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第61話 聖魔法の理

ゼノアは再び学院長室に呼ばれ机越しに真顔で見つめるサーメリアの前に立っていた。


「・・・はぁ・・ゼノア君。私の記憶が正しければ・・君は目立ちたくないから皆と一緒に実力測定をしたいと言ってたと思うのだけど・・・?」


「・・・はい。」


(うわ・・・目が怒ってる・・・魔力を滲ませて怒ってる・・・)


「・・・で、どうだったのかしら?施設の壁に穴を開けて・・・外壁に貴重な打撃マットと冒険者を埋め込み・・・更には世界で数人しか使えない無属性魔法で学院の敷地を抉り取り魔力測定器を粉砕・・・そして外壁の一部を削り取った・・・・・これはゼノア君にとって・・・目立ってないの・・か・し・ら?」


サーメリアの口調が段々と凄みを増して行く・・・


(うぅ・・・完全に怒ってる・・・)


「・・・ご、ごめんなさい・・・」


ゼノアは首をすくめサーメリアを真っ直ぐ見る事が出来ずにいた・・・サーメリアは暫く目を細めてゼノアを見ると肩を落としてため息を付く。


「はぁ・・・もういいわ。だけど今後ゼノア君は学院内での攻撃魔法は禁止です。」


「えっ?!き、禁止?!」


「当然です!!幸い今回は怪我人がいなかったから良かったものの、私の魔法結界を最も簡単に打ち抜く魔法を学院内で頻繁に使えば怪我人どころか死人が出るわ!だから私の許可無しに攻撃魔法の使用は禁止です。」


「・・・は、はい。」


ゼノアは下唇を突き出し渋々頷く。


(攻撃魔法が禁止か・・・はぁ・・仕方ない・・・攻撃魔法が駄目なら聖魔法は使っても大丈夫だよね・・・)


「それと・・・聖魔法も私の許可無しに使用を禁止します。」


「う、うえっ?!ど、どうして?!」


ゼノアの心を見透かされたように追い討ちを掛けられる。


「ゼノア君。君は知らないだろうけどこの世界では聖魔法は人の命に関わるとても希少で貴重な魔法なの。今、私が知る中ではこの国で聖魔法を使えるのは聖教会のシュルメール教皇とリズナ枢機卿だけよ。そして聖教会で聖魔法を受けるには多額のお布施が必要なの。この意味は分かるわよね?」


ゼノアはサーメリアの言っている事を段々と理解する。まず平民は多額のお布施を払えずに聖教会の治療は受けられない。もしこの学園に聖魔法を使える者が居ると知れば学園に聖魔法を目的に人が殺到する。そしてその事態を面白く思わないのは聖教会である。なんらかの聖教会からの接触があるのは確実である。


「・・・そ、そうだったんですね。そういう事なら・・・あっ・・・」


サーメリアは何かに気付いたように口を継ぐんだゼノアに目を細める。


「ゼノア君・・・まさか・・聖魔法を使ったの?!」


ゼノアはもじもじと目を逸らしながら口を開く。


「・・・は、はい。ここに来た時に怪我をしたナリアちゃんと吹き飛ばした冒険者の女の人に・・・で、でも詠唱はしてないから聖魔法とは気付いてないかも・・・」


「・・・はぁ・・そう・・詠唱してないなら・・・んっ?!」


サーメリアは口を開きかけゼノアの言葉を頭の中で反復する・・・


ガタンッ!!


サーメリアが机に両手を起き乗り出すとゼノアはビックリして後ずさる。


「ええっ?!な、何ですか?!」


「せ、聖魔法の詠唱をしてない?!?!」


「えっ・・・あっ・・は、はい・・・な、何か・・駄目なんですか?」


サーメリアはそのまま机を離れてゼノア前に立つとわなわなと震えながらゼノアを見下ろす。


「そ、そ、そんな・・・ど、どうして・・・聖魔法だけは神に捧げる詠唱が絶対に必要な筈・・・それを・・・無詠唱・・・あり得ない・・・」


「えっ・・・何?ぼ、僕・・何か悪い事言った?」


立ち尽くして焦点が合っていないサーメリアの姿を訳も分からず見上げる。


(な、何故?ユフィリアさんも普通に無詠唱で魔法を使っていたよね・・・確かに詠唱する人もいるけど・・・あれはかっこいいからじゃないの?)


