第15話 ゴルドの過去
ゼノアはアメリにゼルバン邸をの庭を案内されていた。
「アメリさん!あの小さな森は領主様が造ったんですか?」
「えぇ。あれはお父様がお母様に求婚した時の森を再現したの。お父様が初心を忘れないように造ったって言ってたわ。」
するとシーラが胸の前で手を組んでうっとりしながら頬を赤らめる。
「・・・素敵な事です。領主様は心から奥様を愛していらっしゃるのですね・・・」
そしてアメリの饒舌が続く。
「んーー・・それは少し違うかな?お母様を愛してるって所はあってるけど・・お父様はいわゆる・・来る者拒まずと言うか・・・S級冒険者の肩書きで貴族界隈ではかなりモテたのよね・・・」
アメリが全てを言わず目を伏せるとシーラも前言撤回と察する。
「男って・・・」
「そうなのよ・・・お父様は〈鋼の意志〉の四属性魔道士ユフィリアと結婚したの。それが私のお母様よ。お母様が言うには結婚してからもお父様は平民も含め節操無しに浮き名を流していたのよ・・・」
(領主様・・・何してるんだよ。き、気持ちは分からないでもないけど・・・)
「な、何故・・・?ふ、不潔・・・」
「そう思うわよね?でもね・・貴族は一夫多妻が常識なのよ。だけど当然平民だったお母様には常識ではなかったのよ・・・その時私がお腹に居たからね・・・」
「ゴクリッ・・,」
シーラが生唾を飲み込む音がした。
「・・・そ、それで・・ど、どうなったのですか?」
シーラが思わず興味に駆られて聞いてしまった・・・するとアメリがフッと笑う。
「お父様が酔った時に言ってたわ・・お母様は右手に直結1mのファイヤーボール。左手にはウォーターボールを浮かべてお父様に言ったの。”どちらか選びなさい”と・・・そしたらお父様は秒で土下座したらしいわ。その時の冷たい目で口だけで笑うお母様は魔族すら裸足で逃げる程恐ろしかったって。今でも時々夢で見るって言ってたわ。」
(怖っ!!)
ゼノアが当時の状況を想像して身震いする。
「まさに母は強しですね・・・」
シーラはまだ見ぬ伴侶を思い目を細めるのであった。
「でも、それに比べてゴルドさんは一途で理想的だったのよ・・・あっ・・こ、この話は・・・」
アメリは話の流れでゴルドの話題を出してしまい後悔したかのように言葉を詰まらせた。ゼノアはその様子を見て確信した。
(・・・やっぱりゴルドさんが塞ぎ込むような何かがあったんだ・・・)
「アメリさん。さっき領主様がゴルドさんが塞ぎ込んでいたって言ってたけど何があったんですか?」
ゼノアはゴルドの事が気になり思わず聞いてしまった。どうしてもあのゴルドが落ち込んでる姿が想像出来なかったからだ。
「・・・口止めされている訳じゃないけど・・・あまり子供に聞かせる話じゃないのよね・・・でもゴルドさんの部下の人達は知ってるからゼノア君も知っていても良いよね・・・うん。じゃあ少し長くなるからお茶でもしに街に行きましょうか。」
アメリは冒険者ギルドの大きな扉を開ける。ギルド内はゲイブルの町の近くにダンジョンが発見された為に見慣れない冒険者達で混雑していた。そして冒険者達の間をすり抜けて
併設された酒場の片隅でアメリとシーラ、ゼノアがテーブルを囲んだ。
店員が注文を取り紅茶とジョッキに入ったジュースを持って来た。
「いつもはこんなに人が居ないのに・・・まぁいいわ。話の続きをしましょうか。」
「はい。お願いします。」
ゼノアとシーラは背筋を伸ばして座り直すとアメリの顔をじっと見る。
「まずお父様と同様にゴルドさんも〈鋼の意志〉の仲間と結婚したの。それが大司祭メルミラさんよ。」
「そうだったんだ!それじゃあ結婚したから冒険者を引退したの?」
「・・・少し違うかな。今から約30年前に王都ゼルガリアで大規模なスタンピードが起こったの。それが〈王都ゼルガリアの落日〉よ。その中心的働きをしたのが〈鋼の意志〉だったのよ。」
「それは私も聞いた事あります。1000体近い魔物が王都ゼルガリアを襲った最大最悪のスタンピードですよね?」
〈王都ゼルガリアの落日〉はこの世界の大きな出来事の1つであり知らない者は居ないと言っても過言では無いのである。このスタンピードで王都ゼルガリアは多大な犠牲を払い多大な被害を出した。王都の復興には周辺諸国からの協力もあり数年で復興出来たが未だに皆の心に傷を残した出来事として語り継がれているのである。
(・・・へーー・・シーラさんも知っているのか。・・・そんな事・・僕は知らなかったな・・・)
