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第58話 実力測定 2

ゼノアはラミリアに連れられ部屋に入るといきなり不機嫌そうな声が響いていた。


「どうせ大した事ないんだからさっさとしなさいよ!!だから子供なんて嫌いなのよ!!全く・・・」


見ると天井から吊り下げられたグレーの縦長の長方形のマットのような物に寄りかかり紫髪の女が腕を組み悪態をついていた。


「カミラさん!真面目に仕事をしてください!これも立派な冒険者ギルドへの依頼なんですよ?!あまりにも不真面目なら依頼失敗と報告する事になりますよ!!」


担当職員のマリーナがカミラの態度の悪さに嫌気がさして声を荒げていた。


「ちっ・・・はいはい・・分かりましたよ・・・やればいいんでしょ・・・」


カミラは気怠そうに肩をすくめると後頭部を掻きながら子供達を冷めた目で眺める。


「ほら!ぐずぐずしないで早く来なさいよ!」


カミラが吊り下げられたマットを後ろから両手で支える。すると子供達が次々と辿々しい体捌きでマットに拳や蹴りを当てて行く。


「たぁーー!」

ぽすっ・・・

「やーー!」

とすっ・・・

「えいっ!」

ぱすっ・・・


子供達がマットに拳打や蹴りを放つがマットはびくともしなかった。しかし担当職員のマリーナは子供好きなのかそんな光景を微笑ましく見ていた。だがカミラは軽く首を横に振りながら怪訝そうな表情で子供達を見ている。


(はぁ・・・このガキ共はこの程度で冒険者?全く・・・)



(なんだか雰囲気が悪いね・・・パーティーは似た者が集まるって言うけど・・・あの人もさっきの男の人の仲間かな・・・)


「あの・・・あれは何をしているんですか?」


ゼノアがラミリアを見上げる。


「えぇ。あれは瞬発力と攻撃力を測定する打撃測定マットよ。三メートル離れた位置から踏み出してあのグレーのマットを叩くの。あのマットはある一定の力が加わると一瞬だけ5段階に色が変わるようになっているからそれで判断しているのよ。」


「へーー・・そうなんですか・・・面白そうですね!」


ゼノアがラミリアに連れられて子供達が並ぶ列に近付くと聞き覚えのある声がする。


「あっ!ゼノア君!!こっち!こっち!!」


「ん?」


名前を呼ばれて声がする方を見ると列の最後尾から笑顔で手を振る女の子がいた。


「あっ!ナリアちゃん!」


ゼノアはこの学院に来て唯一の顔見知りになったナリアにテンションが上がり駆け寄る。


「ゼノア君。遅いよーー!どこに行ってたの?」


「う、うん。学院長に呼ばれて・・・挨拶して来たんだ・・・」


(やっぱり・・・学院長が呼ぶ程の人って事よね・・・)


「・・・ねえ・・・ゼノア君って・・・」


ナリアが自分の考えを確かめるように上目遣いでゼノアの顔を覗きんだその時、再び耳障りな声が部屋に響き渡る。


「あーーっ!!やめやめっ!!全く!あんたらやる気あんの?!その程度で冒険者になる?!冒険者はなりたいからなれるもんじゃないのよ!!こっちは忙しいのに来てやってるのよ?!馬鹿じゃないの?!こんなマット一つ光らない奴はさっさと家に帰って違う仕事でも探しな!!」


カミラはマットの前に立ち子供達を指差すと罵詈雑言を浴びせ掛けた。子供達は突然の事で萎縮し固まっていた。


「カミラさん!!子供達になんて事を!!」


マリーナがカミラに駆け寄ろうとすると一人の男の子が立ち上がる。


「おい!お前!!」


マリーナは驚き足を止めて振り返ると身なりの良い男の子が立ち上がりカミラに指を指していた。


「何を偉そうに!!このレザンバード伯爵家三男ロナード・ザンバード様が冒険者を目指すと決めたんだ!!お前のようにBランクの底辺で燻ってるような中途半端な冒険者にとやかく言われる筋合いはない!!ふん!!大方ギルドの依頼を失敗してペナルティーでここに来たんだろう?!はん!!ギルドもお前のような冒険者にはなるなって教訓の為に送り込んだんだろうぜ!!」


(・・・あ・・あいつは入口で会った・・)


(う、うん・・・さすが伯爵家・・同じ年とは思えないぐらいに煽るのが上手ね・・・)



「ぐぎぎぎぎぃぃぃ・・・い、言わせておけばぁぁぁ!!この生意気なくそガキがぁぁ!!」


カミラは七歳の子供に痛いほど図星を突かれ歯が折れんばかりに歯軋りを響かせる。


「・・・ぐぐっ・・言ってくれるじゃない・・・そ、そこまで言うならお前の実力を見せて見なさいよ!」


カミラは怒りを押し殺して女性の表情とは思えない程の卑屈な笑いを浮かべると吊り下げられたマットを後ろから両手で支えた。


「はん!言われなくても俺様の力を見せてやるぜ!しっかり持ってろよ!冒険者のおばさん!」


「おっ・・・おばさん?!」


ざんっ!!


