第7話 ルガルvsゼノア 1
ゴルドはゼノアを見下ろしてニヤリと笑うといきり立つルガルを見据える。
「いいだろう。・・・だがな・・俺が相手だと勝負が分かりきって皆が面白くねぇんだ!だからお前の相手はこのゼノアだ!!」
「あぁっ?!」
ゴルドはお腹をさすりながら油断して寛いでいるゼノアの頭に勢いよく手を置く。
「あうっ!!ゴルドさん!何ですか?」
「おう!ゼノア!今からこの若造をちょっと揉んでやれ!」
「えっ?!肩をですか?」
「そ、そうじゃない!!・・・腕相撲だ!!あの若造にお前の力を見せてやれ!!」
「えーーー!!無理ですよーーー!勝てないですよ!!」
ゼノアがプルプルと首を振って拒否する。しかし一度言い出したら引かないゴルドがゼノアの目線までしゃがむ。
「お、おい!おっさん!!何を言って・・・」
「てめぇは黙ってろ!!」
「ぐっ・・・」
ルガルの物言いを一喝してゼノアの両肩に手を置いて顔を覗き込む。
「いいかゼノア。これは仕事だ・・・雇い主の俺の面子を守る仕事なんだ。もちろん給料の他に俺の懐からお前に手当を出すぞ!更に勝てば特別手当を出そうじゃないか!お前は勝っても負けても損は無いぞ?いいだろう?」
ゼノアは捲し立てるゴルドに圧倒され眉を顰める。
・・・ゴルドさんは何を考えているんだよ・・こいつらはC ランクの冒険者なんだぞ・・でも・・手当も出るし勝っても負けてもいいなら・・いいか。
「うん・・お仕事なら・・いいよ。」
「よぉし!契約成立だ!!」
ゼノアが仕方なく了解するとゴルドが気分を良くして立ち上がる!
「おい!!若造!!聞いた通りだ!!このゼノアに腕相撲で勝てたら俺が相手をしてやる!!更にこの金貨一枚を賭けてやる!その代わりお前が負けたらここの全員の飯代を払え!!まさか逃げないよなぁ?」
ゴルドはルガルのプライドを擽ぐるように悪い顔でニヤリと笑う。
「お、親方!!いいんですかい?!それ・・今日の売り上げの1/10ですぜ?!」
「いくらゼノアの力が強いからって相手はCランク冒険者ですぜ?!いくら何でも・・」
「全責任は俺が取る!お前達は黙って見ていろ!」
「は・・はい。」
ゴルドは心配する部下達に啖呵を切る。実はゴルドは見たくなったのだ。ゼノアに会ったあの日に感じた違和感を。ゴルドは日々の仕事の中でゼノアの成長速度が早過ぎると感じていたのだ。それはゼノアの尻に蹴りを入れる時や頭を撫でる時に最初は手加減をしていたが3日目から手加減をしてなかったのだ。それなのに平気な顔でバランスを崩す事なく魚籠を運んでいたのだ。
(いい機会だ・・ゼノア・・お前の力を見せてみろ・・・)
するとルガルはいやらしい表情で舌舐めずりをするとゴルドの目の前に一歩出て胸を張る。
「クククッ・・やってやろうじゃねぇか!!おっさん!もう取り消しは無しだぜぇ!!このガキに勝てばいいんだな?楽勝だぜぇぇ」
ルガルは足速に空いているテーブルに着くと肘を付いて手招きをする。
「ふん!早くしろ!秒殺してやる!!」
(これは完全に舐められてるね・・仕方ないか・・僕は3歳だからね・・でも・・なんか・・・胸が騒ぐね・・・)
ゼノアはルガルの表情に何とも言えない感情に抱く。そして座っていた子供用の椅子を片手で持ってルガルの対面に置いて座った。
すると客の1人が手を挙げて叫ぶ!!
「その勝負!ちょっと待ったぁぁぁぁ!!こんな面白い勝負をタダでやるのは罪ってもんだろう!!お前らぁぁぁ!!一口小銀貨一枚だぁぁ!!どっちが勝つか勝負だぁぁ!!!」
昼時の食堂に居た男女合わせて50人近い客が一気に立ち上がった!!
「うぉぉぉ!!!乗ったぁぁ!!ゼノアに10口だぁぁ!!」
「さすがに無理だろう!!Cランクに5口だぁぁ!!」
「俺はゴルドさんを信じるぜ!!ゼノアに20だぁぁ!!」
すると食堂の女将ジーンが目を輝かせると店の奥に消え片手に膨らんだ布の袋を持って出て来るとゴルドの目の前に勢いよく置く!
