第26話 報告
「陛下。先日領内のゲイブルの町にて魔人によるスタンピードが発生した件で詳しい事が分かりましたのでご報告致します。」
宰相のマリスが軽くため息を吐くと報告書を取り出して目を落とす。マリスは事前に報告書に目を通していた。調査に行った直属の部下に何度も話を聞き裏付けも取れているとの事である。しかしにわかには信じがたい内容に気が重かったのだ。
「うむ。確かゲイブルの町は元S級冒険者達が立ち上げた町だったな・・・それでどうなったのだ?!」
「は、はい。その前に陛下。落ち着いてお聞きください。」
「どうした改まって?良いからさっさと報告しろ!」
「は、はい・・それでは。ほ、報告書によれば・・・魔人は元S級冒険者ゴルドを始めとする町の冒険者達により撃退致しました。」
「おおう!流石現役を退いたとは言えS級冒険者であるな!」
セルバイヤ王は安堵して玉座の背もたれに身体を預ける。しかし報告書に目を落とすマリス宰相は首を傾げていた。
「マリスよ。どうした?何かあったのか?」
「い、いえ。申し訳ありません。ほ、報告を続けます。そ、そのスタンピードの戦いの中で一番の功労者と言うのが・・・うっ・・そ、その・・・ゼノアという5歳の子供という事です・・・。」
マリス宰相はセルバイヤ王の反応を覚悟しながら一気に報告書の内容を伝えた・・・すると案の定セルバイヤ王は背もたれに預けた身体を一気に前のめりに起こし目を見開いた。
「な、なんだと?!ば、馬鹿な事を言うな!S級冒険者を押し退けて5歳の子供が魔人を倒したと言うのか?!一体どうなっておるのだ!?」
「・・陛下。ですから落ち着いてください。報告書にはまだ続きが御座います。」
マリス宰相がセルバイヤ王を宥めるがマリス本人も報告書の先を読み声が震える。
「・・・陛下。こ、これから報告書を読み上げますが・・お、落ち着いて聞いてください。」
「う、うむ。わ、分かった。」
セルバイヤ王はマリス宰相の真剣な目にただ頷いた。
「それでは・・・ほ、報告書によりますと・・そのゼノアという子供は・・単身でオークジェネラルを倒しゴブリンキングを退けたそうです・・そ、その上・・・S級冒険者〈鋼の意志〉の危機を救い悪魔化したミノタウロスを一撃で撃破、そして〈鋼の意志〉と共に魔人族を撃退したとの事です・・・」
(そ、それにしても・・・これは本当に事実なのか・・・?よもやクロードの報告を疑う訳では無いが・・・)
マリス宰相も自ら読んでいて納得できる箇所が一つも無かった。当然聞いているセルバイヤ王も納得していないだろうと恐る恐る顔を上げると案の定セルバイヤ王の目尻が痙攣し今にも爆発しそうな程顔が真っ赤になっていた・・
(や、やはり・・・)
「ぬぐぐぐ・・・ば、馬鹿も休み休み言えぇぇぇぇぇ!!!この私を揶揄っておるのかぁぁぁぁぁ?!そんな5歳の子供がおるならここへ連れて来いぃぃぃ!!直ぐにだ!!早く連れて来い!!もし冗談や嘘ならただでは済まさんぞぉぉぉ!!!」
「へ、陛下!!お、落ち着いてください!!既に陛下のご命令により功労者としてここへ呼んであります!それにまだ続きがあるのです!!」
(はぁ・・直ぐ熱くなるのは何とかして欲しいものだ・・・)
「ぐっ・・・む、むう・・わ、分かった。つ、
続けろ・・」
「はい。そ、その子供は『ゲイブル人材派遣』に所属する者でした。」
「ほ、ほう。確か元S級冒険者のガベル・セルバン子爵が孤児や貴族の望まぬ子供を捨てるぐらいなら金を払ってでも引き取り独り立ち出来るように育てる施設だったな!だがな、我が国の貴族に子供を売り飛ばすようなクズはおらぬと信じておるがな!!」
マリス宰相は一瞬血の気が引くのを感じた・・・
「・・・は、はい・・た、ただ・・その・・・ゼ、ゼノアという子供は・・と、とある貴族に捨てられて売られたのです・・・」
歯切れの悪いマリス宰相の態度にセルバイヤ王は何かを察して再びこめかみを震わせる。
「・・マ、マリスよ・・まさか・・・ま、回りくどい言い方はよせ!!はっきり言ってみよ!!」
マリス宰相はその重い口を開く・・・
「・・・は、はい。そ、その貴族とは・・このセルバイヤ王国王都の・・・ミ、ミルトン・ライナード伯爵です・・・証拠の書類もここにあります・・・」
「・・・・・」
(く、来るぞ・・・)
マリス宰相は再び怒号が飛ぶだろうと肩に力を入れて構えていた。しかしいつものタイミングに怒号が飛ぶ事はなくマリス宰相が恐る恐る顔を上げると玉座の両方の肘置きを鷲掴みにし肩を震わせながら赤い闘気を立ち昇らせるセルバイヤ王の姿があった・・・
(・・・あっ・・これは・・一番まずいやつ・・・)
「・・・呼べ・・今すぐ呼べ・・奴を・・名を呼ぶのも腹立たしい・・・このセルバイヤ王の顔に泥を塗ったクズを・・・直ちに・・直ちにここへ呼べぇぇぇぇぇ!!!!!」
ずばきぁぁ!!!
