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第53話 ロディアス商会本店

「失礼致します。身分証を拝見致します・・」


長身で気怠そうな雰囲気の若い男がユフィリアとゼノアを見下ろす。


「あーはいはい。」


ユフィリアは懐から証明書を取り出すとどうだと言わんばかりに広げて見せた。


(セルバイヤ王国・・・ユフィリア・セルバン子爵・・・ふーん・・田舎貴族か・・・ん?あの後ろのガキは・・・これには子供は娘でアメリとあるが・・・)


「セルバン子爵様。ありがとうございました。時にそのお子様は・・・」


男は怪訝な顔でゼノアを見下ろす。


「あっ。そうね・・ゼノア君。アレを見せてあげなさい。」


「うん。」


ゼノアはカバンからアルバンから貰った札と証書取り出して警備の男に見せた。


「はい。これでいい?」


ゼノアが出した札と証書を見て警備の男の表情がみるみるうちに強張って行く・・・


「はぁぁっ?!ま、まさか!!そ、その札と証書は!!あ、あり得ん!!何故こんなガキが?!」


「あんた。言葉が汚くなってるわよ。聞いてないの?それはゼノア君がセルバイヤ王国からの帰路で盗賊に襲われたアルバン・ロディアスの命を救ったお礼よ。これがあれば貴族でなくても入れるわよね?分かったらさっさと道を開けなさい!!」


ユフィリアが苛つきながら一歩前に出る。しかし警備の男はあからさまに怪訝な表情を浮かべるとゼノアの手から札と証書を奪い取った。


「よこせ!!」


「あっ!何をするの!返して!!」


「ふん!駄目だな!!お前みたいなガキが盗賊からアルバン様を守った?!馬鹿馬鹿しい!!大方アルバン様から盗んだんだろう!!はん!確認が取れるまでこれは俺が預かってやるぜ!まっ、いつ確認取れるかは分からんがなぁ!!クックックッ・・・」


男はいやらしい表情を浮かべニヤついていた。


「・・・気持ちが良いくらいのクズね・・ロディアス商会の面汚しだわ・・・あんた早くそれを返さないと大変な事になるわよ?」


ユフィリア両眉を眉間に寄せ魔力を滲ませて男を睨みつける。その迫力に押されもう一人の男が後退りそのまま下がって行く・・・


「お、おい・・お、俺は知らないぞ・・・」


「ふ、ふん!腰抜けが・・・平民のガキは入れねぇって言ってるだけだ!おら!さっさとガキは帰れ!セルバン子爵様はお買い物をお楽しみください。」


男はユフィリアに嫌味な態度で頭を下げる。


「・・・これがクズって奴か・・・アルバンさんの感謝の気持ちを踏み躙るクズ・・・許さない・・ユフィリアさん・・・こいつ・・ぶっ飛ばしていい?」


ゼノアは爆破寸前の怒りを抑えながらユフィリアを見上げる。


「・・・えぇ・・私も今そう思っていた所よ。私が許すわ・・・死なない程度にぶっ飛ばしていいわ。」


ユフィリアはゼノアに頷くと獲物を見るような目で警備の男を見据える。


ゼノアも黙って頷くと警備の男を睨みつけ腰を落とす。


「はぁ?お前が俺をぶっ飛ばすって?何を言って・・・」


「五月蝿い・・黙れ!」


ゼノアはその場で軽く跳躍しその勢いで薄ら笑う男の顎を蹴り上げる!!


「なっ?!」


ばきゃぁぁぁ!!


「えぶおぉぉぉぉ!!!」


ゼノアの一撃を喰らい男の身体は身体は仰け反り顎は粉砕される!


「あ・・あぶ・・べぶ・・・」


男は何が起こったのかも分からず身体を起こそうとするが膝に入らずに崩れ落ちる。しかし崩れ落ちる瞬間に見たものは汚物を見るような眼差しで追撃の蹴りを放つゼノアの姿であった・・・


「あ・・・う・・や、やべべ・・・」


「クズは・・大嫌いだぁぁぁぁ!!!」


ゼノアは力強く踏み込み崩れ落ちる男の胸の真ん中に渾身の蹴りを放つ!


どがぁぁぁぁぁん!!!


「ごぶうえぇぇぇぇぇ!!!」


男の鎧は胸の部分はすり鉢状に凹み胸骨を粉砕しながらぶっ飛び店の入口の柱に激突する!


どっごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!


