第18話 窮地
黒フードの男の子が指先に浮いた濃密な黒い魔力の塊をゲイブルの町に向けて無造作に飛ばした。
「ふふ・・・これで少しは面白くなるかな?」
ユフィリアは外壁の上から冒険者達と共に魔法を放ち続け魔撃砲との波状攻撃により魔物の数も半数以下に減っていた。しかし魔物達の中には素早さが高く魔法を避ける魔物や魔法耐性が高い魔物がおり魔法を喰らっても生傷を作りながら向かって来ていた。そして魔物達が町の外壁まで直近に迫ったその時!ユフィリアの全身に寒気が走る!!
「な、何?!この魔力は・・・普通じゃ無いわ!こ、これは・・・何かが来る!!まずいわ!!皆んな!!外壁から離れてぇぇぇ!!!」
「えっ?!どうしたんですか?!」
「いいからぁ!!早く降りるのよ!!早く!!!」
「は、はい!!!」
ユフィリアは声を張り上げ冒険者達を先頭に外壁から地上に降りる階段を駆け降りる!!それを見た男達も咄嗟に魔撃砲から飛び降り外壁から降りた瞬間であった・・・
ずっどおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
激しい爆音と共に町の中にまで砂煙が立ち込んだ。
「な、何だぁぁぁぁ!!何が起きた!!」
「皆んな無事かぁぁ!!」
「えぇ・・何とか無事よ。でも危なかったわ・・」
「親方!!こっちも無事だぁ!!」
「そうか・・なら良かったぜ。」
ゴルドとガベルは辺りを見渡しユフィリア達と男達を確認して胸を撫で下ろす。すると冒険者達が震えながら同じ方向に指を差す。
「が、外壁が・・・」
ゴルド達は砂煙が晴れ冒険者達の指差す方に振り向くとギョッとする。頑丈に設計し対魔法防御を施した外壁が約5メートルに渡り破壊されていたのだった・・・
「ば、馬鹿な・・・上級魔法ですら数発は耐える筈だぞ・・・それを一撃で破壊しただと?!」
「う、うむ・・し、信じられん・・・」
ゴルドとガベルが唖然とする中ユフィリアの檄が響く!
「ちょっと!あんた達!!ボーッとしてないで!!簡単な話でしょうが!!あの外壁を一撃で破壊する魔法を撃った奴が背後に居るって事でしょ!!そんな事より魔物が町に入って来るわよ!!」
見れば破壊された外壁から100体以上の魔物達が姿を現し町の中に雪崩れ込んで来るのだった・・・
「・・ちっ・・・随分と頑丈な壁だね・・・町の3分の1は破壊できると思ったのに・・・本当にムカつく・・・ククッ・・でも意地でも潰したくなったよ・・・」
そう言うと黒フードの男の子がその場から忽然と消えるのであった・・・
町の外壁の破壊音が町中に響き渡り住民達に緊張が走る!!
「あ、あの音は何?!シーラさん!!町の入口の方から聞こえたよ!!」
「そ、そうね・・・だ、だけどゴルドさんも領主様もいるわ。き、きっと大丈夫よ・・・」
シーラ自身も響き渡った破壊音に不安を隠せなかった。まるで自分に言い聞かせるようにゼノアの手を握っていた。
「だけど・・・今の音は普通じゃ無いわね。嫌な予感がするわ・・・」
食堂の女将ジーンがシーラの不安に追い討ちをかけるように呟くとそれが的中するかのように食堂の入口の扉が勢いよく開けられる!
ばぁぁぁぁぁん!!
「た、大変だ!!町の外壁が破られたぞ!魔物が町に雪崩れ込んで来る!絶対外に出るなよ!!」
(が、外壁が?!魔物が町へ?!じゃあ・・ゴ、ゴルドさん達は・・・)
ゼノアの胸が苦しくなる。最初に感じた胸騒ぎが現実になってしまったのだ。ゼノアの頭の中でゴルドが肩越しにニヤリと笑う姿が思い出される。
(ゴルドさん・・僕の唯一の・・家族・・)
飛び込んで来たゴルドの部下がずかざす食堂の入口を閉め肩で息をしている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
男の言葉に理解が追い付かずに皆が固まっていると眉間に皺を寄せたジーンがゴルドの部下に詰め寄る!
「ど、どういう事だい!?あの外壁が壊されたってのかい?!」
「あぁ・・・と、突然爆発が起こってあっという間に外壁が崩れていたんだ!それに壊された外壁から町へ魔物が入って来ているんだ!!親方達が戦っているけどまだ100体以上の魔物がいる!!だから今は大人しく・・・・っ?!」
ずしぃん!ずしぃん!ずしぃん・・・
ずしぃん!ずしぃん!ずしぃん・・・
「ぐろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ぶうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ゴルドの部下は激しい振動と魔物の雄叫びで言葉を詰まらせる。食堂内の皆も背筋に冷たい物を感じながらゆっくりと窓の外を見るとゴブリンやオークの上位種であるゴブリンキングとオークジェネラルが闊歩し殺気立った魔物達がが町の中を暴走していた。
(そ、そんな・・・もうこんな所まで・・ゴルドさん達が危ない!)
