第49話 一つのミス
「妹よ!!馬車の中の男の子供を拘束しろ!!」
「えっ?!今なんて・・・」
オーレンの叫び声に似た声に皆の意識が馬車の入口に集中したその瞬間!反対側の窓ガラスが割れる音が耳の奥に刺さる!
ばりぃぃぃぃん!!
「し、しまったぁ!!!このぉぉぉ!!」
ゼノアは咄嗟に皆を守ろうといち早く振り向くが突然ゼノアの顔が柔らかい物に包まれる・・・
ぽいん・・・
「うぶっ・・・こ、これは・・・」
いつもゼノアであればこの程度の拘束ならば簡単に抜す事が出来た。しかしゼノアは抵抗する事なく侵入者に抱き抱えられ馬車の外に連れ出されて行った・・・
「ゼノア様!!」
「ゼノア様ぁぁぁ!!」
「駄目です!!イリア様!!」
イリアが叫びながらゼノアを追いかけようとするがセシーラに阻まれる。
「離して!!ゼノア様がぁ!!」
セシーラは取り乱すイリアの肩に手を置いてしゃがむとイリアの目をしっかりと見る。
「イリア様。ゼノア様なら大丈夫です。私はゼノア様の強さを知っています。きっと大丈夫です。ですからここで待ちましょう。」
イリアは自信に満ちたセシーラの目を見ておとなしくなる。
「本当?ゼノア様はそんなに強いの?」
「はい。私はゼノア様に助けて頂きましたから・・・信じて待ちましょう。」
「・・・うん。」
アルバンはそれでも不安そうなイリアの頭を撫でる。
「イリア。セシーラの言う通りだ。さっきゼノア殿は抵抗する事なく攫われた。ここで暴れれば私達に危険が及ぶと判断したからだ。外にはユフィリア殿もいる。何か考えがあるに違いない。信じるんだ。いいね?」
「・・うん・・ゼノア様を信じるわ!」
そんなアルバンの思いとは裏腹にゼノアはメーリアの胸に収まりニヤついていた。
(あう・・・つい・・あまりの心地よさに身体が動かなかった・・・うーん・・なんて恐ろしい攻撃なんだ・・・だけど・・こ、これは仕方ないんだ・・・ふんふん・・・)
(こ、この子供・・・大人し過ぎる・・・普通なら泣き叫ぶか暴れるかする筈・・・それどころか・・・笑っているようにも見える・・ぶ、不気味な子供だわ・・・)
メーリアは胸からゼノアを引き離すと顔を覗き込み首を傾げる。
(・・・へー・・意外と綺麗なお姉さん・・・)
メーリアは違和感を感じながらもゼノアを正面に向け首に腕をまわす。そしてドス黒い短剣を突き付けユフィリアの前に姿を現した。
「そこまでよ・・・」
振り向いたユフィリアはメーリアの胸に収まるゼノアを見て察する・・・
「・・・あらぁ?ゼノア君?何でそんな大人しく捕まってるのかなぁ?」
ユフィリアはジト目で口元を歪める・・・ゼノアは目を逸らし頬に冷たいものが伝う。
「あ・・こ、これには・・・タイミングや・・色々と・・あって・・」
ゼノアが言い訳をし始めるといつの間にかボロボロになったオーレンがメーリアの隣に並んでいた。
「ふっ・・よくやった妹よ・・こ、これで形勢逆転だ・・」
「兄様・・・兄様をここまで追い込むとは・・さすが元Sランク冒険者ユフィリア・・・だけど兄様。何故この子供を?」
「ふむ。妹よ・・我も油断した。さっきの男を回復させたのはこいつだ。恐らく先日のアルバン・ロディアスを回復させたのもこいつだ。・・・違うか?」
「こ、この子供が?!」
オーレンが斜に構え意味ありげにユフィリアに問いかける。
「ふーん・・まあまあ頭は回るようね・・・」
そしてユフィリアの言葉を遮るようにオーレンは続ける。
「そしてもっと言えば・・・年齢から考えるに・・こいつは大司祭メルミラの・・・孫だ。恐らく大司祭メルミラは自らが動けないか・・・この世に居ない・・我にそう思わせたのは・・この歳で回復魔法を使い四属性魔導士ユフィリアが連れ歩く程の子供・・そう考えるのが普通だろう?」
(こ、この人・・・何故それを・・・)
ゼノアは肩を跳ね上げオーレンを見上げる。
(なっ・・・この情報量でそこまで辿り着いたの・・・)
ユフィリアも内心敵ながら鋭い洞察力に驚いた。そして無意識にゆっくりとした称賛の拍手を送っていた。
パチ・・パチ・・パチ・・・
「あんた・・・敵にしておくには勿体無いわ。」
「ふっ・・最大の称賛・・感謝する。だがお前の切り札がこちらにある。・・・しかし・・この状況においても余裕があるように見える・・・これ以上奥の手があるのなら早く出した方がいいぞ?」
オーレンは自分の推理が合っていた事とユフィリアをだし抜けた事に気分を良くし妹の手前もあり優越感に浸っていた。
「流石・・兄様・・・」
メーリアは優雅にポーズを決める兄を尊敬の眼差しで見上げていた。