セルバイヤ王は怒りのあまり闘気を解放し玉座の肘置きを握り潰す!
セルバイヤ王は気性は荒いが子供好きで有名であった。その為、ガベル・セルバン子爵が『ゲイブル人材派遣』を立ち上げる時には二言返事で承認し補助金まで出している程であった。
「おのれぇぇぇ・・・許さん・・・奴は確か二人目の子供が原因不明の病で死んだと言っておったな・・・ぬぐっ・・・儂は不憫に想い見舞金まで出してやったのだぞ?!・・・おのうをれぇぇぇ・・・この儂を謀りおって・・・この始末どうしてくれようか・・・」
「・・・へ、陛下。い、今し方ライナード伯爵の元に使いを出しました・・・恐らく時期に着くと思われます・・・」
マリス宰相はセルバイヤ王から立ち昇るレッドオーラに近寄る事が出来ずに額から大量の汗を流すのであった。
1週間前・・・
魔人マグリアルを倒したその日、ゼノアはゴルドの話から母メラリルと祖母メルミラに助けられた事を知った。ゼノアは自分の中の優しく温かい力の正体を知ったのだった。
「・・・お母さんとおばあちゃんが助けてくれたんだね・・・僕も会いたかったな・・」
コップを置きお茶に映る自分の顔を見つめる。ゴルドは口元を緩めながらゼノアの頭にに手を置いた。
「大丈夫だ。お前の中に2人は居るんだ。また会いに来るだろうよ。」
「・・うん。」
ゴルドはふっと笑い改って座り直す。そして本題を切り出す。
「・・それでよ・・ゼノア。俺はお前とこれから暮らしてぇんだ。親は違うけどよそんな事は関係ねぇ!お前は俺の孫なんだ!俺の唯一の家族なんだ!・・ゼノア・・だからこれから俺と一緒に暮らしてくれねぇか?」
ゴルドにいつもの強引さは無かった。盗賊に娘と孫を同時に奪われた日を1秒たりとも忘れた事は無かった。この手に抱く筈だった孫を毎日夢に見て夢から覚める度に拳を握り締め歯を食い縛る毎日を送っていたのだ。今ゼノアが自分の孫と知ったゴルドの姿は孫に嫌われない様に懇願するおじいちゃんであった。
「・・うん。家族は一緒に居るのが普通なんだよ・・僕も家族と呼べる人が居なかった・・生まれ一年で無能と言われここへ売られて来たんだ・・・だから僕を大切だと思ってくれるゴルドさんと僕は一緒にいたいよ!!僕も・・ゴルドさんと家族になりたい!!」
ゼノアの笑顔にゴルドの目尻に光るものが滲む。
「ゼ、ゼノアーーー!!!」
ゴルドは感極まり勢いよく立ち上がるとそのまま両手を伸ばしゼノアを抱き寄せる。
「ゼノア・・今日から俺はお前のじいちゃんだ・・・夢にまで見たじいちゃん・・こ、この手に孫を抱ける日が来るとはな・・・うくっ・・・」
ゴルドはゼノアを強く抱きしめる・・・力一杯抱き締める・・・これでもかと抱き締める・・・
「・・ゴ、ゴル・・ド・・さん・・う、うぐっ・・・お、お返しだ・・」
ゴルドの胸筋に押し付けられたゼノアも負けじとゴルドの身体にしがみ付き全力でゴルドの脇腹を締め上げる!
ミシッ・・メキメキメキッ・・・
ゴルドの脇腹がゼノアの力で悲鳴を上げる!
「ぐはぁぁぁ!!お、おめぇ!!じ、じいちゃんに何をする?!」
思わずゴルドはゼノアを離して膝を付いた。
「あはははは!!ゴルじいが締め殺す勢いで抱き締めるからだよーーー!!お返しだよ!」
ゴルドはゼノアの言葉で痛みを忘れるように動きが一瞬止まり肩を振るわす。
「ゼ、ゼノア・・お前、今・・俺の事をなんて呼んだ?」
「・・ゴルじい・・だよ・・今日から僕のおじいちゃんなんだよね?・・・駄目・・かな?」
ゴルドがゼノアの言葉を噛み締めるように頭の中で反復する。
「ふふっ・・・ゴルじい・・・ゴルじい・・か・・良いじゃねぇーか・・くくっ・・い、良いじゃねぇーかぁぁぁぁ!!ゼノアーーー!!!」
(ほら来た!)
ゼノアは再び飛び付くゴルドのタックルをひらりと躱すと家を支える大黒柱にゴルドが激突する・・
どかぁん・・・
「ごはぁぁ!!」
ゴルドが頭を摩りながら振り向く。
「・・お、おい!ゼノア!!じいじの抱擁を躱すんじゃねぇーー!!」
「あははは!!でもゴルじい!そんなタックルされたら普通の子供は死んじゃうよ?!」
しかしゴルドは鼻で笑いゼノアを見据える。
「ふん!そんなの分かってらぁ!!俺の全力を受け止められるのはお前だけなんだよ!!」
そんなゴルドを見ながらゼノアは悪い気はしなかった。これから始まる家族との生活が楽しみでしかなかった。
「・・ゴルじい・・これからよろしくお願いします。」
ゼノアが改めてゴルドに笑顔で頭を下げる。
「俺の方こそよろしく頼むぜ・・・ゼノアぁぁぁ!!!」
意表を付いて飛び付くゴルドを分かっていたかのようにひらりと躱すゼノアがいたのであった・・・
ごおぉぉん!
「ぐはぁぁぁ!!」
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