そしてその衝撃で入口の扉が吹き飛び装飾された色とりどりの窓ガラスが粉々に粉砕された・・・


「ふう。スッキリした!」


「うはー!ぶっ飛んだわねぇ!!これで邪魔なクズが一つ消えたわね・・・」


ユフィリアはそう言いながらもう一人の警備の男に獲物を見る目で視線を移す。


「えっ・・えぇっ?!あ、あの・・そ、その・・・」


男は目を丸くして危機感を覚える。そして咄嗟に落ちている札と証書にそそくさと駆け寄り拾い上げるとゼノアの前で両膝を付き丁寧に差し出した。


「た、大変失礼致しました。ようこそロディアス商会本店へ。ごゆっくりお楽しみください。」


(あ、あれが子供の攻撃力だと?!だ、駄目だ・・・逆らったら駄目だ・・・)


男は震える身体を抑え込みぎこちない笑顔を浮かべる。


「うん。ありがとう。」


ゼノアはさっきとは打って変わりニッコリ笑って札と証書を受け取った。


「そっ!じゃあ行きましょうか!後片付けよろしくね!」


「は、はい。かしこまりました・・・」


ユフィリアとゼノアは頭を下げて固まる男の隣を何事も無かったようにすり抜けて行った。そしてその二人の背中を見つめるアルバンとキメルの姿があった。


「お、遅かったか・・・あの男冒険者ギルドから臨時で雇ったと言っていたな。」


「はい。どうしても人がおらず今日一日だけ依頼したようです。」


「はぁ。キメル。冒険者ギルドにクレームを入れて修理代を請求しておいてくれ。それとゼノア君の事を全店舗に周知徹底するんだ。」


「はい。かしこまりました。早急に全店舗に周知致します。」


(・・とは言うものの・・・あの札と証書は全店舗でゼノア君を含めても五人しか持っていない物だ。何かとトラブルの元になりそうだな・・・だがゼノア君に関しては大丈夫だと思うが・・・)


ロディアス商会にとって札と証書は特別な物なのである。身内でも本当に認められた者にしか与えられない物であり欲しがる者も少なくないのである。その為ロディアス商会でも邪な考えを持つ者がゼノアにちょっかいを掛けた時の被害を目の前の有様を見て想像すると少し不安を感じるキメルであった・・・



ユフィリアとゼノアはロディアス邸に二日滞在した。その間ユフィリアはロディアス商会本店で気の済むまで買い物(無料)を楽しんだ。容赦のないユフィリアの買い物(無料)にアルバンとキメルの笑顔が若干引き攣っていたのは言うまでもない・・・



「ゼノア様ぁ!!本当にもう帰っちゃうのぉ?!」


イリアが身体をくねらせながら唇を尖らせる。


「うん。早く帰らないと・・・ね?」


ゼノアがアルバンの顔を見て苦笑いすると少し困った顔で笑顔を返した。そして荷馬車に詰め込まれた荷物に目をやる。


(ふっ・・・確かに・・・これ以上は・・)


「う、うむ。イリア。ゼノア殿にも帰る場所があって待っている人がいるんだ。聞き分けなさい。」


「うぶぶ・・・はい。」


イリアは全力で下唇を前に突き出して頷いく。


「まあ、私はもう少しいても良かったんだけどね!ゼノア君が帰るって言うから・・・」


ユフィリアが残念そうな顔でゼノアを見下ろすと頬を膨らませたゼノアが目を細めてユフィリアを見て小声で話す。


(もう!遠慮って事を知らないんだから!無料だからってやり過ぎだよ・・・)


(え・・あぁ・・まぁ、良いじゃない!こ、これは皆の命の代償と思えば安い物じゃない!私が護衛を買って出なかったら皆んな死んでたのよ?)


(・・・そ、それは・・そうだけど・・・)


ゼノアがユフィリアの言葉に怯むと空気を変えるようにアルバンが歩み寄りゼノアの手を取る。


「ゼノア殿。気にしないで欲しい。ゼノア殿がいなければ私はこの世には居ない。勿論ユフィリア殿が護衛をしてなければ同じ事だった。今後もゼノア殿が困った事があればこのアルバン・ロディアスが全力を尽くす事を約束する。何なりとお申し付けてくれ。」


「アルバンさん・・・」


ゼノアが固まっているとキメルもゼノアの元へ歩み寄り手を重ねる。


「ゼノア殿。私も微力ながらご協力させて頂きます。御用があればお近くのロディアス商会へお越しください。」


「はい。ありがとうございます。その時がきたらよろしくお願いします。」


ゼノアが笑顔で答えるとイリアも駆け寄って来る。


「わ、私は・・今度会う時はゼノア様を喜ばせるようなばいんばいんのボインになって待ってるわ!!」


「あ・・・そ、そう・・た、楽しみにしているよ・・・」


イリアの気合いの入った目に少しぎこちない笑顔を向ける。


(そ、そんな大っぴらに言われると・・・は、

恥ずかしいな・・・)


「さあ!行くわよ!」


「うん。それじゃあ!」


ユフィリアが意気揚々と修理された馬車に乗り込む。ゼノアも後を追いアルバン達に手を振りながら馬車に乗り込んだ。


馬車が走り出しゼノアが窓から顔を出すと小さくなっていくアルバン達が手を振り続けていた。ゼノアもそれに応え姿が見えなくなるまで手を振り続けるのであった。

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