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第62話 あの手この手

実力測定が終わり〈勝利の大剣〉の面々の三人が学院の食堂で少し遅いお昼ご飯取っていた。しかし三人の表情は暗く落ち込んでおり食事も喉を通らない様子であった。


「・・・はぁ・・・お前のせいで依頼失敗じゃねーか!!何でこんな事ぐらい出来ねぇーんだよ?!どうすんだよ!?」


「・・・う、五月蝿いわねぇ!!!仕方ないでしょぉぉ!!元はと言えばあんたのせいでしょぉがっ!!それに私は!この世で生意気なガキが一番嫌いなのよ!!ふん!!」


アルグとカミラのいつもと変わらない不毛な言い合いをしていた。しかしリルーナはそんな言い合いを気にも止めずに手に持ったフォークに刺さった肉を食べるのも忘れて考え事をしていた。


「おい!リルーナ!お前からも何か言ってやれよ!!・・・おい・・リルーナ!!」


「あえっ!?あぁ・・・うん。」


「・・・まぁ・・妹が心配なのは分かるけど、あんたがしっかりしないと駄目よ!!それとも何か他に気になる事でもあるの?」


リルーナの様子がおかしい事に気付いた二人が顔を覗き込む。


「・・・う、うん。あのさ・・今日居た子供達の中に規格外な子がいたわよね?」


リルーナの言葉に二人の脳裏に同じ顔が浮かび同時に寒気を覚える。


「あ、あぁ・・・い、居たな・・・」

「え、えぇ・・・い、居たわ・・・」


アルグとカミラが一瞬顔を見合わせてすぐに顔を背ける。


「ねぇ。その子がカミラを治療した魔法って何だと思う?」


「えっ・・あぁ・・それは・・・多分・・聖魔法じゃ・・・」


カミラはリルーナの言いたい事に心当たりがあるような気がして言葉を止めた・・・


「あぁぁっ!!そうか!!ギルドの依頼書!!聖教会からの破格の依頼書ね!?」


「うん・・・まぁ、それはそうなんだけど・・・」


「お、おい何だよ?!何の事だよ?!」


アルグは訳がわからないとカミラとリルーナを交互に見る。


「あんたはちょっと黙ってなさい!!」


「うぐ・・・」


カミラとリルーナは冒険者ギルドの壁に貼ってある聖教会からの依頼書を思い浮かべていた。


        依頼書


 聖教会では〈聖魔法使い〉を募集しております。男女問わず年齢も問いません。破格の待遇をお約束いたします。


 〈聖魔法使い〉の情報や紹介にも依頼内容に含みます。尚、情報提供の場合は内容を確認してから依頼達成の是非を判断致します。


情報料 金貨一枚

紹介料 金貨五枚


依頼者 聖教会教皇メリオル・シュルメール



「・・・だけど・・あいつさ、信じられないけどあの歳で詠唱してなかったよね・・・確か聖魔法は詠唱が必要だって言ってなかった?」


「・・・うん。そうなのよ。私も聖魔法だと思ったんだけど・・・だけど情報が正しくなければ報酬は無いわ。それよりも〈聖魔法〉を使えるなら・・・」


リルーナは言葉を止めて唇を真一文字に噛み締める。


「・・・そうね。あんたの妹を助ける事が出来るかもしれないわね・・・」


カミラは同情の目をリルーナに向けた。



〈勝利の大剣〉の三人は一ヶ月前までCランクで数年間燻っていた。しかしある日いつものように行き慣れたダンジョンに潜ると一階層の最深部でアルグのドジにより偶然にも隠し通路を見つける。先に進むとそこには長い間使われていないであろう部屋があった。そこでリルーナは小さな箱を見つける。その箱を開けると銀色に光る少し幅が広い指輪が入っていた。リルーナは誘惑に負けて思わず指輪を懐に入れてしまう。その後、冒険者ギルドが隠し部屋を調査すると部屋の奥に扉があり固く閉ざされていた。そして更なる調査が始まったのだった。〈勝利の大剣〉はその功績によりBランクへと昇格を果たした。しかしリルーナが持ち帰った指輪を誤って妹のメリーラが指にはめてしまう。メリーラの身体はドス黒い靄に包まれ生ける屍のように生気を失い寝たきりの日々を送る事になったのだった。



「・・・でもよ・・俺達、あのガキからすれば印象最悪だぜ?!」


黙って話を聞いていたアルグが肩をすくめる。


「えぇ・・・そうかもね。素直に話を聞いてくれるとは思えないわね。」


「・・・でも・・聖教会に行っても金貨200枚は掛かるわ・・・そんな大金・・・貯めるのに一体何年掛かるか・・・今はあの子に賭けるしかない・・・今、私が持ってる全財産叩いてもいい!背に腹は変えられない!私、行ってくる!」


リルーナは立ち上がり食堂の扉に小走りで駆け出した。




(はぁ・・・皆んな帰っちゃったし・・お昼ご飯も食べれずに連れて行かれたからお腹空いたよ・・・えっと食堂は・・・ここを曲がって・・・あった!)


ゼノアはラミリアの言う通り角を曲がり『食堂』の文字を見つけると無意識に足取りが軽くなる。


「ごっはんー!ごっはんーー!・・・よっと!」


ゼノアは軽く跳ねて食堂の入口に着地する。そして引き戸に手を掛けようとすると何故か勝手に勢いよく引き戸が開かれた。


ガラガラガラッッッ!!バァァン!!