ロナードは床を蹴り抜き他の子供達とは一画を置いた動きを見せるとマット目掛けて拳を振り上げる!


(は、速い・・恵まれた称号かスキル持ち・・・ちっ・・ふざけるな!!これでも喰らえ!)


カミラはニヤリと悪い笑みを浮かべると事もあろうに吊り下げられたマットをロナードに向かって蹴り飛ばす!


どかっ!!


ぐきぃっ!!


「ぶべぇぇぇぇ!!」


打撃のタイミングをずらされたロナードは手首をあらぬ方向に曲げ衝撃で数メートル飛ばされた


ずざざぁぁぁ!!


「う、うがぁぁぁ・・・手、手がぁぁ・・・」


「ふん!!ざまぁ見なさい!!馬鹿じゃないの?!敵がただ突っ立ってるとは限らないのよ!!冒険者を舐めてるからそんな事になるのよ!!いい気味だわぁぁぁ!!!あーーっはっはっはっはぁぁぁぁ!!!・・・それと言っておくけど、こ、ここは学院内。何が起きても貴族も平民も関係ないのを忘れないでよね!くっくっく・・・」


カミラは床に疼くまり激痛にのたうち回るロナードをいやらしい笑みを浮かべて見下ろす。


「あ、貴女って人はぁぁぁ!!もう依頼は失敗です!!!冒険者ギルドには抗議の文書を送りますから覚悟してください!!」


マリーナも感情を剥き出しにして抗議するがカミラは気にも止めずに言葉を荒げる!


「あーーーっ!!!もう好きにしなさいよ!!こんなくそガキ共の相手なんかしてられないのよ!!何が人の役に立ちたいよ!大切な人を護りたいよ!!綺麗事ばっかり並べてんじゃないわよ!!冒険者なんて国に認められて庇護されて左団扇で生きる為にやってるのよ!!それが全てよ!!綺麗事でやってるんじゃないのよ!!ばっかじゃないの!!」


カミラ自身が感情を剥き出しにして本音をぶち撒ける。カミラ自身がAランク冒険者への壁に阻まれ先に行けない苛立ちが爆発した瞬間であった。


「綺麗事の何がいけないんだぁぁぁぁ!!!」


突然広い部屋の中にカミラの感情をも素に戻すような怒気が籠った声が部屋全体に響き渡る・・・


「な、なに・・・」


カミラは我に返り背筋に寒気を感じた。


「ど、どうしたの・・ゼ、ゼノアく・・・ん?」


ナリアは全身から殺気にも似たオーラを立ち昇らせ目が座ったゼノアに動揺する。


「え・・あ・・・あの子は・・・」


「ふっ・・あの子がゼノア君よ。」


マリーナもただならぬゼノアの姿に言葉を失っていた。するといつの間にかラミリアが横に並んで立っていた。


「えっ?!副学院長!?・・・あ、あの子が・・・魔族スタンピードの功労者・・・」


「そうよ。・・・見ていなさい。ゼノア君の実力を知るいい機会よ。」


「・・は、はい。分かりました。」


ラミリアはマリーナに軽く微笑むと目を細めて事の成り行きを見守るのだった。


「・・・おい・・貧乳おばさん・・綺麗事の何がいけない?冒険者が弱い者を護って何が悪い!!困っている人を助けて何が悪いんだぁぁぁ!!あんたは自分の胸と一緒で冒険者としても薄っぺらいんだよ!!」


(・・・ゼ、ゼノア君・・・や、やっぱり・・おっぱいなんだ・・・)


ナリアはゼノアの怒気に押されながらも自分の胸を押さえてゼノアの本質に気づくのであった。


(ひ、貧乳・・・くっ・・こ、このガキ・・気にしている事を・・・そ、それにしてもこの威圧感・・・ちっ・・ガ、ガキの癖に・・・ふ、ふん・・だけど所詮は七歳のガキよ・・・)