「そうよ・・・そして〈王都ゼルガリアの落日〉で王都の外で冒険者達を導いて最後まで戦い抜いたのがゼルガリア唯一のSランクパーティー〈鋼の意志〉だったのよ。スタンピードを防ぐ為に集められた500人の冒険者の先頭に立って王都を護る為に戦い続けたの。そして戦いが終わって最後まで立っていたのは鋼のゴルド率いる〈鋼の意志〉のメンバーだけだったわ。だけどその戦いでゴルドさんは左足を失って冒険者を引退したの。そしてゴルドさんを献身的に看病していた大司祭メルミラさんと結婚したのよ。」
(・・・あの引き摺っていた左足は義足か・・その時の古傷だったのか・・・ゴルドさんは凄い人だったんだな・・・ただの乱暴なおじさんじゃなかったんだね・・・)
そしてアメリは話しのトーンを少し下げる。
「・・・だけど・・・メルミラさんは娘さんを産んだ後、産後の体力が落ちた所へ流行病に侵されて亡くなってしまったのよ・・・」
「えぇっ!!そ、そんな・・・」
シーラは俯きカップの中を見つめる。
「ゴルドさんは内心は辛かったと思うわ。だけど娘さんの前では笑顔でいたのよ・・・私も当時の事は分からないけどゴルドさんは本当に必死で娘さんを護って来たのよ。」
シーラは俯きながらカップを両手で揺らしながらゴルドの顔を思い出していた・・・
「・・ゴルドさんにそんな事があったんですね・・いつも豪快に笑っているゴルドさんしか知らないから・・・ところでで娘さんの名前はなんて言うんですか?」
シーラが何気に聞いた名をアメリは少し顔を曇らせて答えた・・
「・・・う、うん。メラリルさんよ。」
「えぇっ!?!?」
その瞬間ゼノアの身体に電撃が走ったように顔を上げる!
「ど、どうしたの?」
「えっ・・あぁ・・な、何でもないよ・・」
シーラが驚いて声を掛けるがゼノアは誤魔化すようにジョッキを煽る。
(っ?!・・い、今・・メラリル・・・って・・・ま、まさか・・・)
ゼノアには聞き覚えがあった。いやゼノアにとって忘れたくても忘れる事が出来ない名前であった・・・
(・・・お、お母さん・・・)
ゼノアは微かに震えていた。ゼノアには何故か両親の記憶がないのだ。顔もはっきりと覚えていない。しかし名前だけは知っているのだ。ゼノアはアメリの顔を見ながら口を真一文字に結ぶ。自分の両親の事が少しでも分かるかも知れないと期待するのだった。
「・・・でもね。メラリルさんはもうこの世にはいないの・・・五年前に・・盗賊に襲われて旦那様と一緒に亡くなったのよ・・」
「・・・な、なんで・・・そ、そんな・・酷い・・酷すぎるわ!!」
(・・・ま、間違いない。お母さんだ・・・)
「そうね・・・それも当時メラリルさんはセルバイヤ王国で知り合った旦那様とゴルドさんの所へ妊娠の報告に来ていたのよ。その帰りに・・・盗賊に襲われたの・・」
「う、嘘・・に、妊娠?!・・・あ、赤ちゃんが・・お腹の中に・・・そ、そんな・・・そんな・・・」
シーラが目に涙を溜めて息を詰まらせる・・
(えぇ?!あ、赤ちゃんが・・お腹の中に?!で、でも・・お、おかしい・・どうして僕の名前が出てこない?どうして・・・いや・・まさか・・・)
ゼノアは全身に寒気を感じた・・・そして恐る恐るアメリの顔を見て口を開く・・
「ア、アメリさん・・・その・・旦那様の名前は・・な、なんて言うんですか・・?」
「えっ・・・えぇ・・確かライリードさんよ。・・・そ、それよりゼノア君どうしたの?震えているの?凄い汗よ?!顔色も悪いわよ?!」
(や、やっぱり!!お、お父さんだ・・・じ、じゃあ・・ぼ、僕は・・・どこに居るんだ・・こ、この盗賊に襲われた記憶は何なんだよ!!・・・ま、待てよ・・・と、盗賊に襲われた時の僕の記憶は・・・)
アメリはジョッキの中を見つめたまま小刻みに震えているゼノアに気付き顔を覗き込むといきなりゼノアが弾けたように顔を上げる!
「あぁっ!!!」
「わっ!!ど、どうしたの?!ゼノア君?!何だか変よ?!」
アメリが声を上げるがゼノアの耳には届かない。
(・・・な、何で気付かなかったんだ・・・な、何で僕は・・・上から見ているんだ・・あり得ない・・・そう言えばアルフェリア様が言っていた・・前世は”最強で最大の宝の持ち腐れ”・・・だとすると更にその前世がある筈だ・・・わ、分かったぞ・・僕は・・僕は・・この日・・・う、産まれる前に・・・両親と一緒に死んだ・・・そして僕は”最強で最大の宝の持ち腐れ”に生まれ変わったんだ・・・)
ゼノアは今の記憶が前々世の記憶であると気付いた。両親の名は母親のお腹の中で何度も聞いた名であった。ゼノアは静かに目を閉じ自分の過去を噛み締めるのであった。
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