「はうっ?!な、なに?!」


「きゃっ!!」


引き戸のレールを挟み二人が驚き目が合い記憶を辿る・・・そして暫しの沈黙・・・


「あっ・・・実力測定の時の・・・」


「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!居たぁぁぁ!!!」


驚きと嬉しさの入り混じったリルーナの叫びがゼノアの声を掻き消す。


(えぇっ!?何?!・・・こ、これは・・面倒臭いやつだ・・・ここは・・・退散・・・)


「や、やっぱりお腹空いてないかな・・・」


ゼノアは咄嗟に昼ご飯を諦め方向転換をするとスキル〈加速〉を使う。しかしその刹那リルーナが逃すまいとゼノアの身体に両腕を絡ませた。


ばびゅん!!!


「う、うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ま、ま、まっ、待ってぇぇぇぇぇぇ!!!止まってぇぇぇぇぇ!!!」


リルーナはゼノアを両手で掴んだまま風にはためくマフラーのように風を切る。


(な、何?!さっ、さっきも同じ事があったような気が・・・はぁ・・もう・・・)


ゼノアがピタリと止まるとその反動でリルーナはゼノアを飛び越えて飛んでいく・・・


(あ・・・飛んでった・・・)


「きゃぁぁぁぁ・・・・」


どばぁぁぁん!


「うぎゃっ!!」


リルーナは勢いそのままで突き当たりの壁に叩きつけられ廊下に転がった・・・


「・・・大丈夫?」


仰向けに倒れているリルーナの顔を覗き込むと頭を摩りながらリルーナが上半身を起こす。


「い、痛たたたた・・・きゅ、急に止まらないでよね・・・」


「突然抱きつくからだよ。・・・大丈夫ならこれで・・・」


「まっ、待って!!」


リルーナは歩き出すゼノアを追うように膝を付いたまま慌てて這いずりながらゼノアの前にでる。


「だ、だから待ってって言ってるでしょ?!」


ゼノアは呆れ顔でリルーナを見据える。


「はぁ・・・僕はあんた達のように冒険者なのに冒険者になろうとしている子達を馬鹿にしたり大人気なく張り合う人達とは話すらしたくないんだよ。」


「うぐっ・・・そ、それは・・わ、悪かったわよ・・・この通りだから・・・だから一つ教えて欲しいのよ!」


リルーナが頭を下げるが間髪入れずにゼノアが口を開く。


「内緒です。」


「へっ?!な、何よ!!まだ何も言ってないじゃない!!」


「僕はじいじ達から僕に関する個人情報はよっぽど信用できる人以外には話さないように言われているんだよ。それに学院長からも許可なく魔法を使う事を禁止されたしね。もしそれ以外なら一つだけ聞いてあげるよ。」


リルーナは出鼻を挫かれ言葉に詰まった。


(こ、この子・・本当に七歳なの?!で、でも・・・)


「・・・た、確かに君の個人情報になるわ・・・だけど!私は君の力に賭けるしかないの!君は・・・〈聖魔法〉を使えるわよね?」


(・・・気付かれたか・・・何か理由があるみたいだけど・・ゴルじいからは僕のを利用しようと寄って来る奴、特に女には気を付けろって言われてるし・・・)


ゼノアの脳裏にゴルドの言葉が蘇る。


『いいか?お前の力に気付いて寄ってくる奴は相手にするな。特に女は要注意だ。あの手この手でお前を誘惑して来る。そこで一度でも力の一端でも見せれば・・・それをネタに脅迫されて好きなように使われるんだ。いいか?忘れるなよ?おっぱいには気をつけろ!』


(おっぱいには気を付けろ・・・)


しかし思わずリルーナの胸元に目が行ってしまう・・・


(・・・へー・・着痩せする方か・・・はっ!だ、駄目だ!駄目だ!こ、これがゴルじいの言っていた”あの手この手”か!ふう・・危ない所だった・・・その手には乗らないぞ・・・)


「・・・な、内緒です。」


ゼノアは緩みそうになった表情を引き締めて目を逸らす・・・


(・・・あれ?今・・顔が緩んだ・・・?)


リルーナは交渉の糸口を見つけたように今さっきの状況を冷静に思い出す・・・


(・・・さっきのこの子の目線・・・もしかして・・・よし・・・)


リルーナは表情を崩さずゼノアに真剣な眼差しを向けながら胸元を強調するように床に両手を付く。


「お願い・・・話を聞いて!ねっ?」


(・・・おっふ・・・くっ・・ひ、卑怯な・・だ、だけど・・・い、いや・・・だ、駄目だ・・・)


「・・・な、なな・・内緒です・・・」


目を逸らすがチラチラと見てしまうゼノアを見てリルーナは確信する・・・


(・・・ふふっ・・・やっぱり・・・ちゃんと男の子なんだ・・・それなら・・・)


リルーナはトドメとばかりにそっとゼノアを両手で包み込み自分の胸に収める・・・


「えっ・・ちょっ・・・」


(おっふ・・・こ、これは中々・・・)


「お願い・・・私の妹を・・・助けて・・・」


(・・・い、妹・・?それにこの人・・・)


ゼノアは一瞬リルーナの言葉が心からの悲痛な願いに聞こえた。


(・・・妹か・・ま、まぁ・・・話ぐらい聞いてもいいかな・・・)

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