「ふっ・・ふふっ・・・あーっはっはっはっはぁーーー!!あんた面白いわ!!」
ユフィリアは素直にオーレンを称賛した。ユフィリア自身、頭のキレる者は嫌いじゃないのだ。そして称賛の笑いが悪巧みの笑いに変わる。
(うぇ・・・ユフィリアさんのあの顔・・・嫌な予感がする・・・)
「ふぅ・・だけど・・それとこれとは話は別・・・あんたの言う通り奥の手を見せてあげるわ・・・ふっふっふ・・・」
そう言うとユフィリアは両手を胸の前で玉を持つように構え魔力を集中し始める。すると魔力の収束により周りの大気が震え出した。
「お、おい!!な、何をしている!!こっちには人質がいるのを忘れていないか?!下手な真似をすればこいつの命はないぞ!!」
オーレンはユフィリアの予想外の行動に焦り始める。しかしユフィリアはオーレンの脅しに臆する事なくニヤリと笑う。
「ふふふ・・・いいわよ。やれるものならやってご覧なさいよ・・・」
「えぇ?!ユフィリア殿?!何を言って・・」
「こ、これは・・本当にやる気ですよ・・」
「お、お父さん!!ユフィリア様は・・一体何を言っているの?!あのままじゃゼノア様が!!」
「イ、イリア様。だ、大丈夫・・・だと思います・・・きっと・・大丈夫・・・」
馬車の中から覗いているアルバン達が不安に駆られていた。セシーラも不安を拭いきれずにイリアを抱きしめる。
(あ・・・やっぱり・・・これは・・まずいかも・・・)
「な、何?!つ、強がりを・・・わ、我等は闇の住人!ただの脅しだと思うな!!妹よ!!見せてやれ!」
「はい。兄様!ふっ・・この短刀で少しでも傷を負えば毒が回り数分で死に至るわ!!我等を甘く見たのを後悔するがいい!!」
しかしメーリアが突き付けたドス黒い刀身でゼノアに傷を付けようとするが腕がピクリとも動かない・・・
「えっ・・・んんっ・・・な、何で・・・」
「お姉さん・・・僕・・痛いのは嫌だなぁ・・・」
ゼノアの緊張感が無い声にメーリアがよく見ると短刀を持った手をゼノアがしっかりと握っていた。
「どうした!?妹よ!」
「なっ!あ、兄様!こいつ・・何かおかしい・・・こ、この力・・腕が動かない・・」
「な、何だと?!」
「ふふん・・分かり始めて来たんじゃない?あんた達は一つミスを犯したのよ。それは・・そのゼノア君を人質にしてしまった事。もし女の子の方を人質にしていれば・・私も困ったかもね・・・」
「そ、それはどう言う・・・ま、まさか・・」
オーレンは薄々気付いてしまった。ゲイブルの街の魔族によるスタンピードの功労者達の噂を・・・何故馬車にこの子供が乗っていたのかを・・・
「あらぁ?あんたならもう分かっているんじゃない?・・・仕方ないから教えてあげるわ・・今あんた達が人質と思って抱えているのはね、ゲイブルの街のスタンピードでオークジェネラルを倒し、ゴブリンキングを退け、悪魔化したミノタウロスを一撃で粉砕しさらに魔族の幹部を跡形もなく消し飛ばしたゲイブルの街最強の守護者ゼノア君よ!!あんた達がどう逆立ちしたって傷一つ付けるのは不可能よ!!あんた達は私達を襲った時点で既に詰んでいたのよ!!」
(えぇ・・・僕にそんな二つ名が付いていたの?!な、なんか恥ずかしいな・・・って・・そ、それよりその魔力・・・どうするの・・・ま、まさかだよね・・・まさかだよね・・・)
ゼノアはユフィリアの魔力の行方を想像する・・・
ユフィリアは魔力の収束を完了し手の中に今にも爆発寸前の魔力を抑え込んでいた。
「まずい!!妹よ!あいつは本気でやる気だ!!早くその危険物を離して回避を・・・」
「そ、そんな・・子供ごと?!」
ゼノアはメーリアの腕に力が入り胸の谷間に埋まる。
「ユ、ユフィリアさん!!ちょっ待って・・あうっ・・・や、柔らかい・・・い、いやそうじゃなくて・・・」
「遅い!!ゼノア君は我慢して喰らいなさい!!行けぇ!ファイヤーストーム!!!」
ぶおぉぉぉぉぉぉ!!!
「嘘ぉぉぉぉぉぉ!!!あうっ!!」
メーリアの胸の谷間に埋まりばたつくゼノアごと容赦なく放たれた大きな炎の竜巻が一瞬で三人を飲み込んて行った・・・
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」
「・・・あ・・あぁ・・ゼ、ゼノア・・様・・が・・あふっ・・・」
どさっ・・・
「イリア様?!イリア様?!」
アルバン達の驚きの声が響き渡る・・・イリアは余りのショックに気を失いその場に倒れ込むのであった・・・
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