっ・・・
再びメルローラが意識を手放した・・・
(あ、あ、あれがハイヒールだって?ふっ・・ふふ・・面白い冗談だ。あの魔法陣は特級聖魔法エクストラヒール・・・聖魔力を持つ者が少なくとも十人は必要だ。その上成功率が極端に低い・・・くくっ・・そ、それを当たり前のように一人で成功とは・・・もう笑うしかあるまい・・・)
リズナーは肩を竦め諦め顔でゼノアを見る。そして周りの視線が自分に向いているのに気付き肩の力を抜く。
「ふっ・・さあ、危機は去った。帰って報告だ。」
「えっ?!あっ!お、おい!ちょ、ちょっと待てよ!!」
今まで呆気に取られていたミレードが我に返り声を上げる。
「ん?どうした?」
リズナーが首を傾げる。
「えっ・・・あっ・・・その・・・ツ、ツ、ツッコミ所が多過ぎて纏まらねぇぇぇぇぇ!!!!」
ミレードが頭を掻きむしりながら空に向かって叫ぶ・・・
「そ、そうね・・・も、もう驚き過ぎて疲れたわ・・・」
「あぁ・・・同感だ・・・あいつは一体何者なんだ・・それにブラッドガルムを捕らえたあの魔法は・・・まあ、取り敢えず助かったんだ・・・良しとするか。」
「えぇ。そうね・・・」
その後ろでナリアとエルスは諦め顔で顔を見合わせると全身の力が抜け項垂れるのであった。
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