第37話 心の傷の象徴
(ゼノアのあんな怯えた目・・初めて見たぜ・・・)
(・・・あぁ。盗賊に対する心の傷は思っていた以上に根深いのだろう・・・それよりこの状況をどうするかだ・・・)
「おい!!貴様等ぁぁ!!何をごちゃごちゃ言ってるんだ?!黙ってろぉぉ!!この状況が分かってんのかぁぁ?!あぁー?!早く膝を付けぇぇ!!」
ゴルドとガベル、そして操馬者の男は馬車から離れた所で6人の男達に囲まれて剣を向けられていた。ゴルドは両手を挙げながら不貞腐れた態度で腰を屈める。
「へいへい・・・分かった、分かった・・」
この時ゴルドとガベルは目で示し合い反撃に出る作戦を立てていた。二人はゆっくりと屈み踏み出そうと脚に力を込めたその時、突然馬車の中から男の悲痛な悲鳴が響き渡った。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何だぁ?!何があった?!お、おい!お前!見て来い!!」
盗賊の一人が軽く頷くと警戒しながら馬車に近づいて行く。
ゴルドとガベルは踏み留まり顔を見合わせるとふっと笑い肩の力を抜く。そのまま挙げていた腕を下げて立ち上がった。操馬者の男は膝をついたままゴルド達を不可解な顔で見上げていた。
「お、おい!!何をしている!!早く膝を付けぇぇ!!」
「・・なあ、お前らの中で家族や恋人がいる奴はいるか?」
ゴルドは男が怒鳴り声を無視して口を開く。
「な、なんだ!!何の話だ!!早く・・・」
ずどがぁぁぁぁぁん!!!
動揺する盗賊の男の言葉を遮り今度は馬車の方から破壊音が響き渡り全員の目線が馬車に集まる!!
どざざざざぁぁぁぁ・・・
ガガン・・ガラン・・・
皆が見たものは馬車の扉と共に二人の男が変わり果てた姿で地面に着地した光景であった。男二人は両腕はあらぬ方向へ曲がり顔面と胸の真ん中が拳の形に陥没していた。
「ふっ。もう心配はいらないようだな。」
「あぁ。ゼノアのやつ・・吹っ切れやがったな。」
ゴルドとガベルは肩をすくめて微笑む。
「な、何だ・・こ、これ・・・お、おい・・あ、あの馬車の中に何がいるんだ?!」
「ふん!・・あの中には俺の可愛い孫とメイドがいるだけだ!ああなりたくなかったら武器を捨て膝を付け!もし運が良けりゃあ・・・死なないかもな・・・」
盗賊達は目の前に転がる仲間に目をやると突き付けている剣を震わせながら生唾を飲み込む・・・すると盗賊の一人が馬車の入口を指差しカタカタと震えていた。
「お、おい・・・あ、ありぁ何だ・・・」
皆が男が指刺す先を見ると身体の数倍ある真っ赤な闘気に包まれ殺気を漲らせたゼノアの姿があった・・・流石のゴルドとガベルも予想を越えたゼノアの姿に顔を引き摺らせた。
「お、おいおい・・・あ、あれは・・いくら何でも吹っ切れ過ぎだろう・・・」
「あ、あぁ・・・ゼノア君は心の傷と葛藤したんだ・・その結果・・・盗賊に怒りを注ぐ事で心の傷に打ち勝った・・あの闘気はゼノア君の心の傷の深さを象徴しているんだろう・・・」
ゼノアは馬車から降りるとゴルド達を取り囲み剣を突き付けている男達を視界に捉えた。するとゼノアを包む闘気が更に激しく立ち昇る!!
「お前等ぁぁ・・・ゴルじいに何しにてんだぁぁぁぁぁぁ!!!このぉぉぉ!!ダークバインドォォォォォ!!!」
ゼノアが勢いに任せて手を翳すとゼノアの足元から漆黒の影が一瞬で広がり男達に纏わり付いた。男達は立ったまま指一本動かせず声も出せずにじわじわと締め上げられ全身の骨が悲鳴を上げる!
みしっ・・ぴきっ・・ぴしっ・・
「うぅぶぅぅっっっ!!」
「ぐぶぅぅぅぅ!!!」
「ふぐっぅぅぐぶぅぅ・・・」
そして男達の身体に限界が訪れる・・・
べきん!!べきべきっ・・・びきばきっ!!
「ぐぶべぇぇ・・・」
「がふげぇぇ・・・」
どざぁぁぁ・・・
全身から絶望的な破壊音が響き男達は命乞いも出来ないまま崩れ落ちた。
「・・・な、なあ、ガ、ガベル・・あの魔法は・・ま、まさか・・・」
「あ、あぁ・・・暗黒魔法・・魔族がよく使う魔法だ・・・だが私の記憶が正しければ・・・人間には使えない筈だ・・・」
ゴルドとガベルは顔を見合わせため息を吐く。
「はぁ・・まぁ、ゼノアだから仕方ないか・・」
「はぁ・・そうだな。だがゼノア君とは一度じっくり話す必要があるようだな・・」
「あぁ。そうだな・・・」
「ゴルじい!!ガベルさん!!」
「んお?」
気付けばいつも通りのゼノアが心配そうな顔で駆け寄って来る。
「怪我はない?大丈夫?」
「ふっ。大丈夫だ!何ともない!お前のお陰だ!」
ゴルドはいつも通りゼノアの頭をガシガシと撫でる。
「えへへぇ・・・」
「ゴルド。まだ終わりじゃない。残りの奴等を一掃するぞ!・・・おっと!その前にゼノア君に言っておく事がある。」
ガベルはゼノアの目線までしゃがむとゼノアはキョトンとする。
「な、何?」
「いいかい?さっきの魔法は人前で使っては駄目だ。詳しい事は後で話す。それと君はここでお留守番だ。メイドと運転手の人を守ってくれ。いいね?」
「・・・は、はい。分かりました。き、気を付けてください!!」
「あぁ。分かっている。」
ガベルはゼノアの頭を軽く撫でて立ち上がる。
「よし。行くぞゴルド!」
「おう!」
ゴルドとガベルは頷き合い駆け出す。ゼノアは息の合った元S級冒険者二人が颯爽と駆けていく後ろ姿を憧れを胸に眺めるのであった。
(あ、暗黒魔法・・・まさか・・この子供は・・・)
監視役である操馬者の男の頬に冷たい物が伝うのであった。
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