ガシャァ!!
「ゼノアちゃんに100口!!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!ジーン!!男らしいぞ!!」
「よっしゃぁぁぁ!!盛り上がった来たぁぁぁ!!」
突然客の1人が店の外へ飛び出すと食堂の前で声を上げる!!
「さあ!!お立ち合い!!今ここで男と男の腕相撲が始まるぞぉぉぉ!!選手は王都ゼルガリアのCランク冒険者ルガル!!かたやゴルド水産の新人ゼノアだぁぁ!!お互いの意地と面子と飯代を賭けた大勝負だぁぁ!!一口銀貨一枚で受け付けるぞぉぉぉぉぉ!!」
すると娯楽を求めて道行く老若男女が振り向き食堂に集まって来る!!
「おっ!面白そうだな!!ちょうど暇してたんだ!!」
「どれ!!んん?!ゼノアってのはあの子供か?!おいおい勝負になるのかよ!!」
「そう思うだろ?ところがどっこいあの子はゴルドさんのお墨付きの力自慢だ!!どうなるか分からないぜぇ?!」
男の口上に食堂の前はいつの間にか人だかりができてざわついていた。
「あら?『港食堂』の前にあんなに人が?・・・何があったのかしら?」
ゼノアを迎えに来たシーラが首を傾げながら人集りに近付き窓から中を覗く。すると若い男と対峙するゼノアの姿を見つけた。
(えっ?!ゼノアちゃん?!これってどういう状況なの?!)
「おっ!!お姉ちゃんはどっちに賭けるんだい?」
「ほえっ?!」
シーラは突然話しかけられて呆けた返事を返す。
「ほら!だからルガルかゼノアどっちに賭けるんだよ?」
「ほえっ?ゼ、ゼノア?」
「よし!!ゼノアだな!何口だ?」
「ほえっ?あ・・あの・・これは・・」
シーラが窓に指を差す。
「よし!!一口だな!小銀貨一枚だ!!これが引き換え券だ!!」
「ほぇ?!・・あ・・は、はい・・」
シーラはゼノアの名を聞いて訳も分からず男に銀貨一枚を渡すとゼノアの名前と口数と男のサインが書かれた紙を渡された。
「あ・・私のお小遣いが・・・そ、それより一体何が起こっているの・・・」
シーラは取り敢えず引き換え券を握りしめて人集りを掻き分け食堂に入るとゴルドと目が合う。サリアはそのまま目線をゴルドから目線を外さずにツカツカと歩み寄った。
「ゴルドさん!!これは何事ですか?!ゼノアちゃんに何をさせてるんですか?!」
ゴルドは向かってくるシーラにバツの悪い顔で頭を掻く・・・
「お、おう・・・シーラちゃん・・こ、これには・・深い訳が・・・」
更にシーラがゴルドに詰め寄る!
「どんな訳があろうとゼノアちゃんをこんな見せ物にするなんて!どうかしてます!!」
するとゴルドは詰め寄るシーラの手元を見て目を細める。
「ふっ・・シーラちゃんも人が悪いな・・・なんだかんだ言ってゼノアに賭けたんじゃないか!」
「えっ?」
シーラはゴルドの目線の先にある握りしめている紙に目を落とす。
「えっ?!あっ!!!こ、これは・・・」
シーラはやっとこの紙の意味を知って慌てているとゴルドはニヤリと笑いシーラの肩に手を置くとゼノアの方に向ける。
「おい!ゼノア!!シーラちゃんもお前に賭けているぞ!!気合い入れろよ!!」
「えっ?!えっ?!そ、そんな・・・」
ゼノアはシーラの名前を聞いて振り向くとシーラを見付けて屈託の無い笑顔で手を振る。
「あっ!!シーラさん!!これは仕事なんだって!!僕頑張るよー!!!」
「え、えぇ!頑張ってね!」
シーラはゼノアの笑顔に応えるように強張る笑顔で手を振り返した。そしてシーラは振り返りゴルドを睨む。
(ゴルドさん!!仕事ってどういう事ですか?ゼノアちゃんをどうしたいんですか?)
(まあまあ・・後で詳しい事は話すから・・ここは黙って見てくれ!なっ!)
(もう・・・ゼノアちゃんに何かあったら許しませんからね?!)
シーラが頬を膨らませてゴルドを上目遣いで見上げるのであった・・・
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