第35話 ベリオールの憂鬱
ゴルド達はセルバイヤ王からのちょっかいがあるかと覚悟していたが予想外に多額の褒美を渡されてゼノアの事にも殆ど触れる事なく謁見の間を後にした。ゴルドは謁見の間の大きな扉を振り返り見ると首を傾げながら歩き出す。
「なあ・・・ガベル。あの陛下が何も言ってこなかったな・・・それに陛下のあの笑顔・・・どうも気持ち悪いぜ・・・」
ゴルドがむず痒そうに頭を掻きむしる。
「ふむ。当然何か企んでいるだろう。だがゼノア君の想像以上の力を目の当たりにして慎重になったのだろうな。まあ暫くは大丈夫だろう。だが・・恐らくは監視がつくだろがな・・・」
「そうか・・・まあ、今色々考えても始まらねぇか・・・・あっ!それはそうとゼノア!さっきの模擬戦は冷やっとしたぞ!」
ゴルドは肩車をしているゼノアに声を掛ける。
「あー・・・うん。いつも〈魔力創造〉の練習でどんな物でも武器に出来ないかなぁって思って木の枝とか草を武器にしてたんだ。だから咄嗟に癖で魔力を込め過ぎちゃって・・あんな事に・・・でも〈エクストラヒール〉が間に合ってほんとに良かった・・・」
「何?!」
「何だって?!」
ゼノアが反省するように目を伏せると話を聞いていたゴルドとガベルが突然立ち止まりゼノアに振り向く。
(えっ?!何?!・・・あ・・やっぱりわざとじゃないけどベリオールさんを危険な目に遭わせちゃったからね・・・怒られるよね・・・)
びっくりしたゼノア振り返った二人に怒られると思いゴルドの肩の上で肩を窄める。
「・・・ご、ごめんなさい・・」
「い、いや・・そ、そうじゃねぇ・・・今の話・・・何処から突っ込んで良い分からねぇーが・・ゼノアお前・・・〈エクストラヒール〉を使えるのか?!」
「えっ・・・う、うん。あ、あの戦いの後〈光魔法〉と〈聖魔法〉を覚えたから・・・だから毎日練習してたら・・・使えるように・・なった・・・かな・・」
ゼノアは股の間から見上げるゴルドのジト目に耐えられず目を逸らすと正面にはガベルの興味津々な眼差しと目が合う・・・
(な、何?!この空気・・・〈エクストラヒール〉が何?!)
「え・・な、何か・・・おかしいの?」
ゼノアはゴルドとガベルを怯えた目で交互に見ると二人は顔を見合わせて呆れ顔で肩を落とす。
「はぁ・・・まあ・・ゼノアだからな・・」
「ふう・・そうだな。ゼノア君だからな・・・」
「えっ?!な、何?!どうしたの?!」
ゼノアは二人の意外な反応に戸惑っているとガベルがニッコリ笑いゼノアの頭に手を置く。
「この話はここでしては駄目だ。詳しい話しは帰りの馬車でゆっくりする事にしようか・・・」
そう言うとガベルは目線をゴルドの背後にある曲がり角に向けた。
「ふん。立ち聞きとは感心せんな!そこに隠れているのは分かっている!出て来たらどうだ?」
「えっ?!」
ゼノアとゴルドが思わず振り向くと角からバツが悪そうに普段着姿のベリオールが姿を現した・・
「・・・ど、どうも・・・た、立ち聞きするつもりは無くて・・あの・・その・・出て行くタイミングを逃してしまって・・・」
「ふん。なんだ。泣きべそベリオールか・・・」
「し、師匠!!二つ名が変わってるじゃ無いですか!!」
ベリオールがムッとした顔でここぞとばかりにこちらに向かって来た。
「わっはっは!!いい所に来たな!!お前に聞きたいことがあるんだよ!!」
ゴルドが早く来いと言わんばかりにベリオールに手招きする。
「い、一体なんですか?」
ゴルドがベリオールと強引に肩を組みニヤリと笑う。
「し、師匠!!な、何ですか?!」
「よお・・一瞬でも真っ二つになった気分はどうだったんだ?俺に教えてくれよ・・・」
(うわ・・・たまに居る凄く面倒くさい先輩みたいだ・・・)
ゼノアはゴルドの肩の上で眉を顰める。
「や、やめてください!!あの時の事を思い出すたびに胸がむず痒くなるんですから!!」
ベリオールは必死にゴルドを突き放し胸を摩るとゴルドの顔が段々と緩みだす・・
「ぷっ!!あーっはっはっ!!そうか!!むず痒くなるのか!!あはぁーー!ひぃーひぃーっ!!は、腹痛い!!」
ゴルドはベリオールの前で腹を抱えて笑い出す。
「うぐっ・・・何がそんなに面白いんですか?!そ、そんなに笑わなくても良いじゃないですか!!」
「ぷぷ・・・いやー・・近衛兵団団長様が膝から崩れ落ちる所を思い出したら・・むず痒くて崩れ落ちたって想像したら笑いが・・・くくっ!!ふぷっ・・・」
「ゴルじい!!笑い過ぎだよ!!ベリオールさんが可哀想だよ!!」
「んっ・・あ、あぁ・・そ、そうだな・・悪りぃ、悪りぃ・・・でもよぉ!貴重な体験が出来たじゃねーか!!滅多に出来る事じゃねぇーぞ!!」
「うぅ・・・もう二度と体験したくないですけどね・・・」
ベリオールが肩をすくめながらチラリとゼノアを見上げるとゼノアと目が合った。
「ベリオールさん・・ごめんなさい。ベリオールさんの鋭い剣捌きに慌ててしまって・・・」
「いや・・気を使わなくていいよ・・・この私が弱すぎたんだ・・・〈聖騎士〉の称号を得て周りからはセルバイヤ王国最強なんて言われ何処かで傲慢になっていたんだ・・・これが戦場だったら私は死んでいた・・・ゼノア君のお陰で目が覚めたよ。ありがとう。」
ベリオールは肩車されているゼノアに深々と一礼した。
「えっ・・いや・・そんな事・・・」
ゼノアは返す言葉に困った。そして押し黙り言葉を掛けるタイミングを失ってしまった。
そしてその様子を間近で見たゴルドが少し驚く。
(べ、ベリオールがあっさりと負けを認めた・・・?!いつもなら何だかんだ言い訳して再戦を申し出る奴が・・・)
ベリオールは元来負けず嫌いで通っていた。しかしあの模擬戦でベリオールの心は完全に負けを認めてしまった。どう頑張っても辿り着けない所にゼノアがいる事を理解してしまった。ベリオールは負けず嫌いが故にもう二度と戦いたくないと思ってしまったのだった。
「・・それをゼノア君に伝えたくて来たんだ・・・それじゃあ・・・また!」
ベリオールは何処か吹っ切れたような爽やかな笑顔で歩き出しさっき来た角を曲がって行った。そして曲がりきった所で一人になると立ち止まり無意識に胸に手を当てる。
「はぁ・・・〈エクストラヒール〉・・・か・・ふっ・・そんな大魔法を一人で使う化け物に勝てるわけないだろう・・・」
ベリオールは盛大なため息を吐き肩を落とすのであった。
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