ゼノアは拳を握りしめる。
「ひっ!!そ、そんな・・・」
「そ、そんな・・・こ、これからどうなるの・・・」
「な、何故こんな事に・・・」
食堂内にいる客達が恐怖のあまり後退ると客の男が食堂のテーブルにぶつかり転んでしまう・・・
がたぁぁん!!
「あうっ!!!」
「あっ!馬鹿!!静かにしな・・・」
ジーンが咄嗟に転んだ男を叱責するが時既に遅かった。物音に反応して立ち止まった魔物達がゆっくりと食堂の窓を覗き込む・・・そして皆が絶句して立ち尽くしていると覗き込む魔物と目が合ってしまった・・・
(あっ・・・ま、まずい・・・)
「ぐろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ばきゃぁぁぁぁ!!!
魔物達達は獲物を見つけたとばかりに雄叫びを上げながら窓を突き破り食堂内へと飛び込んで来た!!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「に、逃げろぉぉぉぉ!!!」
「あわわわわ・・・・こ、腰が・・た、助けて・・・」
「皆んな!!こっちだよ!!厨房へ入るんだよ!!早く!!」
いち早くジーンが声を張り上げると食堂に居た客達が店の奥にある厨房へと避難する。
「ゼノアちゃん!!私達も行くわよ!」
「あっ!!駄目!!助けないと!!!」
シーラがゼノアの手を引くがゼノアはシーラの手を振り切り走り出す!
「えっ?!ゼノアちゃん?!」
ゼノアが走る方向を見れば老夫婦が腰を抜かして動けずにいた。ゼノアは老夫婦を助けるために走り出したのだ!老夫婦に大きな体を揺らしながらオークジェネラルが迫る!そして手に持った巨大な棍棒を振りかぶりそのまま老夫婦へと振り下ろした!!
「あっ!!ゼノアちゃん!!危ない!!」
「駄目ぇぇぇ!!」
「やめろぉぉぉ!!」
皆が目を覆い最悪の結果を想像する・・・しかしゼノアは諦めず老夫婦の前に滑り込んだ!
「させるもんかぁぁぁぁ!!!」
ずがぁぁぁん・・・
皆が目を伏せる中でジーンははっきりと見ていた。老夫婦に巨大な棍棒が振るわれる刹那、ゼノアが滑り込み危険度Bランクのオークジェネラルが振り下ろす棍棒を間一髪弾いて逸らしたのを・・・
(す、凄い・・ゼ、ゼノアちゃん・・・あんたは・・一体・・・)
「このぉぉぉぉ!!!ここからぁぁ!!出て行けぇぇぇぇ!!」
ゼノアは自分の何倍もの体格のオークジェネラルの攻撃を無我夢中でいなし返す刀でオークジェネラルの鳩尾に全力で蹴りを放つ!
ずぼぉぉぉっ!!!
「ぐ、ぐもっ・・・」
オークジェネラルは腹を押さえながら身体をくの字に曲げその場で膝を付く。
「さ、さあ!!今のうちに早く中へ!!」
「あ・・うぅ・・こ、腰が・・・」
「ゼノアちゃん!こっちは任せな!!さあ!行くよ!!」
ゼノアが振り向き老夫婦を見るとまだ腰が抜けて動けずにいた。すると中からジーンが飛び出しゼノアに向かって頷くと老夫婦を厨房へと引き摺り込んで行った。
(よし!ジーンさんありがとう!あとはこいつらを・・・)
「ゼノアちゃん!!危ない!!!」
一瞬油断していたゼノアはシーラの声に前を見ると膝を付きながらオークジェネラルが剛腕を振り上げ巨大な拳を放つ!!
(やばっ!!)
ずどぉぉぉぉん!!
「ぐはぁっ!!!」
オークジェネラルの巨大な拳がゼノアを捉え食堂のカウンターに叩き付けられる!!
どおぉぉぉん!!
「ぐふっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!ゼノアちゃん!!!」
シーラは慌ててゼノアの元へ行こうと厨房から飛び出す!!
「来ちゃ駄目だ!!」
シーラはゼノアの声に立ち止まりよろよろと立ち上がるゼノアを見ながら立ち尽くす。
「・・大丈夫。これくらいへっちゃらだよ。・・僕がみんなを守るから!シーラさんは中に入ってて。」
「・・で、でも・・・ゼノアちゃんばっかり傷付いて・・・私達は・・・」
シーラは頭では理解していてもどうしようもない葛藤に苛まれ動く事がで出来なかった。そして思い悩む暇さえ与えず嘲笑うかのように厨房から出てしまい立ち尽くすシーラの前にゴブリンキングが立ちはだかるのであった・・・
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