カミラはありったけの意地を注ぎ込み自分を奮い立たせる。


「ふ、ふん!!な、何を生意気な!!言った通りよ!!冒険者なんて国に認められてなんぼなのよ!!そのついでで誰かを助けるかも知れないし護るかも知れない!!それは全て自分の手柄よ!!称号やスキルがしょぼい奴なんて冒険者なんて無理なのよ!!どんなに綺麗事並べたって無理なものは無理なのよぉぉぉ!!ガキは綺麗事が大好きよねぇぇ!!残念ながら冒険者なんでそんなものよぉぉぉ!!なんなら見せて見なさいよ!!お前の言う綺麗事の力を!!」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!これ以上冒険者を馬鹿にするなぁぁぁぁ!!!」


どばぁぁん!!


ゼノアは怒りに任せて強化された床板を踏み割ると吊り下げられたマット目掛けて弾丸のように飛び出す!


「う、うひっ!!こ、こいつ・・・や、やばい!!」


カミラは途轍もない力を放ちながら迫るゼノアに恐怖を覚えた。そして咄嗟にマットの後ろに身を隠す。カミラ自身も恵まれた称号やスキルを持つ者の不公平な強さと怖さを知っているのだ。


「忘れているなら教えてあげるよ!!全ての冒険者の始まりはぁぁぁ!綺麗事から始まるんだぁぁぁぁぁ!!!」


どばきぃぃぃ!!


ゼノアがマットの前で踏み込むと床板がすり鉢状に割れる!!そして身体を捻り渾身の蹴りを吊り下げられたマットに叩き込む!!


「うりぁぁぁぁ!!!」


ずどぼぉぉぉぉぉ!!!


ビキィィン・・ビキビキッ・・・バキィィィィン!!


「ぴぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


吊り下げられたマットの金具がゼノアの蹴りの衝撃に耐えきず千切れ飛ぶ!そして金色に輝くマットの後ろに隠れたカミラ諸共もの凄い勢いで吹き飛んで行った!!


「ぶきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


どがばぁぁぁぁぁん!!


カミラはマットに張り付きながら部屋の壁に激突するとそのまま部屋の壁を突き破り学院の外壁目掛けて更に飛んで行く!!


「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ずどぉぉぉぉぉん・・・・


「ぶびっ・・・」


カミラはマットこと学院の外壁に激突しめり込んで止まった・・・外では魔力の実力測定をしていた子供達や大人達が驚き唖然としていた・・・部屋の中でもラミリアを始め間近で見ていた者達が口を開けたまま顔を引き攣らせていた・・・


「・・・ゼ、ゼノア君・・・す、凄い・・・凄いよぉぉーー!!!」


ナリアが自分の事のようにはしゃぎゼノアに駆け寄る!!


「・・・ば、馬鹿な・・・あ、あいつは・・・さっきの奴か・・・くっ・・も、もしあの時反撃されていたら・・・ごくっ・・・」


ロナードは生唾を飲み込み背中に寒気を感じる。


「・・・う、嘘・・・対物理結界が付与された壁を・・・破壊?!それも間接的に?!ふ、副学院長・・・あ、あの子は・・・実力測定なんてしなくても良いのでは・・・?」


マリーナがブリキ人形のようにぎこちなくラミリアを見る。


「・・・え、えぇ・・・学院長も私も・・そう思うのだけど・・・本人のたっての願いで目立ちたくないから皆んなと一緒に・・・だそうよ。」


ラミリアも動揺する内心を平静を装いながら口を開く。


「は、はい?!いやいや!逆に目立っているように・・・」


ラミリアはマリーナの言葉を遮りゆっくり首を横に振る。


「マリーナさん。皆まで言わないで・・・さっきも同じやり取りをマリスさんとして来たわ・・・ふっ・・それにしても打撃測定マットが金色に輝いていたけど・・・一番は赤だったはずですが・・・」


「は、はい・・・私も初めて見たのですが・・・前任者の話によれば・・・打撃測定マットの機能が停止した時に一瞬だけ金色に輝くとか・・・」


ラミリアが一瞬固まり目を細める・・・


「・・・と言う事はゼノア君が打つ度に何かしらが壊れるって事ね・・・ふう・・ゼノア君には測定機の類は禁止しないと駄目ね・・・怪我人も出るかも知れないし・・・」


ラミリアは学院の外壁から助けられているカミラを眺めながら肩を落とすのであった・・・

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