この世界では聖魔法は特別な属性であった。例えば基本の火、水、地、風の四属性は術者のイメージを魔力に変換して具現化する。そして詠唱する事によりそのイメージを明確にするのである。その為に研鑽を積めば詠唱をせずにイメージのみで魔法を具現化するのは可能なのである。しかし聖魔法は神の力を借りるのである。神に詠唱にて懇願し魔力を対価に魔法を発現するのが聖魔法の理なのである。


サーメリアはゆっくりとしゃがみ興味津々の眼差しをゼノアに向ける。


「・・・ゼノア君・・・いい?聖魔法を無詠唱で使えるって事は神の力を自由に使えるって事なの。君は一体何者なの?ユフィリアさんの手紙には私と同じ〈魔力創造〉と〈聖魔法〉を使い規格外の身体能力の少年だとしか書かれていなかった。その他は個人情報だから本人に聞けと書かれていたわ・・・ゼノア君・・もう一度聞くわよ・・・君は何者なの?」


口元に薄らと笑みを浮かべてサーメリアがゼノアの目を真っ直ぐ見つめる。その瞳は約300年もの間、魔法の研鑽を重ね魔法の理を極めた者が新しい理に出会った喜びに満ちていた。


(うぁ・・・ユフィリアさんと同じ目をしてる・・・この目をする人達はちょっと・・・)


ゼノアは徐に目を逸らす。


「・・・えっと・・・内緒です。」


「へっ・・・?!な、内緒・・・」


サーメリアは耳を疑い一瞬固まる・・・そしてゼノア言葉を頭の中で反復する・・・


「どぉうえぇぇぇぇぇ!!!な、何でぇぇぇぇ!!どぅおぉぉぉしてぇぇぇぇぇ!!嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌よぉぉぉぉぉぉ!!おーしーえーてーよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


サーメリアは恥じらいも無く儘を言う子供のように喚きながら床に仰向けになり手足をジタバタとばたつかせていた・・・


(う、うわ・・・英雄サーメリアさん・・・こ、こんな感じの人だったんだ・・・なんか・・そ、想像と違う・・・)


ゼノアは英雄サーメリアに抱いていた強く厳格なイメージを一気に打ち砕かれジタバタと転げ回る英雄サーメリアを呆然と見つめていた。


(・・・こ、このままここに居ても・・・よし・・帰ろう。)


ゼノアはそっと踵を返して扉へ向かうといきなり身体に腕を回される。


「うえっ?!な、なに?!」


見ればゼノアの身体に両腕を絡ませうつ伏せで上目遣いの英雄サーメリアの姿があった・・・


「だめぇぇぇぇぇぇぇ!!行っちゃやだぁぁぁぁぁぁ!!おねがいぃぃぃぃ!!そ、そう!

ちょっと!ちょっとだけぇぇぇぇぇ!!ヒ、ヒントだけでもいいからぁぁぁぁぁ!!!ねっ?ゼノア君!!!おねがぁぁぁぁい!!ねっ?ねっ?ねっ?」


(うくっ・・・この執念・・・ユフィリアさんの上を行くよ・・・でも駄目だ・・ゴルじい達にも言ってないんだから・・・)


「個人情報だから・・な・い・しょ・です・・・」


ゼノは構わずサーメリアを引き摺りながら扉へ向かう。


ずりっ・・・ずりっ・・・


「いやぁぁぁぁぁん!!!」


すると部屋の扉が勢いよく開かれラミリアが飛び込んで来た。


「学院長ーー!!!どうされましたか?!」


「あっ・・へっ?!」


ゼノアが振り向くと既にサーメリアは立ち上がっていた。そして腕組みをしてすまし顔を決めていた。


「ラミリアさん。騒々しいですよ。何でもありません。」


何事も無かったような空気にラミリアが辺りを見渡す・・・


「えっ・・・あっ・・も、申し訳ありません・・・」


「私はもう少しゼノア君と・・・」


(げっ!!まずい!!)


ゼノアはサーメリアの獲物を狙うような目を見て咄嗟に部屋の扉まで加速する。


ひゅん・・・


(え・・・あ・・・)


「学院長!これで失礼しまーーす!!それじゃあ!!」


ゼノアは間髪入れずに深々と礼をするとラミリアの脇をすり抜け部屋を出て行った・・・


(ふぅ・・・助かった・・・次からは学院長と二人きりになるのはやめよう・・・)


(あうぅ・・・逃げられたわ・・・で、でも諦めないわ・・・神の力を自由に使える少年・・・興味を唆るわ・・・)


サーメリアの口元が無意識に歪むのであった・・・

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