第40話 ロディアス商会
「・・・お父さん・・・本当に良かった。」
アルバンはいつまでも胸にしがみ付いている娘の頭を優しく撫でる。
「・・・イリア・・心配かけてすまなかった。もう大丈夫だ。それより何があったのか詳しく教えてくれないか?」
「・・うん!!うんとね!あの人達がね・・・って・・あれ・・・居ない・・・」
イリアが笑顔で振り向き指を差すが既にゼノア達の姿は無く冷たい風が吹き抜けていた。
ロディアス商会。セルバイヤ王国の西に隣接するベルボア帝国帝都を拠点とする王族や貴族の御用達の商会である。その規模は各国に幾つもの支店を持ちこの世界では知らぬ者が居ないほどである。その大商会の総元締めガイア・ロディアスの息子それがアルバン・ロディアスである。今回はセルバイヤ王都支店で内部告発があり調査と原因究明の為にこの地にやって来たのだった。そしてその帰路で盗賊に襲われたのである。
アルバン達は馬車の外で状況把握と今後の動きの話し合いをしていた。
「・・・むう・・そうか。それが本当ならば私は大恩人の顔すら知らん事になる・・・キメル。その者達の詳しい特徴を教えてくれ。」
キメル・レバランス。経営はもちろん知識と共に話術に長けたロディアス商会で五本の指に入る実力者である。
「はい。まず初老の二人の剣士ですが盗賊18人をあっという間に切り捨てた手並みからすると元凄腕の冒険者と思われます。一人は貴族風でガベルと呼ばれていました。もう一人は聞き取れず、孫と思われる子供からゴルじい呼ばれていました。そして問題はその黒髪の子供です。名前はゼノアと言っていました。イリア様より見た目は若くそれでいて言動はその年とは思えない程の言葉使い、判断力、行動力を兼ね備えていました。そしてあの神の御技ごとき魔法。恐らく・・・」
キメルが言葉を止めて一つの答えを思いつく。
「・・勇者の卵・・ではないかと。」
「な、何だと?!」
「・・・勇者だって・・」
「あ、あの人類の切り札の?!」
その場にいる者達が騒つく。
「あくまで想像の話しです。しかしその場に留まらず足早にあの場から立ち去った所を見るとあまり公には出来ない事情があると見て間違いないでしょう。そして彼等が乗っていた馬車は王族が使用する馬車でした。そしてあの紋章はセルバイヤ王家のものです。セルバイヤ王都の支店に戻れば何か手掛かりがあるやもしれません。」
「ふむ・・・しかし恩人の内情を無視してはいかん。それに今は先を急がねばならん。恩人達の事は公にはせず秘密裏に調査するんだ。居どころが分かったとしても様子を見るんだ。分かったな?」
「はい。かしこまりました。」
キメルがキレ良く一礼する。するとアルバンが思い出したように口を開く。
「そういえば護衛の冒険者達は大丈夫か?」
「はい。怪我で動けないようですが命に別状はありません。確かこの先に港町がありました。そこで一旦宿を取りましょう。冒険者達の治療もそこで出来るはずです。
「うむ。それが良い。早速出発だ。」
アルバンがそう言ってコップに残った水を煽り立ちあがろうとするとアルバンの隣に座っていたイリアが服の裾を引っ張る。
「ねぇ・・・お父さん。あの子ゼノアって言うの?」
「あ、あぁ。そうみたいだな。」
イリアは俯きゼノアの眩しい笑顔を思い出す。そして決意したように木箱から降りるとアルバンの前に仁王立ちで腰に手を添えて胸を張る。
「ん?イリア・・どうした?」
アルバンは傾けたカップを置いた。
「お父さん!私、決めたわ!!」
「な、なんだ突然・・・」
「私!ゼノア様と結婚する!!!」
「ぶふぅぅぅぅ!!!!」
「げふん!げふん!!!」
「こふん!ごふん!!!」
突然のイリアの結婚宣言にその場にいる者は慌てふためき水を吹き出し咳き込むのであった・・・
・・・ここロディアス商会セルバイヤ王都支店。赤い高級な絨毯の敷かれた部屋をイラつきながら行ったり来たりし爪を噛む男がいた・・・
「ちっ・・アルバンの奴・・余計な事をするから悪いんだぞ・・・まぁ・・遅かれ早かれ消えて貰うつもりだったがな・・ククッ・・」
いやらしい笑みを浮かべた男は大きく豪華な椅子に座り身体を預けると大きなグラスに入った酒を一気に煽るのであった。
「・・・ん・・う、うん?」
ゼノアの目が薄く開くと微かに揺れる馬車に合わせてたゆんたゆんと揺れる二つの膨らみが目に映る。
メイドに膝枕をされているゼノアが目を擦りながら身体を起こした。
「おっ!起きたか!!はちゃめちゃ坊主!!」
「んん・・・」
ゼノアは寝ぼけ眼でふらふらと上半身が揺れている。
(うーん・・身体が重いし怠いし・・頭痛い・・・あっ!!)
「ゴ、ゴルじい!あの子のお父さんは?!」
「ふっ。自分の心配より他人の心配か・・・はぁ・・・あぁ無事だ。しっかりと自分の手で娘を抱きしめてたぞ。」
「・・そう・・・良かった・・・」
(・・ふっ・・お前って奴は・・・)
そしてゼノアはそのまま倒れ込みメイドの膝に頭を収める。そして目を瞑るとあの場で泣きじゃくっていた女の子の顔が頭が浮かんできた。
ゼノアは目を瞑ったまま口を開く。
「・・・ねぇ・・ゴルじい。」
「ん?なんだ?」
「・・あの女の子・・・笑ってた?」
ゴルドとガベル、メイドはゼノアの言葉に込み上げるものを抑え優しく微笑みかける。
「・・・ふっ・・あぁ・・泣きながら・・笑ってたぞ。」
「・・・そっか・・良かった・・・」
ゼノアは口元を緩せると三人に優しく見つめられ再び眠りにつくのであった。
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