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第34話 末恐ろしい5歳児

(・・落ち着いて対峙すると分かる・・・あの小さな身体から溢れる強者の佇まい・・無造作に立っているように見えて隙がない・・恐らくまだまだ力を抑えているに違いない・・・油断は禁物だ・・・)


ベリオールは心の底から湧き上がるゼノアへの興味に思わず口元が緩む。


(うわ・・あの人一人で笑ってる・・・気持ち悪る!!・・・取り敢えず鑑定・・・)


ベリオール・リバンド

Lv 56

称号 聖騎士

力   678

体力  564

素早さ 307

魔力  208


【固有スキル】〈闘気1〉〈聖剣技2〉〈見切り2〉〈腕力強化2〉


(さすが団長さん・・・頭一つ抜けているね・・・それにしても陛下に目を付けられずに認めさせるとか・・・ど、どうやって・・・うーん・・・)


ゼノアは開始線の前で無意識で考え込んでいた。しかしゼノアと対峙しているベリオールの額からは大粒の汗が流れていた。


(な、何という理想的な自然体なんだ・・・脱力しながも真っ直ぐ芯があり全身に力が漲っている・・・つ、付け入る隙が全く無い・・・い、いや!だ、駄目だ!私の任務はゼノア君の力を見極める事なんだぞ・・・行くしかない!!)


ベリオールは覚悟を決めると剣の柄を両手で絞りお手本のような中段に構えた。


「行くぞ!ゼノア君!!」


ベリオールは声を上げると同時に飛び出し流れるように木剣を振り上げ振り上げた軌道をなぞるように鋭くゼノアの脳天へと振り下ろす!!


「んあっ?!」


考え事をしていたゼノアがベリオールの声に我に返り前を見た。すると鋭く振り下ろされる木剣が目の前まで迫っていた!


「うえっ?!しまった!!!」


その瞬間、ゼノアは咄嗟に頭を下げ迫り来る木剣を躱す。それと同時右手に持った木剣をベリオールの左脇腹目掛けて振り上げた。しかしこの時思わず〈魔力創造〉で木剣を強化してしまう。いや、強化し過ぎてしまった。ゼノアの木剣は蒼白く光を放ちただの木剣が切れ味鋭い剣へと変わっていた。


(な、なにぃぃ?!)


ベリオールはゼノアへの一撃を躱されたと同時にコマ送りのように蒼白く光る剣が自分の脇腹に到達し何の抵抗も無く吸い込まれ冷たいものが身体を通過して行く感覚に襲われた。


すぱぁぁぁん・・・


(うわああぁぁっ!!!し、しまったぁぁぁ!!!)


ゼノアは訪れる筈の手ごたえが無く一瞬で自分のした事に気付いた。そして身体の底から寒気が湧き上がり咄嗟にベリオールの身体に手をかざす!


(間に合え!!〈エクストラヒール〉!!)


ゼノアの放った温かな光はまだ切られた事に気付いていないベリオールの身体に吸い込まれ血を一滴も流さず何事も無かったように傷口を塞いだ。


(な、何が・・・起こって・・)


ベリオールは目の前で起こっている事が分からず呆然と立ち尽くしていると思い出したかのようにベリオールの鎧が輪切りになり腰の辺りまでずり落ちる。


がらぁぁん・・・


「えっ?!・・・よ、鎧が・・・なんで・・」


ベリオールは輪切りになった鎧に目を落とすし冷静に目の前で起こった事を思い返した。そして冷たい汗が頬を伝い自分の胸を恐る恐る鎧の切断面に沿ってなぞる・・・


「・・・ま、まさか・・・ごくっ・・」


ベリオールは小刻みに震え生唾を飲み込みゼノアの顔を見る。


(あ・・・気付いちゃった・・・)


ゼノアは一瞬考えベリオールの顔を見上げる。そして満面の笑みを浮かべ頭に拳を軽く乗せると首を傾げた。


「・・・てへっ。」


「あふっ・・・」


どざぁぁ・・・


ベリオールはゼノアの笑顔を見ると全て悟り膝から崩れ落ちその場にへたり込むのであった。



「だ、団長!!どうしたんですか?!」


「おい。どうしたんだよ団長は・・・何があったんだよ・・・」


「わ、分からん・・・」


団員達が動揺し騒ぎながら座り込んでいるベリオールに駆け寄って行く。そしてガベルは苦笑いを浮かべるゴルドの隣に立った。


「・・・ゼノア君は無茶な事をするな・・・」


「あぁ・・・俺も一瞬肝を冷やしたぞ。多分焦って手加減が出来なかったんだろうが・・・ふっ・・・本当に無茶をしやがる・・・さて・・陛下はどう見たんだろうな・・・」


ゴルドは胸を撫で下ろしチラリと2階席から立ち上がり身を乗り出しているセルバイヤ王に視線を送るのだった。




「・・・マ、マリスよ・・・い、いま、ゼノアがやった事がどういう事か分かったか・・・?」


「・・・は、はい・・わ、私には見えませんでしたが・・な、何をしたかは想像出来ます・・・と、とんでもない事です・・・」


セルバイヤ王はゼノアの姿を捉えながら瞬きを忘れるほど目を見開き小刻み肩を震わせていた。マリス宰相も自分の胸を摩りながら微かに震えていた。


「・・・ぼ、木剣でベリオールの身体を鎧ごと斬った後・・・そ、それを一瞬で治療した・・・そ、そういう事か?」


「・・は、はい・・恐らく合っています・・・し、しかしベリオール殿の鎧はミ、ミスリル製です・・そ、それを木剣でパンでも切るように・・・それも身体ごと・・斬ったのです。私の常識ではあり得ません・・・更に驚くのは人体の切断を治療する程の回復魔法を一瞬で放った事です。普通はあれ程の魔法を放つには数十秒・・・もしくは分単位の詠唱が必要です。・・・ほ、本当に末恐ろしい5歳児です・・・」


マリス宰相はそう言うと2階の窓からゴルドの元に無邪気に駆け寄るゼノアの姿を目で追っていた。するとセルバイヤ王は窓から離れ用意されている大きな椅子に深々と身体を預ける。


どさっ・・・


「ふうぅぅぅ・・・マリスよ。ゼノアの事・・・どうしたら良いと思うか?」


セルバイヤ王が顎を摩りながらマリス宰相に目線を送るとマリスは姿勢を正し呼吸を整える。


「はい。ゼノア君は最近ゴルド殿に引き取られ暮らしているそうです。ですので刺激せずにこのまま暫くは見守る方が良いと思われます。下手に遺恨を残してあの力がこちらに向く事を考えるとその方が良いでしょう。幸いゼノア君は冒険者を目指しているそうですのでゼノア君が7歳になったら我が国の『冒険者養成学院』へ編入させるというのはどうでしょうか?」


「ふむ・・・確かにそれが良いかも知れんな・・・学校に入れば国の管理下にも置き易い・・・よし。ゲイブルの町のギルドに監視役を送り込め。人選は任せる。くれぐれも頼んだぞ!」


「はい。かしこまりました。」


マリス宰相は静かに一礼をするともう一度胸を摩りながら部屋を出て行くのであった。

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